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2020/11/23

畔田翠山「水族志」 スミヤキ 烏頰魚

 

(一三)

スミヤキ 烏頰魚

按ニ異魚圖賛𨳝集曰烏頰身狹側視之則稍員厚鱗少骨多處水崖中漁人以釣得之色近黑脊上有棘鬣數十枝長二三寸或亦借此以防患者漳州府志曰烏頰興化志曰全以棘鬣但其烏頰ト云者全ク「スミヤキ」也續修臺灣府志ニ烏頰身短濶ト云者ハ「クロダヒ」也閩書ニモ烏頰魚似奇鬣而稍黑當大寒時ト云閩中海錯疏ニモ烏頰形與奇鬣相同二魚俱於隆冬大寒時取之然奇鬣之味在首トタヒト相等ク云リ「スミヤキ」ハ棘鬣ノ類ニ非ス棘鬣類ハ口中細齒並ヒ分レ生ス「スミヤキ」ハ其齒口外ニ尖出シ上下俱ニ板牙ニ乄細齒ワカレズ其鱗細ニ乄棘鬣ニ類セズ且鱗上ニ涎沫アリテ棘鬣ノ類ト大ニ異也クロダヒ【物類稱呼曰「チヌ」ト「クロダヒ」ト大同シテ小ク別也然レドモ今混シテ名ヲ呼】形狀棘鬣ニ似テ短ク濶ク口微尖リ唇厚ク棘鬣ノ如ク眼上ヨリ隆起シ鱗狀棘鬣ノ如ク遍身黑色背腹ノ鬣棘鬣ノ如ク黑色尾黑色ニ乄「タヒ」ニ乄岐ナク腹白色也大和本草曰黑ダヒ其形ハ「チヌ」ニ似テ別ナリ性味共ニ「タヒ」ニヲトルスミヤキ 一名ハス【紀州若山】シマダヒ【同上】モンパチ【勢州阿曾浦】イワシナベ【紀州熊野勢州慥抦浦】コリイヲ【伊豫西條】ワサナベ【熊野新宮田邊】コロダヒ【防州岩國】クチグロ【備州岡山】ムト【播州網干】クロイヲ【播州姫路備中玉島】タンシチ【尾州常滑】コウロウ【土佐浦戶】アサラギ【紀州熊野日置浦讚州八島】鍋ワリ【漁人云此魚冬月脂多故ニ鍋ワリト稱ス】ナ乄リ大者二三尺形狀「チヌ」ニ似テ口小ク其牙口外ニ出板牙ニ乄尖尖白色ナリ細鱗靑黑色其頰黑色此魚小ニ乄四五寸ノ者身淡藍色ニ乄背及扁ニ淡黑斑アリテ背ヨリ腹ニ至リ深黑條七八道アリ頭ノ黑條ハ眼ノ上ヨリ喉下ニ至ル頰淡紅色ヲ帶背鬣淡黑ニ乄黑斑ヲナシ脇翅淡黑ニ乄淡藍色ヲ帶腴翅本淡黑ニ乄末黑色背ノ下鬣黑色ニ乄尾上ニ當テ上下鬣相等ク截斷スルガ如シ腰下鬣黑色ニ乄背鬣ニ同乄背鬣ト相幷ヘリ尾本淡黑ニ乄藍色ヲ帶末小ク岐ヲナシテ黑色ナリ若山ノ俗此ヲ狂言袴ト云紀州田邊ニテ「米カミ」ト云其尺餘ニ及フ者身淺藍色ニ乄背腹黑斑多ク背ヨリ腹ニ至ル黑條色淺クナリ頰黑色尾淡黑端微黑色也其二尺ニ及者ハ此黑斑去大和本草曰「スミヤキ」性不好或曰其腸有大毒不可食ドロ 「スミヤキ」ノ一種也形狀「ハス」ニ似テ齒短ク眼上ヨリ背ニ至リ隆起シテ身「ハス」ヨリ扁濶也大者二三尺背淡黑色腹淡靑色細鱗アリ脇翅淡靑黃色腹下翅黑色背淺黑色淺深班ヲナス背ノ後鬣ト腰下鬣トノ末上下ニ相並尾上ニテ截斷カ如シ黑色也尾狀小岐ヲナスヿ「ハス」ノ如シ五六寸ノ者ハ背ヨリ腹ニ至テ黑條七ツアリ其條モ「ハス」ヨリ太シ形狀ハ「ハス」ニ同乄剛シ紀州海士郡田納浦漁人皆云「ハス」ト「ドロ」トハ異也「ハス」ハ身狹ク頭低ク口細ク濶ク張テ身短ク濶シ棘鬣ト赤鬃トノ分チヨリ尙其形狀ヲ異ニセリ○クロバス 一名トモヽリ【紀州九木浦漁人云イハシナベノ黑キ㸃アル者ヲトモヽリト呼】コメカミ【勢州松坂】「ハス」ニ似テ頭隆起シテ身濶也全身黑色ニ乄腹靑色ヲ帶頭黑色遍身深黑色ノ圓㸃アリ口牙皆「ハス」ニ似タリ一種斑㸃ナク全ク黑色ノ者アリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(一三)

