甲子夜話卷之六 24 鳥越邸の池、虹を吐く事
6-24 鳥越邸の池、虹を吐く事
予が幼時、鳥越邸の池邊の、小亭にて游戲して居たるに、池中より泡一つ二つ出づ。始めは魚鼈の所爲ならんと思ふに、數點になりて、夫より泡のうちより煙いで、だんだん煙多く、後は釜中より煙立つ如くになりて、池水ぐるぐると囘り、輪の如く波たちたるが、やがて半天に虹を現じ、後は天に亙れり。夫よりして池邊腥臭の氣堪がたかりければ、幼時のことゆゑ恐ろしくなりて住居に立還り、後は不ㇾ知。
■やぶちゃんの呟き
珍しくも興味深い静山自身の幼児体験の怪異譚である。ちょっと全体には解明出来ない現象である。白昼夢か、夢の記憶の誤認か?
「鳥越邸」平戸藩松浦家の江戸上屋敷。現在の東京都台東区鳥越附近(グーグル・マップ・データ)。この屋敷には後楽園・六義園とともに都下三大名園に数えられた「蓬萊園」があった。されば、このシークエンスも、そんじょそこらの大名の上屋敷の庭をイメージしては不足である。
「魚鼈」「ぎよべつ」。「鼈」はスッポンの類い。
「腥臭の氣」「なまぐさのかざ」と訓じておく。
「不ㇾ知」知らず。
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