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2020/10/06

畔田翠山「水族志」 ワカサダヒ (キダイ)

 

(四)

ワカサダヒ 一名アハダヒ【紀州若山】レイコ【仝上】ハナオレダヒ

漳州府志閩書倶曰黃檣魚畧似棘鬣其身小而薄淡黃色冬月多ク出形狀棘鬣ニ同乄短ク薄ク紅色ニ乄黃ヲ帶尾鬣淡黃色其味「タヒ」ニ劣レリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(四)

ワカサダヒ 一名「アハダヒ」【紀州若山。】・「レイコ」【同上。】・「ハナオレダヒ」

「漳州府志」・「閩書」、倶〔とも〕に曰はく、『黃檣魚〔わうしやうぎよ〕は、畧〔ほぼ〕、棘鬣〔たひ〕に似て、其の身、小にして薄く、淡黃色』と。冬月、多く出でて、形狀、棘鬣に同じくして、短く、薄く、紅色にして黃を帶ぶ。尾鬣〔をひれ〕、淡黃色。其の味、「タヒ」に劣れり。

 

[やぶちゃん注:本文はここ。マダイに似ているが、大きくなく、側扁して薄く、体色が黄色を帯びた紅色であること、また「ハナオレダヒ」の異名を持つということは、やはりチダイのように頭部(額部)が張り出してくるということを意味していよう。マダイより味が落ちる(ということはマダイに擬えて安く作れる種でもあるということだ)そして、「レイコ」という和歌山の異名が気になる。これは、先に出した、別名「レンコダイ」でも知られる、

タイ科キダイ亜科キダイ属キダイ Dentex tumifrons

が、これらの条件をよくクリアーするのである。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のキダイによれば、体長は三十五センチメートル前後で小さいが、御覧の通り、如何にも「鯛」然自若といった雰囲気だ(魚に疎い人は「鯛でしょ」と言いそうなほど、絵にかいた鯛らしいのだ)。『楕円形で体高が高く、側扁(左右に平たい)。体色は黄色みの強い赤。黄色く太い横縞が』三『つ淡く並ぶ。大きくなると頭部が張り出してくる』とあるのでマッチングしている。「レンコ」「レンコダイ」(連子鯛)と徳島県日和佐町での地方名の採取例がある。和歌山もしっかり産地である。チダイに同じく「ハナオレ」「ハナオレダイ」(鼻折鯛)の異名もある。また、『あまり大きくならないので、婚礼などの折り詰め弁当の焼きものなどに重宝された』とし、『古くは折り詰めのタイの塩焼きは本種であった』とあって、それこそ我々庶民が普通に目にしていたのはまさにマダイでもマダイの子でもなく、圧倒的にこのキダイだったことが判明するのである。

「ワカサダヒ」「若狹鯛」だろうが、不詳。

「アハダヒ」不詳だが、これ或いは「粟鯛」で、体色が黄色を帯びるからではないかとちょっと考えた。粟を、圧倒的な日本人が想起出来なくなれば、こうした異名は消失する運命にあろうなぁなどと一人ごちたが、そうかどうかは定かではない。

「漳州府志」(しょうしゅうふし)は、原型は明代の文人で福建省漳州府龍渓県(現在の福建省竜海市)出身の張燮(ちょうしょう 一五七四年~一六四〇年)が著したものであるが、その後、各時代に改稿され、ここのそれは清乾隆帝の代に成立した現在の福建省南東部に位置する漳州市一帯の地誌を指すものと思われる。

「閩書」(びんしょ)明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。

「黃檣魚」最近、この手の漢語の魚類名を検索してがっくりくるのは、検索結果に、本文も画像も、私のブログとサイトが掛かってきちゃうという鏡返し現象の現実である。一つは、ブログの『栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 ヒメ小鯛・黄檣魚 (キグチ?)』で、今一つは、サイトの「和漢三才圖會 卷第四十九 魚類 江海有鱗魚」の「黄穡魚 はなをれだい」だ。「黃檣魚」の「黃檣」(おうしょう)は、目から鼻孔の部分と上顎の吻部が黄色く、また、背鰭に沿った背部にも三対の黄斑があることが由来で、さらにマダイ Pagrus majorに比して、成魚では鼻孔の周辺部が凹んでおり、口吻が前方に突き出た形になり、その形状が和船の帆を立てた帆柱(檣)に似ているからであろう。両書の内容は、よくキダイに一致しているとは言えるし、キダイの生息域は東シナ海大陸棚からその縁辺域にと広いから、問題ない。]

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