スミヤキ 烏頰魚

按ずるに、「異魚圖賛𨳝集」に曰はく、『烏頰、身、狹〔せば〕く側〔そく〕す。之れを視るに、則ち稍〔やや〕員〔はば〕厚く、鱗、少なし。骨、多し。水の崖〔がけ〕の中に處〔を〕る。漁人、釣りを以つて、之れを得る。色、黑に近し。脊の上、棘鬣、數十枝、有り、長さ二、三寸、或いは亦、借〔か〕りに、此れを以つて患ひを防ぐ者か』と。「漳州府志」に曰はく、『烏頰、「興化志」に曰はく、「棘鬣を以つて全きとす」と』と。但だ、其の「烏頰」と云ふ者、全く「スミヤキ」なり。「續修臺灣府志」に、『烏頰、身、短くして濶〔ひろ〕し』と云ふ者は「クロダヒ」なり。「閩書」にも『烏頰魚、奇鬣〔タヒ〕に似て、稍〔やや〕黑し、大寒の時に當りて取る』と云ふ。「閩中海錯疏」にも、『烏頰、形、奇鬣と相ひ同じうして、二魚、俱〔とも〕に隆〔たか〕し。冬、大寒の時、之れを取る。然して、奇鬣の味、首〔かうべ〕に在り』と。「タヒ」と相ひ等しく云へり。

「スミヤキ」は棘鬣〔タヒ〕の類〔るゐ〕に非ず。棘鬣の類は、口中、細き齒、並び分かれ生ず。「スミヤキ」は、其の齒、口外に尖出し、上下、俱に板齒にして、細齒、わかれず。其の鱗、細かにして、棘鬣に類せず。且つ、鱗の上に涎沫〔ぜんまつ/よだれ〕ありて、棘鬣の類と、大いに異なり。

クロダヒ【「物類稱呼」に曰はく、『「チヌ」と「クロダヒ」と大いに同じくして、小さく、別なり。然れども、今、混じて名を呼ぶ』と。】形狀、棘鬣〔タヒ〕に似て、短く、濶く、口、微かに尖れり。唇、厚く、棘鬣のごとく眼上より隆起し、鱗の狀〔かたち〕、棘鬣のごとく、遍身、黑色。背・腹の鬣〔ひれ〕、棘鬣のごとく、黑色。尾、黑色にして、岐、なく、腹、白色なり。「大和本草」に曰はく、『黑ダヒ、其の形は「チヌ」に似て、別なり。性・味共に「タヒ」に、をとる。

