譚海 卷之三 貴船奥院
貴船奥院
○貴船(きふね)奧の御前(ごぜん)は本社より半道ばかり山中に入てあり、愛宕・鞍馬につゞきて、殊に幽邃の地也。常に參詣する人稀なるゆゑ、左右の松杉しげりて、年へし杉の樹などは皮はげて藤かづらも掛り、空よりさがりたるやうにいくらも道に有。山中苔滑らかにしてすべり安し、社の拜殿には幣帛壹つあり、たふれて板に貼(ちやう)したるが、霧にしめり付(つき)てとる人もなき樣子也。かばかり山深き所、京師近き社(やしろ)には覺えずといへり。
[やぶちゃん注:「貴船奧の御前」現在の貴船神社奥宮。本宮の上流約七百メートルの場所にあり、以前はここが本宮であった。ここは珍しく二度行ったことがある。]