明恵上人夢記 84
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一、同二月の夜、夢に云はく、船に乘りて大きなる海を渡る。海の上に、浮かべる物、有り。徑(わたり)五寸許りの圓(まどか)なる物也。形は金色にして、將に之を取らむとする間(ま)、飛びて手に入る。其の下に、七、八枚を重ねて、物を書けり。之を取りて懷(ふところ)に入ると云々。
[やぶちゃん注:順列ではおかしい。前の「83」夢は承久二年十二月八日(同年旧暦十二月は既に六日でユリウス暦一二二一年一月一日、グレゴリオ暦換算で一月八日)だからである。この「同」を同じ「承久」ととるなら、承久三年か、或いは記載が前後して「83」の前の承久二年の二月なのかも知れない。河合隼雄氏は「明惠 夢に生きる」(京都松柏社一九八七年刊)では承久二年と推定されておられるが、失礼乍ら、これは河合氏の総合的な予知夢としての夢解釈の順列上での認識に基づくものであって、必ずしも物理的な資料上書誌学上の推定とは思われない感じはする。そこで河合氏は『内界への旅は夢のなかで舟の旅に擬せられることがよくある。明恵は舟に乗って海へ出て、図らずも金色の円形の物を入手する。この物が何を意味するかは不明であるが、これ以後の続く内界の旅によって、彼が極めて貴重なものを手に入れるだろうことを、この夢は予示している。そして、五月には「善妙の夢」が出現する』とされる。「善妙の夢」はこの後の「89」で特異的に記載が長く、興味深い夢である。
「五寸」約十五センチメートル。]
□やぶちゃん現代語訳
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同じ二月の夜、こんな夢を見た――
船に乗って、大きな海を渡っている。
その海の上に、浮かんでいる物がある。
直径は五寸ほどの丸い感じの物である。
全体に、金色を呈しており、さても、まさにこれを私がとろうとした瞬間、その物の方が、自然に飛んで、私の手中に入った。
よく見ると、その下に、七、八枚の紙を重ねて、何か物が書かれてある。
私は、その書をとって、懐(ふところ)に入れる……