スミヤキ 一名「ハス」【紀州若山。】・「シマダヒ」【同上。】・「モンパチ」【勢州阿曾浦。】・「イワシナベ」【紀州熊野。勢州慥抦浦〔たしからうら〕。】・「コリイヲ」【伊豫西條。】・「ワサナベ」【熊野新宮。田邊。】・「コロダヒ」【防州岩國。】・「クチグロ」【備州岡山。】・「ムト」【播州網干。】・「クロイヲ」【播州姫路。備中玉島。】・「タンシチ」【尾州常滑。】・「コウロウ」【土佐浦戶。】・「アサラギ」【紀州熊野日置浦。讚州八島。】・「鍋ワリ」【漁人云はく、「此の魚、冬月、脂、多し。故も「鍋ワリ」と稱す」と。】。「ナ乄リ」[やぶちゃん注:「ナシテリ」ではよく判らぬ。「ナベワリ」或いは後に出る「イハシナベ」の誤字か誤判読であろう。]、大なる者、二、三尺。形狀、「チヌ」に似て、口、小さく、其の牙、口外に出で、板牙にして、尖尖として、白色なり。細き鱗、靑黑色。其の頰、黑色。此の魚、小にして、四、五寸の者、身、淡藍色にして、背に及び、扁〔へん〕に淡黑の斑〔まだら〕ありて、背より腹に至り、深黑の條、七、八道、あり。頭の黑條は、眼の上より喉の下に至る。頰、淡紅色を帶ぶ。背鬣、淡黑にして黑斑をなし、脇翅〔むなびれ〕、淡黑にして、淡藍色を帶ぶ。腴翅〔はらびれ〕の本、淡黑にして、末、黑色。背の下の鬣、黑色にして尾の上に當りて、上下の鬣、相ひ等しく截斷するがごとし。腰の下の鬣、黑色にして、背鬣に同じくして、背鬣と相ひ幷〔なら〕べり。尾の本、淡黑にして藍色を帶び、末、小さく岐をなして、黑色なり。若山の俗、此れを「狂言袴〔キヤウゲンバカマ〕」と云ひ、紀州田邊にて「米〔コメ〕カミ」と云ふ。其れ、尺餘に及ぶ者、身、淺藍色にして、背・腹、黑斑多く、背より腹に至る黑條、色、淺くなり、頰、黑色。尾、淡黑、端、微黑色なり。其の二尺に及ぶ者は、此の黑斑、去る。「大和本草」に曰はく、『「スミヤキ」、性、好からず。或いは曰はく、「其の腸、大毒、有り。食ふべからず」と』と。

ドロ 「スミヤキ」の一種なり。形狀、「ハス」に似て、齒、短く、眼上より背に至り、隆起して、身、「ハス」より扁濶〔へんくわつ〕なり。大なる者、二、三尺。背、淡黑色。腹、淡靑色。細鱗あり。脇翅〔むなびれ〕、淡靑黃色。腹の下の翅、黑色。背、淺黑色、淺深の班をなす。背の後ろの鬣と、腰の下の鬣との末、上下に相ひ並び、尾の上にて截斷〔きりたつ〕がごとし。黑色なり。尾の狀、小岐をなすこと、「ハス」のごとし。五、六寸の者は、背より腹に至りて、黑條、七つ、あり。其の條も「ハス」より、太し。形狀は「ハス」に同じくして剛〔こは〕し。紀州海士郡田納浦の漁人、皆、云はく、『「ハス」と「ドロ」とは異なり。「ハス」は、身、狹く、頭〔かしら〕、低く、口、細く濶〔ひろ〕く張りて、身、短く、濶〔ひろ〕し。棘鬣と赤鬃との分〔わか〕ちより、尙ほ、其の形狀を異にせり』と。

○クロバス 一名「トモヽリ」【紀州九木浦。漁人云はく、『「イハシナベ」の黑き㸃ある者を「トモヽリ」と呼ぶ』と。】・「コメカミ」【勢州松坂。】 「ハス」に似て、頭、隆起して、身、濶なり。全身、黑色にして、腹、靑色を帶ぶ。頭、黑色。遍身、深き黑色の圓㸃あり。口牙、皆、「ハス」に似たり。一種、斑㸃なく、全く黑色の者あり。

 

[やぶちゃん注:一つ、確実に最有力候補の一種としては、

条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目スズキ亜目スズキ上科シマイサキ科 Terapontidae の類、或いはシマイサキ科シマイサキ属シマイサキ Rhyncopelate oxyhynchus

