大和本草附錄巻之二 魚類 (クジラの歯の記載)
海鰌ノ牙大抵ヨコ三寸許長六七寸アリ
○やぶちゃんの書き下し文
海鰌(くじら)の牙、大抵、よこ、三寸許り、長さ、六、七寸あり。
[やぶちゃん注:哺乳綱獣亜綱真獣下綱ローラシア獣上目 Laurasiatheria 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla に属するクジラ類には、歯のあるグループと、ないグループがある(但し、それによって鯨類学的分類はされない)。所謂、鬚鯨(ひげくじら)と呼ばれるヒゲクジラ亜目 Mysticeti に属する種は歯を持たず、上顎から生えた「鬚板(ひげばん)」又は「鯨鬚」(くじらひげ)と呼ばれる器官を使って、オキアミ(節足動物門甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目オキアミ目 Euphausiacea)やコペポーダ(甲殻亜門多甲殻上綱六幼生綱橈脚(カイアシ)亜綱 Copepoda)等のプランクトンや小魚等の小さな対象を大量に濾しとって摂餌する。イワシ等の小魚(基本的にその海域に多い群集性魚類)の他に、イカなども捕獲された個体の胃から確認されているが、これらの魚などは、殆んど無傷の状態で観察されることから、「髭板」はあくまで濾過するための器官であることは明らかである。ヒゲクジラ類の食性は種や生息域によっても異なり、「髭板」の形状も、また、食性によってそれぞれ異なる。コククジラ(鯨偶蹄目コククジラ科コククジラ属コククジラ Eschrichtius robustus )のみが有意に底生生物を捕食することで知られる。本来、ヒゲクジラの先祖の体は小さかったが、プランクトンを多量に摂餌するようになって、進化過程で体が大きくなり、現在のヒゲクジラはシロナガスクジラ(鯨偶蹄目ナガスクジラ科ナガスクジラ属シロナガスクジラ Balaenoptera musculus )のように大きな種が多い(シロナガスクジラは標準成体で全長二十六メートル、最大全長は三十三・六メートルにも達し、体重は実に百九十トンを超える個体もあり、現生生物の中の最大種である)。一方、ここで問題にされている確かな歯を有するものは、鯨偶蹄目ハクジラ亜目 Odontoceti に含まれ、、顎に歯を持つ。しかし、古生物的鯨類学上の知見では、最初期のヒゲクジラから既に歯を保有しており、歯の存在によってこの分類群が定義されている訳ではない。通常の哺乳類の歯は異歯性(heterodonty:ある生物の歯が部位によって形状や機能に違いを生じる現象を示す)を持つが、ハクジラ類の歯は、化石種を含めて大半が二次的に同形歯を呈している。また、歯の本数が真獣類の基本数である四十四本よりも多いものや、逆に大半が失われているものなど、変異が甚だ多い。また、アカボウクジラ科 Ziphiidae の一部のように、♂のみが下顎に一対の歯を持つものや、角のように伸びた歯を持つイッカク(鯨偶蹄目イッカク科イッカク属イッカク Monodon monoceros)の♂などのように特異な形態を示すものも少なくない。陸生の捕食者たちの歯は捕殺の道具として使用されるが、ハクジラ類の大半は、魚体を捕捉するための罠として機能する。しかしシャチ(ハクジラ亜目マイルカ上科マイルカ科シャチ亜科シャチ属シャチ Orcinus orca )などのように、丸呑みが出来ない中・大型のクジラやサメを狙うものは、捕らえた獲物を引き裂き、飲み込みやすい大きさにまで切り刻むために歯を使っている。また、アカボウクジラ科の一部の種の♂は特異な歯をディスプレイ(display:動物が求愛や威嚇のために自分の目立つ特徴を強調したり、また大きく見せる姿勢や動作をすること)として使用していると推定される。ハクジラの仲間の歯は、殆んどが尖った犬歯状を呈していて、魚やイカ等を摂餌している。ヒゲクジラに比べると体は小さく、群れで暮らしていることが多い。ハクジラの中でもマッコウクジラ(鯨偶蹄目 Whippomorpha 下目ハクジラ小目マッコウクジラ科マッコウクジラ属マッコウクジラ Physeter macrocephalusは特異的に大きな体を持っている(マッコウクジラの♂の体長は約十六 ~十八メートルで、♀の約十二~十四メートルと比べると、三十 ~五十%も大きい。体重は♂の五十トンに対し、メスは半分の二十五トンで典型的な性的二型を示す)(以上は複数のウィキペディアの記載その他を参考にした)。グーグル画像検索「クジラ 歯」をリンクさせておく。]
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