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2020/11/03

堀内元鎧 信濃奇談 卷の上 蝦蟇

 

 蝦蟇

 三日町村〔みつかまちむら〕にて、「蝦蟇〔がま〕の蝘鼠〔もぐらもち〕を取〔とり〕て土に埋みけるに、忽〔たちまち〕に小蟲に化〔か〕しけるを、三尺あまり隔〔へだて〕て、口を開〔ひらき〕て吸〔すひ〕こみける」を、見し人ありて、語りき。

 「白紙物語」に、『小平村の俳人介亭といへる者の宅にて、蝦蟇の、猫、取〔とり〕たる事』を載す。また、『荒井といふ里に、大きなる蝦蟇の、目、四つあるありて、夕ぐれごとに、大なる口をあきておれば、蚊・蜂などやうのもの、いつくともなく飛來〔とびき〕たりて、口に入りける』よし見えたり。

 蝦蟇の老〔おい〕たるは、種々に、あやしき事をなす者にや。『蝦蟇の箬笠〔たけがさ〕のごときもの、その口より、白氣出〔いだし〕たる事、「霏雪錄〔ひせつろく〕」に見ゆ』と、「琅琊代醉篇〔らうやだいすいへん〕」に出〔いで〕たり。

[やぶちゃん注:以下、頭書。原本はここ。]

高遠の猪鹿山にも、蝦蟇の箕〔み〕のごとき物、住〔すめ〕り。近き比、黑河内〔くろがうち〕氏、これを見て、其毒にあたりたるにや、其後〔そののち〕、しばらく、心地、病〔やめ〕り、となん。これ、その『箬笠のごとし』といへるものならん。「箬」は「くまざゝ」なり。「くまざゝ」もて、作りし笠をいふ。

 

[やぶちゃん注:「蝦蟇」これは別に「ひきがへる」或いは「ひき」と読んでも構わない。元恒がどれで呼称しているかは判らない。私はおどろおどろしさからは「がま」が好きなだけで選んだ。これは本邦固有種と考えられているヒキガエル科ヒキガエル属ニホンヒキガエル亜種アズマヒキガエル Bufo japonicus ormosus(本邦の東北地方から近畿地方・島根県東部までの山陰地方北部に自然分布する。体長六~十八センチメートル。鼓膜は大型で、眼と鼓膜間の距離よりも鼓膜の直径の方が大きい)と考えてよい。博物誌は私の「和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蟾蜍(ひきがへる)」を読まれたい。以下に書かれる蝦蟇が他の生物を口に引き込む(それはここに出る実体としての蚊や蜂であることもあり、或いは蛇や鼬、時には人の精気が白い気となって吸い込まれる)事例は枚挙に暇がなく、腐るほどある。私の「怪奇談集」にも幾つもあるが、「想山著聞奇集 卷の參 蟇の怪虫なる事」を一つ、紹介しておくに留める。それほど、メジャーで、私はやや食い飽きているほどの話だからである。

「三日町村」向山氏補註に、『現、長野県上伊那郡箕輪町のうち三日町』とある。ここ(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。

「蝦蟇の蝘鼠を取て土に埋みけるに、忽に小蟲に化しけるを、三尺あまり隔て、口を開て吸こみける」何となく叙述が親切でない。「ガマが、モグラを捕まえて土の中に埋めるところを見つけた。ところが埋めてガマがそこを少し離れたかと思うと、その埋めたモグラは、小さな虫の群れに変じて、どこかに去ろうとしているように見えた。しかし、ガマは慌てる様子もなく、九十一センチメートルほども離れた位置にいたにも拘わらず、そこで口を開けるや――すうーっと――その小虫の群れを総て吸い取って食べてしまった、というのである。なお、「蝘鼠」は「うごろもち」「もぐら」と読んでも構わない。哺乳綱トガリネズミ形目 Soricomorphaモグラ科Talpinae亜科のモグラ類である。本邦には四属七種が棲息し、そのすべての種が日本固有種である。博物誌は私の「和漢三才図会巻第三十九 鼠類 鼢(うころもち)・鼧鼥 (モグラ・シベリアマーモット)」を参照されたい。因みに、「蝘鼠」(音「エンソ」)は別に哺乳綱齧歯目リス亜目ネズミ下目ネズミ上科ネズミ科クマネズミ属ドブネズミ Rattus norvegicus を指す場合があるが、私はモグラでとる。