を挙げてよい。本種はイサキの名を含むが、スズキ上科イサキ科 Haemulidae とは全く無縁なので注意が必要(一部のイサキ科の類には見た目が似ているものがいることはいる)。体長は三十~四十センチメートルに達し、腹は金色で背中に墨で書いたような黒い縦縞模様が四~七筋走る。頭部から背にかけては直線的で、吻がやや突出して頭部全体が尖った感じを与える。尾鰭にも細かな薄い褐色の縦縞模様がある。これらは概ね記載と一致を見る。同種の産卵期は晩春から夏で、浅い内湾の穏やかなところを好む。危険を感じると、鰾(うきぶくろ)を使って「グーグー、ググッ、ググ」と鳴く特徴を持つ。宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)のシマイサキのページを見る(属名が「Therapon」となっているが、種小名は一致しているのでシノニムらしいが、調べても見当たらない)と、『體は長形側扁し、前端は稍尖つてゐる。背部は蒼灰色で、體側には幅廣き四條の黑褐色の縱帶と、之よりも淡い三條の點線とありて、交互に平行する。但し幼魚にはこの點列がない。下部は吟白色に少しく靑味を帶びる。奇鰭』(きき:魚類の背・腹の正中線に沿ってついている対を成さない鰭(背鰭・尻鰭・尾鰭・サケ科 Salmonidaeの類の背鰭の後ろにある脂鰭)を指す。「奇」一で奇数、体側左右に対を成す「偶鰭(ぐうき)」の反対語である)『には黑褐色の斑點を有する。體長一尺内外。近海に產し』、『五』『六月頃產卵する。普通』とあり、まず、以上の記載と比して、同一対象種を説明しているとしてよかろうか。「方言」の項に「スミヤキ」として、湯浅・田辺・周参見を挙げている。ただ、他に「シマイザサギ(白崎)」「ホラフキ(和歌山)」「シヤミセン(和歌浦)」が方言名としてあるのだが、これだけ畔田が挙げているものとその三つが全然一致しないというのは、これ、不審である。それがまた、私がこれだと同定比定出来ない理由でもある。また、宇井は同書の「イサギ」で、真正の「イサキ」である、

スズキ目スズキ亜目イサキ科コショウダイ亜科イサキ属イサキ Parapristipoma trilineatum の幼魚

を、「シマイサギ」と称することがある、と述べてもおり、魚体からは完全にその説を排除出来るとは私は思わない(排除してよいと思われる方は多かろうが)。

「異魚圖贊𨳝集」の「𨳝」は「閏」(ジュン)の誤り。「本来あるものの他にあるもの。正統でない余り物」の意。いわば、本巻に添えた「別集」の意。清の胡世安の魚譜「異魚圖贊補」の「閏集」。「漢籍リポジトリ」のこちら最初の[004-2a]から読め、原本画像も見られる。それは以下である(原本画像で自分の目で再校閲した)。

   *

  烏頰 赤鯮

二魚異産形味稍同色羣可辨或釣或罿

 烏頰身狹側視之則稍員厚鱗少骨多處水崖中漁人以釣得之色近黒脊上有刺數十枝長二三寸或亦藉此以防患者 赤鯮一名交鬛似烏頰而稍短結陣而至大小交錯因名交鬛色淺絳故又名赤

味不下烏頰黒赤之分衆寡之異小者名紅翅葢其子也

   *

「漳州府志」(しょうしゅうふし)は、原型は明代の文人で福建省漳州府龍渓県(現在の福建省竜海市)出身の張燮(ちょうしょう 一五七四年~一六四〇年)が著したものであるが、その後、各時代に改稿され、ここのそれは清乾隆帝の代に成立した現在の福建省南東部に位置する漳州市一帯の地誌を指すものと思われる。

「興化志」「興化府志」。明の呂一静らによって撰せられた現在の福建省の興化府(現在の莆田市内)地方の地誌。

「棘鬣を以つて全きとす」恐らくは背鰭の隆々たるマダイの類いを正統なタイプ種とする、という意であろう。

「續修臺灣府志」清の余文儀の撰になる台湾地誌。一七七四年刊。この「臺灣府志」は一六八五から一七六四年まで、何度も再編集が加えられた地方誌である。その書誌データは維基文庫の「臺灣府志」に詳しい。早稲田大学図書館「古典総合データベース」の巻十八PDF)の「物產二」の「蟲魚」の33コマ目の左頁七行目に、

   *

鳥頰[やぶちゃん注:ママ。]【身短濶】

   *

と確かにあった。因みに、「維基文庫」の同「臺灣府志」の「蔣志」の巻四の「麟屬」(鱗属に同じ)には、

   *

烏頰【形似過臘而小、隆冬天寒時取之。】

   *

とあった。後者の「過臘」はこれでマダイ(スズキ目タイ科マダイ亜科マダイ属マダイ Pagrus major)の漢名異名である。

「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。ネットでは電子化や画像は残念ながら、見当たらない。

「閩中海錯疏」明の屠本畯(とほんしゅん 一五四二年~一六二二年)が撰した福建省(「閩」(びん)は同省の略称)周辺の水産動物を記した博物書。一五九六年成立。中国の「維基文庫」のこちらで全文が正字で電子化されている。また、本邦の「漢籍リポジトリ」でも分割で全文が電子化されており、当該の文は「上卷」で以下(原本画像と校合した)。

