北原白秋 邪宗門 正規表現版 朝
朝
――汽車のなかにて――
わが友よ、はや眼(め)をさませ。
玻璃(はり)の戶にのこる灯(ひ)ゆらぎ、
夜(よ)はわかきうれひに明けぬ。
順禮はつとにめざめて
あえかなる友をかおもふ。
淸(すず)しげの髮のそよぎに
笈(おひづる)のいろもほのぼの。
わが友よ、はや眼(め)をさませ。
かなた、いま白(しら)む野のそら、
薔薇(さうび)にはほのかに薄(うす)く
堇よりやや濃(こ)きあはひ、
かのわかき瞳(ひとみ)さながら
あけぼのの夢より醒(さ)めて
わだつみはかすかに顫(ふる)ふ。