北原白秋 邪宗門 正規表現版 なわすれぐさ
なわすれぐさ
面帕(おもぎぬ)のにほひに洩(も)れて、
その眸(ひとみ)すすり泣くとも、――
空(そら)いろに透(す)きて、葉かげに
今日(けふ)も咲く、なわすれの花。
四十一年五月
[やぶちゃん注:「なわすれぐさ」シソ目ムラサキ科ワスレナグサ属 Myosotis の総称。和名「勿忘草」「忘れな草」はシンワスレナグサ(真勿忘草)Myosotis scorpioides に与えられているものの、園芸界で「ワスレナグサ」として流通している種は、ノハラワスレナグサ Myosotis alpestris・エゾムラサキ Myosotis sylvatica、或いはそれらの種間交配種である。
「面帕(おもぎぬ)」「顔面」とも書き、通常は「かほかけ(かおかけ)」と読む。婦人や貴人が頭からかける薄い絹などの布。婦人が帽子に取り付けて顔を覆う網や紗(しゃ)の布で、「ベール」(veil)のこと。]