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2021/03/03

怪談老の杖卷之二 化物水を汲

 

   ○化物水を汲

 上總の浦方に、「大唐が鼻」とて、海の中へ、なり出(いで)し處あり。

 あるとき、房州鉢田といふ所より、出(いで)しふね、此處につけて、水をくみけるが、上の草野に井戶ありて、いとうつくしき女、水を汲み居(をり)けれぱ、そばへよりて、待居けるを、彼(かの)女、

「わたし、汲(くみ)て進ぜ申べし。」

とて、になひ桶に一荷(ひとに)、汲みいれけり。

 扨、荷ひて、船へ持行(もてゆき)ぬ。

「何方(いづかた)にて汲し。」

と問ひければ、

「此上の野中にて汲たり。よき井戶あり。よき娘もありて、くみてくれたり。女郞町にてもあるか。よき娘の、よき、きる物、きて、ものいひ・けはひ、常の娘にはあらず。」

と、いひけるを、船頭、きゝて、

「此上に、井戶も、なき筈(はず)なり。前方(さきがた)[やぶちゃん注:以前。]、此(この)はなにて、水くみにあがりし者、行方(ゆきがた)なくなりし事あり。はやく、船を出(いだ)せ。『あやかし』なり。」

と、さはぎければ、

「としや、おそし。」

と、船を漕出しけるに、はや、かの娘、來りて、海の中へ、飛こみ、およぎ來(きた)るを、櫓にて、なぐりければ、櫓へ、かぢりつきしを、たゝきはなして、

「ゑい。」

聲を出(いだ)し、こぎのけて、にげけり。

「かしこくも、船頭、心づきて、はやく船を出しける程に、皆々、いのちを助かりけり。左なくば、あやふかるべき事なり。」

と、いへり。

[やぶちゃん注:標題は「化物(ばけもの)、水を汲(くむ)」。

「大唐が鼻」現在の千葉県長尾郡太東岬(たいとうみさき)と考えられる(グーグル・マップ・データ)。

「鉢田」不詳。太東岬の北方に「八田」や「八日市」の地名があるが、現在のこれらは海浜部の地名ではない。候補地があれば、御教授願いたい。

「ゑい」感動詞で、力を込めたり、勇気を奮い起こしたり、決断したりしたときに発する語であるが、歴史的仮名遣は「えい」でよい。底本は無論、「ゑい聲」であるが、臨場感を出すために、かくした。

「あやかし」は現行では一般に「不思議なこと・妖怪」の意で汎用されるが、本来は「船が難破する際に海上に現れるという化け物」を指し、ここでは正統な使用法である。

「としや」不詳。「疾(と)しや」で、「早く! 早く!」の意か。

「こぎのけて」「漕ぎ退(の)けて」。辛くも漕ぎ退(しりぞ)けての意であろう。]

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