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« 大和本草卷之十六 海豹 (アザラシ類) | トップページ | 只野真葛 むかしばなし (21) »

2021/03/16

大和本草卷之十六 膃肭臍 (キタオットセイ)

 

膃肭臍 奥州松前等ノ海ニアリ本艸宗奭曰其形

非獸亦非魚也但前脚似獸而尾卽魚身有短密

淡青白毛 事玄要言曰形如狗大如猫純黃色

又曰形如狐腳高如犬豕首魚尾○篤信昔其形

狀ヲ見シニ右二書ニ云ヘル處ヨクアヘリ膃肭臍トハ

其陰莖ナリ臍ニ連子テ用ル故ニ膃肭臍ト云ト時

珍イヘリ今外腎ヲ不用全體ヲ用テ藥トスルハ

誤ナリ本艸ニ肉ノ性ヲイハス或曰其肉ヲ久ク食

スレハ害人不可食藥ニハ只陰莖ヲ用ユ不用肉

○やぶちゃんの書き下し文

膃肭臍〔(をつとせい)〕 奥州・松前等の海にあり。「本艸」に、『宗奭〔(そうせき)〕が曰はく、「其の形、獸に非ず、亦、魚にも非ざるなり。但し、前脚、獸に似て、尾、卽ち、魚。身に短密〔にして〕淡〔き〕青白〔の〕毛、有り。」と』。

「事玄要言」に曰はく、『形、狗のごとく、大いさ、猫のごとし。純黃色。』と。又、曰はく、『形、狐のごとく、腳高〔(あしだか)なり〕。犬のごとく〔して〕、豕〔(ぶた)〕の首、魚の尾〔たり〕と。』。

○篤信〔(あつのぶ)〕[やぶちゃん注:益軒の本名。]、昔、其の形狀を見しに、右二書に云へる處、よく、あへり。『膃肭臍とは、其の陰莖なり。臍〔(へそ)〕に連〔(つら)〕ねて用ひる故に「膃肭臍」と云ふ』と、時珍、いへり。今、外腎[やぶちゃん注:通常は睾丸を指す。ここは陰茎と睾丸をセットにしたものを指すか。]を用ひずして、全體を用ひて藥とするは、誤りなり。「本艸」に、肉の性〔(しやう)〕を、いはず。或いは曰はく、「其の肉を久しく食すれば、人を害す。食ふべからず。藥には、只だ、陰莖を用ゆ。肉を用いず」と。

[やぶちゃん注:既に「大和本草卷之十六 海牛 (ジュゴン?・ステラダイカギュウ?・キタオットセイ〔一押し〕・アザラシ類)」で有力候補にしてしまった、哺乳綱食肉(ネコ)目イヌ亜目鰭脚下目アシカ科オットセイ亜科キタオットセイ Callorhinus ursinus  が出て来てしまった(私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 膃肭臍(をつとせい) (キタオットセイ)」も参照されたい)。しかも、ここでは益軒は実物(但し、これ、その生物体の標本ではなく、「膃肭臍」と称する漢方生剤をであろう。どんなものか? 東京の薬局「ハル薬局」公式サイト内のこちらに、ゴマフアザラシの陰茎及び睾丸とキャプションする写真がある)を見たと言っているから、これはまた、困ったもんだ。まあ、しかし、前者は漢籍の乏しい記載から条立てしたのだから、同じものを別物として益軒が誤認することは、これ、別段、おかしくも何ともないことなんである。私順列でピック・アップしてはフラットに記載を検討しており、ここで前言の同定比定を翻す気はさらさらないと言っておく。異論があれば、御教授戴ければ、恩幸これに過ぎたるはない。

『「本艸」に、『宗奭〔(そうせき)〕曰はく……』「本草綱目」の巻五十一下の「獸之二」の「腽肭獸」の一節である。長いが、行き掛かり上、この際、乗りかかった舟なれば、拘って訓読したものを示す。国立国会図書館デジタルコレクションの寛文九(一六六九)年板行の風月莊左衞門刊の当該部の訓点を一部で参考にした。下線太字は私が附した。

   *

肭獸【上は「烏」と「忽」の切。下は「女」と「骨」の切。「宋開寶」に附す。】

釋名 骨豽【「說文」に「貀」と作(な)す。「肭」と同じ。】。海狗【時珍曰、『「唐韻」に「腽肭」は肥ゆる貎(かたち)、或いは、「骨貀」と作す。訛(なまり)て「骨訥」と爲す』と。皆、畨言(ばんげん)[やぶちゃん注:異民族の言語。]なり。」と。】。

