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2021/03/16

大和本草卷之十六 海驢 (トド 或いは 絶滅種ニホンアシカ)

 

【外品】

海驢 山東志曰出文登海中狀如驢常於秋月登

嶋產乳其皮製爲雨具水不能潤○今案トヾト云

物海中ニアリ岩屋ノ内ニアカリ好ンテ子フル其肉ヲ

食フヘシ甘乄味クシラノ如シ皮ハ馬具トス其首馬ノ

如シ其大サ小馬ホトアリ是海驢ナルヘシ奥州松前

蝦夷及諸州海濱亦稀ニアリ

■やぶちゃんの呟き

【外品】

海驢〔(かいろ)〕 「山東志」に曰はく、『文登の海中に出づ。狀〔(かたち)〕、驢〔(ろば)〕のごとし。常に秋月に於いて、嶋に登る。產し、乳(ち)す。其の皮、製して、雨具と爲す。水、潤〔(うるほ)〕すこと、能はず。

○今、案ずるに、「トド」と云ふ物、海中にあり。岩屋の内にあがり、好んで、ねふる。其の肉を食ふべし。甘くして、味、「くじら」のごとし。皮は馬具とす。其の首、馬のごとし。其の大きさ、小馬ほど、あり。是れ、「海驢」なるべし。奥州・松前・蝦夷(ゑぞ[やぶちゃん注:ママ。])及び諸州の海濱に亦、稀にあり。

[やぶちゃん注:まず示さねばならないのは、メインの引用を前条「海牛」と同じソースを用いている点である。重複を厭わず出すと、「山東志」清代に三種の「山東通志」があるが、その内の清の学者杜詔(一六六六年~一七三六年)の編纂に成る山東地方の地誌の巻二十四に、以下の文字列を発見した。「中國哲學書電子化計劃」の影印本より起こした。

   *

海豹【出寧海州其大若豹文身五色叢居水涯常以一豹䕶守如雁奴之類其皮可飾鞍褥】海牛【出文登縣郡國志云不夜城有海牛島牛角紫色足似龜長丈餘尾若鮎魚性急捷見人則飛入水皮可弓鞬可燃燈】海驢【出文登縣郡國志云不夜城有海驢島上多海驢常於八九月乳産其毛可長二分其皮水不能潤可以禦水】

   *

既に「海牛」は出、本条の次が「海豹」である。しかし、言っている内容は同じでも同文には見えない。ところが、やはり、別の「維基文庫」の「欽定古今圖書集成」の「登州府部彙考七」の「登州府物產考」のここを見ると、「海牛」と同様に「山東志云」を外した酷似した文字列を見出せた。

   *

海驢 出文登海中、狀如驢、常以八・九月上島產乳。其皮製爲雨具、水不能潤。齊乘云、「海驢皮。」。今有獲之者、淺毛灰白、作鱸魚斑。又海海狸、亦上島產乳。

   *

やはり、益軒は、「海牛」の場合と同様に、「登州府物產考」なる書を参考にしているものと思われる。

 さて。「海驢」である。これは、漢籍でアシカ若しくはトドを指す。而して山東半島南岸という条件から、問題なく、既にヒトが絶滅させてしまった

哺乳綱食肉(ネコ)目イヌ亜目鰭脚下目アシカ科アシカ亜科ニホンアシカ Zalophus japonicus

或いは、本邦の北海道北部沿岸にも回遊してくる、

アシカ科トド属トド Eumetopias jubatus

の孰れかとなるが、確かに益軒は「トヾ」と書いてはいるものの、トドはが異様に大型(アシカ科 Otariidae 中最大で最大全長は三・三メートルを超え、体重は千百二十キログラムにも達する一方、♀は最大でも二・九メートルで、三百五十キログラムしかなく、観察した場合、ぱっと見でも大きさが異なることははっきり見てとれる)になる性的二型であるのに、その特異点が記されていないことと、現行のトドの棲息域が、北太平洋及びその沿海のオホーツク海・ベーリング海や、北海道からカリフォルニア州南部チャンネル諸島にかけてであり、繁殖地・上陸地を見ても、アリューシャン列島・千島列島・プリビロフ諸島・カムチャッカ半島東部・アラスカ湾岸・カリフォルニア州中部のサンタクルーズで、本邦には千島列島・宗谷海峡の個体群が、冬季に北海道沿岸部へ回遊するものの、朝鮮半島は現行では東岸北部(概ね朝鮮民主主義人民共和国)沿岸までで、黄海や渤海に回り込んで迷走する可能性は極めて低いと考えられるから、分が悪い(但し、引用原本は三百年前後も昔であるから、現行の分布域を以ってトドを外すことは出来ない)。但し、トドの皮革は利用されたし、食用としてもその肉は美味い(私は好きである)。私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 胡獱(とど) (トド)」も参照されたい。