「白紙物語」先の「蜜蜂」の私の注を参照されたい。原本に当たれないので、以下の二件とも同書に載るととった。

「小平村」同前で、『現、長野県上伊那郡中川村小平』とある。どうも現在の長野県上伊那郡中川村片桐のこの付近のことのようである。

「俳人介亭」不詳。

「蝦蟇の、猫、取たる事」ヒキガエルは耳の後ろにある耳下腺や皮膚表面の俗に「疣(いぼ)」と呼んでいる部分に毒腺を持ち、外敵から身を守るために強力な毒液(主要成分はブフォトキシン(bufotoxin:激しい薬理作用を持つ強心配糖体の一種。主として心筋(その収縮)や迷走神経中枢に作用する)などの数種類の強心ステロイドで、他に発痛作用のあるセロトニン(serotonin:血管の緊張を調節する。ヒトでは生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節など重要な機序に関与する、ホルモンとしても働く物質である)のような神経伝達物質なども含む)を滲出させ、犬や猫がちょっかいを出すと、ひどい目に遭う。眼に入れば失明する恐れがあり、対象動物が小型の場合には死に至ることもある。されば、この「猫、取たる」というシチュエーションが判らぬが、子猫などだった場合、死に至ったとしてもおかしくない。

「荒井」同前で、『現、長野県伊那市荒井』とある。ここ

「目、四つある」二重体の奇形種は結構の頻度で発生するらしいが、まあ、交接中の個体を誤認したか、或いは、前に示した眼よりも大きな鼓膜の丸い凹みを錯覚したものであろう。

「霏雪錄」明の鎦績(りゅうせき)撰の随筆らしいが、中文サイトの「中國哲學書電子化計劃」と、国内の「漢籍リポジトリ」で原本に当たっても、以下のような記載は見当たらない。不審。

「琅琊代醉篇」前に出たが、再掲する。明の張鼎思(ていし)がさまざまな漢籍から文章を集めて編纂した類書(百科事典)。一五九七年序。全四十巻。延宝三(一六七五)年に和刻され、曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」(文化一一(一八一四)年初編刊)を始め、複数の浮世草子等が素材として利用している。原本に当たれない。

「蝦蟇の箬笠〔たけがさ〕」「箬」(音「ジョク・ニャク・ヒャク」)は「筍(たけのこ)の皮・竹や笹の稈鞘(かんしょう)を指す。他に「箬竹」でオオバヤダケ(大葉矢竹:単子葉植物綱イネ目イネ科インドカラムス属オオバヤダケ Indocalamus tesselatus を指す。狭義のタケ類ではないが、見た目は細めの笹竹のようにしか見えない。中文ウィキの「箬竹属」Indocalamus)の画像を見られたい。同属の中国名のある種には総てに「竹」がついている。されば、頭書の『「箬」は「くまざゝ」なり。「くまざゝ」もて、作りし笠をいふ』というのも納得出来る。「くまざゝ」は「隈笹」(「熊笹」は誤り)で、イネ科タケ亜科ササ属クマザサ Sasa veitchii。恐らく「蝦蟇の箬笠」というのは、この隈笹の葉を何枚か頭の上に笠のようにして人がするように被っている奇体なヒキガエルということであろう。狐狸が化けるに頭に木の葉を載せる類いであろう。但し、その「葉」を載せるという伝承は恐らくは近世の浄瑠璃や歌舞伎が発祥で古いものではないと私は思う(元は中国起原ではあるが、そこでは人間の頭蓋骨(髑髏)である)。

「高遠の猪鹿山」長野県伊那市高遠町西高遠に猪鹿沢を現認出来る(グーグル・マップ・データ航空写真)から、国土地理院図のこの1080メートルのピークがそれっぽい。サイト「伊那谷ねっと」の山火事の記事で猪鹿山と出る。読みを検索したが、見当たらない。「いのしかやま」と読んでおく。

「蝦蟇の箕〔み〕のごとき物、住〔すめ〕り」私はてっきり、穀物の脱穀の際に殻や塵を取り除くための竹製の農具ほどもある巨大なガマのことと思ったが、この頭書の後を読むに、箕を笠替わりに被った奇体なガマの謂いかい!

「黑河内氏」サイト「日本姓氏語源辞典」のこちらに、黒河内(クロゴウチ)として立項し、『長野県伊那市。長野県伊那市黒河内発祥。鎌倉時代に記録のある地名。同地に江戸時代にあった。同地では草分けと伝える。長野県伊那市高遠町東高遠が藩庁の高遠藩士』及び『福島県会津若松市追手町が藩庁の会津藩士に』この姓があるという旨の記載があった。因みに、長野県伊那市長谷黒河内(はせくろごうち)はこの山間部

「これを見て、其毒にあたりたるにや、其後〔そののち〕、しばらく、心地、病〔やめ〕り」先に示した毒液を吸引してしまったものかとも思われる。]

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