集解 藏器曰はく、『骨肭獸(こつどつじう)、西畨の突厥國(とつけつこく)[やぶちゃん注:六世紀に中央ユーラシアに存在したテュルク系遊牧国家。]に生(しやう)ず。胡人、呼びて、「阿慈勃他你(あじぼつたや)」と爲す。其の狀(かたち)、狐に似て、大きく、長き尾。臍(へそ)、麝香に似たり。黄赤色。爛骨に似たり。』と[やぶちゃん注:完全内陸で、これはオットセイではない。]。甄權(しんけん)曰はく、『腽肭臍、是れ、新羅國の海内なる狗の外腎なり。連なりて之れを取る。」と。李珣(りしゆん)曰はく、『按ずるに、「臨海志」に云はく、『東海の水中に出づ。狀、鹿の形のごとく、頭は狗に似て、長き尾なり。每日、出でて、卽ち、浮かぶ。水面に在り。崑崙家、弓矢を以つて、之れを射て取りて、其の外腎を隂乾しすること百日、味、甘く、香、美なり。』と。頌(しよう)曰はく、『今、東海の旁らに、亦、之れ有り。舊說、「狐に似て、長き尾。」と。今、滄州にて圖する所は、乃(すなは)ち、是れ、魚の類にして、豕(ぶた)の首たり。兩足、其の臍、紅紫色。上に紫の斑㸃有り。全く、相ひ類せず。醫家、多く之れを用ふ。「異魚圖」に云はく、『其の臍を試るに、臘月、衝風の處に干して、盂水に置きて、之を浸して、凍らざる者を真と爲すなり。』と。斆(かく)曰はく、『腽肭臍は僞る者の多し。海中に獸有り、號(な)づけて「水烏龍」と曰ふ。海人、其の腎を取りて、以つて「腽肭臍」に充つ。其の物自(おのづか)ら别なり。眞なる者は一對有り、則ち、兩(おな)じき重さ、薄皮にして、丸き核(さね)を裹(つつ)む。其の皮の上、自から、肉、有り。黄毛にして、一穴に三莖、之れを器の中に收めて、年年、濕潤し、新たなるがごとし。或いは睡れる犬の頭上に置く、其の犬、忽ち、驚きて跳び、狂へる者のごときは、眞と爲すなり。』と。宗奭曰はく、『今、登莱州に出づ。其の狀、狗に非ず、獸に非ず、亦、魚にも非ざるなり。但だ、前脚は獸に似て、尾は卽ち、魚なり。身、短にして淡青の白毛、有り。毛の上、深青の黑有り。久しきときは、則ち、亦、淡し。腹の脇の下、全き白色。皮、厚く、靱にして、牛皮のごとし。邊將(へんしやう)[やぶちゃん注:国境守備軍の将軍。]、多く取りて、以つて、鞍(くら)・韉(したぐら)を飾る。其の臍は、腹・臍の積冷・衰脾・腎勞極を治するに、功、有り。别に試ること待たざるなり。狐に似て、長き尾の說、今人、多く、之れを識ず。』と。時珍曰はく、『按ずるに、「唐書」に云はく、『骨貀獸(こつどつじう)、遼西營州[やぶちゃん注:渤海附近。]及び結骨國[やぶちゃん注:キルギス。]に出づ。』と。「一統志」に云はく、『腽肭臍、女直及び三佛齊國[やぶちゃん注:インドネシア・マレー半島・フィリピンに大きな影響を与えたスマトラ島のマレー系海上交易国家シュリーヴィジャヤ王国(六五〇年~一三七七年)。]に出づ。獸にて、狐に似て、脚高にして、犬のごとく、走ること、飛ぶがごとし。其の腎を取りて、油に漬け、「肭臍」と名づく。』。此れを觀るに、則ち、狐に似たるの説は無きに非ずなり。葢(けだ)し、狐に似、鹿に似たる者なり。其の毛色のみ、狗に似たる者の、其の足形なり。魚に似たるは、其の尾の形なり。藥に入るるに、外腎を用ひて、「臍」と曰ふは、臍を連ねて、之れを取ればなり。又、「異物志」に、『豽獸〔(どつじう)〕朝鮮に出づ。貍〔(たぬき)〕に似て、蒼黑色。前の兩足、無し。能く䑕〔(ねづみ)〕を捕ふ。』と。郭璞云はく、『晉の時、召陵、扶夷縣に一獸を獲る、狗に似て、豹文、角の兩脚に有り。』と。此れに據れば、則ち、豽(どつ)は、水・陸二種、有り。而して藏器が謂ふ所の、「狐に似て長尾なる者」、其れ、此の類か。』と。