 さて。翻って、ニホンアシカであるが、当該ウィキによれば、個体数の絶滅以前の分布域は、『北はカムチャツカ半島南部から、南は宮崎県大淀川河口にかけて』で、『北海道・本州・四国・九州の沿岸域、伊豆諸島、久六島・西ノ島・竹島などの日本海の島嶼、千島列島、南樺太、大韓民国(鬱陵島)などに分布していた』。『さらに、古い朝鮮半島上の記録によると』、渤海と黄海の東岸域を含む広範囲の半島周辺に見られた『とされる』とあるから、完全に条件をクリアーする。『繁殖地は恩馳島・久六島・式根島・竹島で確認例があり、犬吠埼・藺灘波島・大野原島・七ツ島でも繁殖していたと推定されている』。『太平洋側では九州沿岸から北海道、千島、カムチャツカ半島まで、日本海側では朝鮮半島沿岸から南樺太が生息域。日本沿岸や周辺の島々で繁殖、特に青森県久六島、伊豆諸島各地(新島』『鵜渡根島周辺、恩馳島、神津島)、庄内平野沿岸』、『アシカ島(東京湾)、伊良湖岬、大淀川河口(日向灘)なども生息地であった。三浦半島、伊豆半島(伊東、戸田・井田)、御前崎等にも、かつての棲息を思わせるような地名が残っている』。『縄文時代以降の北海道・本州・四国の遺跡で骨が発見されていることから、近年までは日本全国の沿岸部に分布していたと考えられている』とあるから、暖海にもある程度、適応していることが判り、黄海の山東半島南岸に嘗ては頻繁に現われたとしても、何ら問題ないのである。それでも益軒が「トド」と表記していることに拘る向きがあるかも知れないが、一般の日本語では出世魚のボラの最大級のそれを「トド」と呼ぶ如く、相対的に大きな生物を広く「とど」と読んできた歴史があり、多くの海棲哺乳類の大型個体を種を区別せずに「とど」と読んだ傾向があり、益軒も区別していないととるべきであろう。さらに、本来の正統な「トド」の和名語源はアイヌ語の「トント」に由来するものであって、「とどのつまり」のそれとは全く関係がない(と私は考えている)。ウィキの「トド」によれば、『これは』アイヌ語で『「無毛の毛皮」つまり「なめし革」を意味する』。『トドそのものは、アイヌ語でエタシペと呼ばれる』とある。また、続けて、『日本各地にトド岩という地名も散見されるが、過去においては日本ではトドとアシカ(ニホンアシカ)は必ずしも区別されておらず、アシカをトドと呼ぶ事も度々みられ、本州以南のトド岩の主はアシカであったようである』ともあるのである。但し、アシカに分が悪い点もある。それはアシカの肉は一般には――美味くなく、食用には不適――とされたことである。専ら採油と皮革に捕獲されたのである。私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 海鹿(あしか)」を参照されたいが、そこで良安も『其の肉、亦、甘美ならず、唯だ、熬(い)りたる油、燈油に爲るのみ。西國、處處にも亦、之れ有り。其の聲、畧(ち)と、犬に似て、「於宇(おう)」と言ふがごとし。蓋し、海獺・海鹿は一物なれど、重ねて出だして、考へ合はすに備ふ』と記している。「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 海獺(うみうそ) (アシカ類・ニホンアシカ)」も併せて見られたい。

「水、潤すこと、能はず」雨水は全く浸透することが出来ず、防水効果が抜群であうことを言う。

「ねふる」「眠(ねふ)る」。]

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