   *

烏頰形與竒鬛相同二魚俱於隆冬大寒時取之然竒鬛之味在首

   *

「涎沫〔ぜんまつ/よだれ〕」粘液が纏わり付いているということであろう・

ありて、棘鬣の類と、大いに異なり。

「クロダヒ」既に「(三)」として挙がった『畔田翠山「水族志」 クロダヒ』を参照。

「物類稱呼」江戸後期の全国的規模で採集された方言辞書。越谷吾山(こしがやござん) 著。五巻。安永四(一七七五)年刊。天地・人倫・動物・生植・器用・衣食・言語の七類に分類して約五百五十語を選んで、それに対する全国各地の方言約四千語を示し、さらに古書の用例を引くなどして詳しい解説を付す。「甘鯛」は巻二の「動物」の「棘鬣魚(たひ)」の小見出しに出る。以下の引用はPDFで所持する(岡島昭浩先生の電子化画像)昭和八(一九三三)年立命館出版部刊の吉澤義則撰「校本物類稱呼 諸國方言索引」に拠った。

   *

烏頰魚  くろだひ○東部にて◦くろだひと云、畿内及中國九州四国ともに◦ちぬだひと呼。  此魚、泉州茅渟浦(ちぬのうら)より多く出るゆへ[やぶちゃん注:ママ。]「ちぬ」と號す。但し「ちぬ」と「彪魚(くろだひ)」と大に同して、小く別也。然とも今混(こん)して名を呼。又或物を◦かいずと稱す。泉州貝津邊にて是をとる。因て名とす。江戶にては芝浦に多くあり。

   *

「泉州茅渟浦」は現在の大阪湾の東部、堺市から岸和田市を経て泉南郡に至る海岸一帯(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。「泉州貝津」は不詳。「貝塚」の誤りか?

『「大和本草」に曰はく、『黑ダヒ、其の形は「チヌ」に似て、別なり。性・味共に「タヒ」に、をとる』「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」。原文はリンク先を見られたい。

   *

○海鯽(ちぬ) 「閩書」に出たり。順が「和名」に、『海鯽魚 知沼』と。鯛に似て靑黒色、好んで人糞を食ふ。故に、人、之れを賎(いや)しむ。「黑鯛」・「ひゑ鯛」も其の形は「海鯽」に似て、別なり。此の類、性・味共に、鯛にをとれり。佳品に非ず。

   *

「ハス」シマイサキの異名としては確認出来ない。しかし、これは、

スズキ亜目イシダイ科イシダイ属イシダイ Oplegnathus fasciatus

の異名としてかなり広く行われている。以下もごっそりイシダイの異名が並ぶ。さすれば、この「㋺スミヤキ」はイシダイと見た方が無難である。「バス」というのもある。

「シマダヒ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のシマイサキのページの「地方名・市場名」欄に、石川県木場潟・河北潟・今江潟での地方名として挙がる。

「モンパチ」異名として確認出来ない。

「勢州阿曾浦」三重県度会郡南伊勢町(ちょう)阿曽浦(あそうら)

「イワシナベ」イシダイの異名として確認出来る。

「勢州慥抦浦」三重県度会郡南伊勢町慥柄浦(たしからうら)

「コリイヲ」イシダイの異名として確認出来る。

「伊豫西條」愛媛県西条市

「ワサナベ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイシダイのページの「地方名・市場名」欄に「ナベッカス」を「神奈川県小田原市・二宮町」採取として挙げ、『小型で縞模様のはっきりしたもの』をかく呼び、『漢字で書くと「なべ滓」だろう。「みそっかす」の「かす」でイシダイとは言えない、数に入らないほど小さいという意味合いか。成魚(大形)を「ナベ」という地域もあり、小田原でもイシダイを「ナベ」と呼んでいたのかも』知れないとあった。他に「ナベ」もあり、これは「三重県尾鷲市・南伊勢町」とされ、「やや大型、成魚