膃肭臍 一名「海狗腎」。

修治 斆曰はく、『酒を用ひて、浸すこと、一日、紙に裹みて、炙(あぶ)り、香し。剉(きざ)み、搗き、或いは、銀の器の中に於いて、酒を以つて、煎り熟して、藥に合はす。』と。時珍曰はく、『漢椒・樟腦を以つてす。同じく收むるときは、則ち、壞(こは)れず。

氣味 鹹、大熱。毒、無し。李珣曰はく、『味、甘、香、美にして、大温。』と。

主治 鬼氣尸疰(ししゆ)[やぶちゃん注:邪気の侵入による消化不良と精神錯乱。]。夢に鬼と交はる。鬼魅・狐魅の心腹痛。中惡の邪氣の宿血・結塊・痃癖(けんびき)[やぶちゃん注:肩凝り。]・羸瘦(るいさう)[やぶちゃん注:脂肪組織が病的に減少した様態。]【藏器。】。男子の宿癥(しゆくちやう)[やぶちゃん注:腹部の異常な膨満。]・氣塊・積冷・勞氣・腎精衰損・多色・勞瘦悴を成すを治す【「藥性」。】。中(ちゆう)を補ひ、腎氣を益し、腰・膝を暖め、陽氣を助け、癥結を破り、驚狂癎疾を療す【「日華」。】五勞・七傷・隂痿・少力・腎虚・背膊・勞悶・面黑・精冷、最も良なり。【「海藥」。】

發明 時珍曰はく、『「和劑局方」、『諸虛損を治するに「腽肭臍丸」有り。今の滋補の丸藥の中に、多く、之れを用ゆ。精不足の者、之れを補ふに、味[やぶちゃん注:直(じか)に舌で舐めることか。]を以つてするなり。大抵、「蓯蓉(じふやう)」・「𤨏陽(さやう)」[やぶちゃん注:漢方生薬名。]の功と相ひ近し。亦、糯米・法麵[やぶちゃん注:麺類を製する法。]と同じく、酒に釀(かも)して[やぶちゃん注:酒に漬けて浸潤熟成させてその酒をの謂いであろう。]服すべし。』と。

   *

益軒が都合の悪い陸性獣類としか思われないところを総て無視して、海棲哺乳類に限定するような都合のいい恣意的な短文引用をしていることがお判り戴けるであろう。なお、「宗奭」とは北宋の医師宼宗奭(こうそうせき)が書いた「新編類要図註本草」と踏んで調べたところ、「宮内庁書陵部収蔵漢籍集覧」のこちらで南宋から元代(十三~十四世紀頃)に板行されたものが視認でき、その上部の第「16」を開き、下部中央の「□□□」ボタンをクリックしてページ表示を開き、「p.31」で、巻第二十九の「獸部下品」の「膃肭臍」が見られることが判った。左頁の終わりから大罫三行目から記されてあるのが、この引用箇所である。これは実は宗奭の別な本草書である「本草衍義」から引いたものであることもそれで確認できた。

「事玄要言」明の陳懋学(ちんぼうがく)撰の類書。一六四八年序。

「『膃肭臍とは、其の陰莖なり。臍に連ねて用ひる故に「膃肭臍」と云ふ』と、時珍、いへり」これはおかしい。臍と陰茎や睾丸は器官としては全く繋がっていないからである。だいたいからして、臍は母体と繋がっていた際の器官の瘢痕であって、器官ではないことは、言わずと知れたことである。それに、益軒先生よ? 時珍が言ってるんじゃないぜ! 「一統志」(ここは「大明一統志」。明朝の全域と朝貢国について記述した地理書で全九十巻。李賢らの奉勅撰。一四六一年完成された。その記事は必ずしも正確でなく、誤りも多い。刊本は一四五八年の経廠大字本が最良とされる。因みに「本草綱目」は時珍の没後三年後の一五九六年に南京で上梓されている)の引用だぜ? まあ、それに時珍は賛同してるわけで、間違いとも言わないけどね。]

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