大和本草附錄 櫻苔(サクラノリ) (サクラノリ)
櫻苔 壹岐ノ島海岸ニ產ス其色紅白似櫻花片々
相屬浸酢鼓而食之脆鬆而潔淸味亦佳
○やぶちゃんの書き下し文
櫻苔(さくらのり) 壹岐(いき)の島、海岸に產す。其の色、紅白。櫻花に似たり。片々、相ひ屬す。酢鼓(すみそ)浸して之れを食ふ。脆(ぜい/もろし[やぶちゃん注:右ルビ/左ルビ、])鬆〔しよう/そう〕にして、潔淸〔たり〕。味も亦、佳(よ)し。
[やぶちゃん注:これは困った。まず、壹岐の海藻でかく呼ばれているものが見当たらないことが大きい。壹岐の海藻食品を調べてもそれらしいものがない。とすれば、恐らくは壹岐に限るなら、岩礁性海藻と考えた。しかも、流通に廻るような有意に多く採取をすることが難しく、養殖も出来ない或いはなされていない種であろうと仮定した。田中次郎著「日本の海藻 基本284」(二〇〇四年平凡社刊)を調べると、立項されていないものの、岩礁地帯に生育する紅藻植物門紅藻綱マサゴシバリ亜綱イソノハナ目ムカデノリ科ムカデノリ属スギノリ目ムカデノリ科マツノリ Polyopes affinis の項に類似種としてサクラノリが出ていた。さらに、鈴木雅大氏のサイト「生きもの好きの語る自然誌」のこちらに、標準和名で、
紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イソノハナ目ムカデノリ科ムカデノリ属サクラノリ Grateloupia imbricata
として当該種の生態写真も見ることができた。そこには『海藻の多くは種同定に窮するものですが』、『本種は太平洋中部に生育する紅藻の中で』も、『普通種でありながら』、『自信を持って名前を付けた』(同定比定した)『経験がただの一度もありません。著者にとって苦手とする種類の一つで』、『台湾で採集した個体を見る限り,生殖器官が枝の前面に散在するのが最も顕著な特徴と考えられ』、『外形については,比較的体下部付近から分枝することが特徴となるようで』あるが、『他のムカデノリ属(Grateloupia)の例に漏れず』、『激しく形態変異し』、『淡路島で採集した個体(DNA鑑定済)は肉厚で幅広く』、『ミゾオゴノリ(Gracilaria incurvata)などのオゴノリ類かと思ったほどで』あると述べられ、さらに、『「肉厚な」というのは本種について図鑑等で良く見られる表現で』あり、寧ろ、『台湾の個体の方が変わっているのかもしれ』ないと言い添えておられる。この田中氏の採取した台湾産のそれが、肉厚でないとすれば、或いは、同じ対馬海流域にある壹岐のそれが或いは益軒の言うように、「脆」(もろ)くてしかも、藻体内が緻密でなく「鬆」(音「ショウ・ソウ」で、訓では「す」、則ち、「豆腐にすが入ってしまう」の「す」で、「内部が充実しておらず、空隙があること」を指す)が入っているというのもあり得ないことではないように思われる。写真を見るに、一見、がっしりして見えるのだが、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のサクラノリのページを見ると、『長さ10cm前後にな』り、『根元は平たくクサビ』(楔)『状』を呈し、『触ると』、『柔らかい』とあって、肉厚でも、藻体は柔らかであるようである。また、和名についても、『漢字/桜海苔』とあって、『由来・語源/広げると』、『桜の花びらに似ているため』とあるのである。問題はそうなると、益軒の言う色、「紅白」である。しかし、そもそもが、海藻で生体が紅・白の二様にくっきりと分かれて個体や個体群があるのであれば、これはまず、非常に目立つし、潮間帯下の岩礁性海藻ならば、まず、一般的に非常に知られていなくてはならないはずである。しかし、そんな海藻は私は寡聞にして漏れ聴いたこともない。とすれば――この紅白とは、「個体によって紅色の強いものと、白っぽい二種がある」と言っているのではないか?――と思われるのである。そこで、鈴木氏のページの頭の四枚の写真を見ると、生体時には、褐色のやや強い個体と、明らかにそれが脱色したかのような白いとは言わぬまでも、かなり薄い褪赭色の個体があることが判明する。さすれば、前者を後者に比して「紅」と言い、後者を「白」と言っても、強ち、言い過ぎとも思えない気がしてくるのである。しかも和名は「桜海苔」なのだ(但し、藻の先の形とのことであるが)。「ほんのり桜色」というのは「紅」よりも「白」い色を私は意識する。益軒の記載が痩せているので、他の種である可能性もあるが、取り敢えず、私はサクラノリに同定しておく。
「潔淸」これは藻体を触った時の感触及び、切った内部、生で噛んだ場合などに、粘つきがないことを言っているものと思う。
「味も亦、佳(よ)し」田中氏はマツノリの記載の中で、『コメノリ同様ぷりぷりした感じでとても歯触りがよい』とされる。コメノリはスギノリ目ムカデノリ科コメノリ Polyopes prolifera で、前に述べた通り、この前で田中氏は『類似種のコメノリやサクラノリ』と述べておられるわけで、本サクラノリが食用になることは、この記載から私は間違いないと踏んでいる。]
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