を言い』、『漢字は「鍋」で煮るなどすると鍋をさらえるほど美味か?』とある。他にも同ページには、「アサナベ」・「アサラベ」・「ナベダイ」・「ナベワリ」・「ユワシナベ」と鍋テンコ盛り状態である。

「コロダヒ」やはり「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイシダイのページで、イシダイの異名に「コウロウ(コーロ)」(高知県室戸市三津・愛媛県宇和郡愛南町)、「コロ」(高知県宿毛市田ノ浦すくも湾漁協)の他、「チョウメンコロバ」「チョンコロバ」「コロゲ」(京都府宮津市・伊根町新井崎漁港)ともある。但し、スズキ亜目イサキ科コロダイ属コロダイ Diagramma picta という和名総本家がいるので、注意が必要だ。

「クチグロ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイシダイのページで、「クログチ」「クロクチ」を見出せ、「キチグロ」で私もイシダイの異名として知るが、これは見当たらないものの、「シマイサキ」の異名としてあっても腑には落ちるものである。

「ムト」不詳。

「播州網干」兵庫県姫路市網干(あぼし)区

「クロイヲ」同前で、三重県志摩市大王町でイシダイを「クロメ」(黒目)と呼ぶとある。これも見た目の印象的にはシマイサキでもそう呼びたくはなるだろう。

「備中玉島」岡山県倉敷市玉島

「タンシチ」似たようなイシダイの異名に「シチノジ」がある。

「尾州常滑」愛知県常滑市。焼き物ばかりで、世の中には伊勢湾に面していることを知らぬ御仁もいるので、特にリンクを配した。

「コウロウ」イシダイの異名。スズキ亜目イシダイ科イシダイ属イシガキダイ Oplegnathus punctatus の異名でもある。イシガキダイはイシダイに似るが、幼魚・若魚の体表に広く黒い不定形斑紋があること、大型になるに従って、イシダイに反して口の周りが白くなる点で区別できる。

「土佐浦戶」高知県高知市浦戸(うらど)

「アサラギ」既に示した通り、イシダイの異名に「アサラベ」がある。

「紀州熊野日置浦」和歌山県西牟婁郡白浜町日置(ひき)

「鍋ワリ」既に示した通り、イシダイの異名。

「若山」前意もそうだが、和歌山。

「狂言袴〔キヤウゲンバカマ〕」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」によれば、

スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ属マハタ Epinephelus septemfasciatus

カゴカキダイスズキ亜目カゴカキダイ科カゴカキダイ属カゴカキダイ Microcanthus strigatus(異名採集地は和歌山県湯浅・周参見・白崎)

スズキ亜目チョウチョウウオ科ハタタテダイ属ムレハタタテダイ Heniochus diphreutes

スズキ亜目チョウチョウウオ科ハタタテダイ属ハタタテダイ Heniochus acuminatus

の異名とする。個人的には、この前の記載と魚体からは、畔田が指示するのはマハタのように思われる。

「米カミ」「コメカミ」は先のイシガキダイの異名が圧倒している。

『「大和本草」に曰はく、『「スミヤキ」、性、好からず。或いは曰はく、「其の腸、大毒、有り。食ふべからず」と』と』益軒は同書の「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」で、

   *

○烏頰魚(すみやき/くろだひ[やぶちゃん注:前が右ルビ、後が左ルビ。]) 「閩書」に曰はく、『竒鬣に似て、形、稍〔(やや)〕、黒し。大寒〔(だいかん)〕の時に當り、之れを取る。性、好からず』〔と〕。或いは曰はく、其の膓、大毒有り、食ふべからず。頭、短く、口、小なり。形は鯛に似たり。此類、亦、多し。

   *

と記している。私はそこの注で、

   *

まず、これは、その叙述の内の、「性、好からず」「其の膓、大毒有り、食ふべからず」という特異な注記から、釣通に人気で美味な「くろだひ」、スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii ではなく、現在でも別名で「スミヤキダイ」と呼ぶ、

スズキ目スズキ亜目イシナギ科イシナギ属オオクチイシナギ Stereolepis doederleini

に同定比定する。本邦では各地に分布し、美味い魚であるが、肝臓には大量のビタミンAが含まれており、知っていて少しにしようと思っても、味わいがいい(私も試しに少量を食べたことがあるが、実際、非常に美味い)ため、つい、食が進んでしまうことから、急性のビタミンA過剰症(食中毒)を起こす虞れが高い。症状は激しい頭痛・嘔吐・発熱・全身性皮膚落屑(はくせつ)等であり、食後三十分から十二時間程度で発症する。私の「栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 スミヤキダイ(オオクチイシナギ)」も参照されたい。

