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2021/02/11

只野真葛 むかしばなし (9)

 

○六(むつ)ばかりなる頃、「たよ」といふ守女、外へつれいでゝ、あそばせゐたりしに、いつか、うしろに、坊主壱人、立(たち)て、長庵を見て居(をり)しが、

「さて、よき生(しやう)の子なり。さりながら、やがてかたわに成(なる)べし。耳が引付(ひつつく)か、目に申分(まうしぶん)あるか、さなくば、命、みじかゝるべし。」

と、いひしとなり。

 守、驚きて、

「おや、この人は、氣味のわるいことをいふ人だ。」

と、いひながら、かきいだきて、家ににげ入(いり)て、いき切(きれ)、いき切、有しことを、かたる。

 御二方、はじめ、さして耳にもとめられぬやうなりしが、後、おもふに、此言葉たがはざりし。

 むし氣(け)になれば、かため、おほきく成(なり)て、ゑりをまげてゐたりしを、父樣、御くふう被ㇾ成、御りやうじにて、直り、八、九の時分、兩耳のうしろ、只、かゆく成て、水、いで、其水のねばること、もちのごとく、夜中、

「ひた」

と、兩耳、付(つき)て有しを、朝、引(ひき)はなせば、あかはだに成て、血、出(いで)しを、每朝、每朝、むりにはなして、油藥(あぶらぐすり)を綿に付(つけ)てはさませて、なほりし。

 十七、八の頃、まぶち、はれて、上を見あぐる事、あたはず。書をみれば、殊(こと)に、はれまさりて、するわざなかりしをも、御くふうにて、「はんめう」の粉(こ)を、のりにおしまぜて、ゑりにはり、其所、水ぶくれに成(なり)しを、すひ藥(やく)にて、水をとりしに、たちまち、まぶちのはれ、引(ひき)て、常のごとくに成たり。

 かやうに、いゑがたき病(やまひ)をも、みな、御くふうにて直(なほ)れば、

『命に及ぶほどのことは、よもあらじ。』

と、おもひ賴(たより)て有(あり)しを、はかなくなりし故、はじめて、おどろかれし。

[やぶちゃん注:どうもいちいちの症状が尋常でない。片方の目だけや両瞼が腫脹する、耳の後ろから強い粘性を持った体液様のものが浸潤してはばりばりに張りつくというのは、ちょっと原因が想像し難い。前者は何らかの病原体による感染症のようにも見えるが、後者は聴いたことがない症状である。一つ、水頭症(浸潤するそれを「水」と表現しており、透明であることから、脳脊髄液(髄液)のようにも見える)か、そうした脳脊髄液の浸潤や脱漏が挙げられるか? 髄液が眼窩へ浸潤すれば、その影響で前者のような眼球や瞼の症状も起りそうな気がする。この僧は何者かは知らぬが、微妙な長庵の頭部の変異を感じ取り(水頭症では頭部の肥大がよく見られる)、そうした脳関連の疾患を感じたものかも知れない。小児科の医師は知り合いにいない。どなたか、可能性のある疾患を御指摘戴けると助かる。

「申分」欠点。欠陥。

「むし氣」「蟲氣」(虫気(むしけ))で、当時、子供の体質が弱く、神経質で、すぐに怒ったりする体質を広く言った語。

「あかはだ」「赤膚」。癒着していたものを剥がした結果の皮下の組織が糜爛。

「はんめう」この場合は、真正の「ハンミョウ」類(鞘翅目(コウチュウ)食肉(オサムシ)亜目オサムシ科 Carabidae 或いは、その下位タクサであるハンミョウ亜科 Cicindelinae 或いは、それ以下の Cicindelini族 Cicindelina 亜族ハンミョウ属 Cicindela に属する種群)ではない、鞘翅目Cucujiformia 下目ゴミムシダマシ上科ツチハンミョウ科 Meloidae に属するツチハンミョウ(土斑猫)類を基原とする漢方剤料である。主成分はカンタリジ(cantharidin)で、ツチハンミョウ科の昆虫が外敵から身を守るために分泌する刺激性の物質であり、皮膚に付着すると、炎症を起こし、水疱(すいほう)を生ずる所謂、病原体に冒された皮膚をわざと「発疱」させてそれらを除去する「刺激発疱剤」である。内服では利尿作用や、尿道を刺激することから、催淫剤としても用いられた。漢方でも取り扱いが厳しい劇薬で、発疱剤としても毒性が強過ぎ、用いる機会も少ないことから、現在、「日本薬局方」からは削除されている。詳しくは、「和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 斑猫」の私の注を参照されたい。発疱剤は言葉として和漢の本草書で以前より知ってはいたが、実際に処方事例を記したものを見るのは、恐らく私は初めてである。

「すひ藥(やく)」「吸ひ藥」で吸収剤であろう。よく「蛸の吸出し」などと呼ばれる軟化・吸収・排出剤に似たものか。知られた現在のそれは、含まれるところの腐蝕作用を持つ硫酸銅と角質軟化作用を持つサリチル酸によって、腫れ物の口を開かせ、膿を排出して患部を治すものである。

「いゑ」ママ。「癒ゆ」であるから、「いえ」でよい。]

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