譚海 卷之三 京都にて店を借る
京都にて店を借る
○京都にて店(たな)を借(かり)るには甚(ははなはだ)むづかしき事也。先(まづ)店借る事を家主(やぬし)にいひ入(いる)るに、定(さだめ)たる請人(うけにん)判形(はんぎやう)を突(つき)て出(いだ)す事は勿論の事にて、判形請人の外に、又(また)口請(くちうけ)といひて、壹人(ひとり)家主に懸合(かけあひ)、當人(たうにん)別條なきものの由(よし)口上(こうじやう)にて請合(うけあふ)人有(あり)、已上請人二人なり、さなくては店借(かす)事をせず。又借座敷(かりざしき)といふものは是(これ)には異りて、さのみ請人に六か敷(むつかしき)事なし。京都はすべて醫者など學問に登りあつまるもの多きゆゑ、借座敷を建(たてて)て渡世にするもの多し。大抵臺所の道具すり鉢すり木の類(たぐひ)まで用にそなへ有(あり)て、一物(いちもつ)もあらたに調ふる事なし。それにて壹箇月の座敷料すべて疊一枚銀壹匁程づつに配する程なり。
[やぶちゃん注:「銀壹匁」江戸中後期で現代の約千二百五十円。]