海邊の墓
われは見き、
いつとは知らね、
薄(うす)あかるにほひのなかに
夢ならずわかれし一人(ひとり)、
ものみなは淚のいろに
消えぬとも。
ああ、えや忘る。
かのわかき黑髮のなか、
星のごと濡れてにほひし
天色(そらいろ)の勾玉(まがたま)七つ。
われは見ぬ、
漂浪(さすら)ひながら、
見もなれぬ海邊の墓に
うつつにも眠れる一人(ひとり)
そことなき髮のにほひの
ほのめきも、
ああ、えや忘る。
いま寒き夕闇(ゆふやみ)のそこ、
星のごと濡れてにほへる
天色(そらいろ)の露草(つゆくさ)七つ。
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