   *

と注した。これを私は変更する意志はない。

「ドロ」『「スミヤキ」の一種なり』これは如何なる種を指しているか不詳である。識者の御教授を乞う。

「紀州海士郡田納浦」この地名では現認出来ない。思うに和歌山県和歌山市田野(たの)(グーグル・マップ・データ)のことではあるまいか。漁港名は「田ノ浦」であり、畔田が盛んに採取地として挙げる、「雜賀崎浦」と「若浦」(和歌の浦)の丁度、中間に当たる海辺に当たる。

「赤鬃」既注であるが、再掲する。「鬃」は「鬣」と同じ意。但し、これは本種として同定してよいかどうか、やや疑問がある。まず、本種チダイの分布域が問題で、現在は北海道南部以南の日本沿岸(琉球列島を除く)及び朝鮮半島南部に分布するとされるから、中国で本種を指したとは考えにくい点がまず一つ。また、調べてみたところ、中文版の「維基百科」の「赤鯮」の学名データを見ると――これ――おかしい――のである。そこでは、「赤鯮」を Dentex tumifrons とし、「異名」(この場合はシノニムとなるはず)として、Taius tumifronsChrysophrys tumifronsEvynnis tumifrons の三つの学名を置くのであるが、最後のそれは確かにチダイだが、Dentex tumifrons はチダイではなく、タイ科キダイ亜科キダイ属キダイ Dentex tumifrons で、後にあるTaius tumifronsChrysophrys tumifrons の二つのシノニムも、やはりキダイのシノニムなのである。これは、非常に悲しいことだが(私はウィキぺディアのライターでもある)、このページを書いた人物が、本邦で獲れるタイ類には詳しくなく、似たタイ科の種を同種として並べてしまった結果、とんでもないことになってしまったものと思われるのである(私はウィキペディアの致命的な誤りは通常、その場で直ちに修正するのだが、中文のそれまで直す気にはなれない。論争に展開しても中国語では話し合うことが出来ないからである)。さすれば、これは思った通りの誤認が、今も平然と行われている証左であり、ますますチダイではないという感じが確信的になってきたのである。そこでさらに調べて見たところが、台湾のサイト「宅魚」の「台灣的十大好魚(三)」に、「第七名 赤鯮」とあるのを見出した。そこには冒頭に、『赤鯮、學名為黄背牙鯛 (Dentex hypselosomus)』とあったのである。しかもこれもやはり思った通り、キダイ Dentex tumifrons のシノニムなのであった。データシステム「BISMaL」(Biological Information System for Marine Life)のこちらを見られたい。因みに、同じビスマルのチダイのツリーはここである。則ち、「赤鬃」は中国大陸沿岸には棲息しないチダイなんぞではなく、東シナ海大陸棚からその縁辺域に広く分布する「絵に書いたタイらしいタイ」であるキダイのことだということである。まんず、間違えても仕方ないかとは思うぐらい、両者は遠目にはよく似ているようには見える。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のキダイ(別名レンコダイもよく知られる)の画像を見られたい。

「クロバス」宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)のここによれば、イシガキダイを畔田翠山「水族志」では紀州九木浦でこう呼ぶ、と比定している。

「トモヽリ」宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)は、まず、ここで、田辺で、スズキ亜目イサキ科ヒゲダイ属セトダイ Hapalogenys analis を「トモモリ」呼称していることを記す。しかし、本種は素人が見ても、シマイサキにもイシガキダイにも全く似ていない。また、同書の別なところでは、田辺・白崎でスズキ目ニザダイ亜目マンジュウダイ科ツバメウオ属ツバメウオ Platax teira を「トモモリ」とするが、これも魚体が全く異なり、話にならない。なお、この名は平清盛の四男の平知盛で、平家一門の最後を看取って入水した名将由来と思われるが、魚体といい、個人的にはピンとこない、厭な異名である。

「紀州九木浦」現在の三重県尾鷲市九鬼町(くきちょう)か。

「コメカミ」既注。]

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