大和本草附錄 肥後の八代川苔 (スジアオノリ)
肥後八代川苔 色綠美長一尺餘味佳長崎ノ海ニ
靑苔アリ八代苔ヨリ短シ味尤ヨシ伊勢苔武藏ノ
淺草品川苔皆同類也靑苔ナリ肥後八代ノリノ
外皆海苔也
○やぶちゃんの書き下し文
肥後の八代(やつしろ)川苔(〔かは〕のり) 色、綠。美。長さ一尺餘り。味、佳し。長崎の海に靑苔〔(あをのり)〕あり。八代苔(やつしろのり)より、短し。味、尤〔(もつとも)〕よし。伊勢苔(〔いせ〕のり)、武藏の淺草(あさくさ)・品川苔(しながはのり)、皆、同類なり。靑苔なり。肥後の八代のりの外(ほか)、皆、海苔〔(うみのり)〕なり。
[やぶちゃん注:前の「海粉」の後には十条を数えるが、水辺に生えるものが数種あるものの、純粋な水草ではないので採らなかった。文政八(線八百二十五)年跋の版本編「物品識名拾遺」(尾張岡林清達の稿を水谷豊文(みずたにとよぶみ)が編したもので、「物品識名」の後編。日本産の動物・植物・鉱物名をイロハ順に列挙し、さらに「水」・「火」・「土」・「金」・「石」・「草」・「木」・「蟲」・「魚」・「介」・「禽」・「獣」に分類し、カタカナで和名を、その下に漢名を記載し、ものによっては出典なども付したもの)に七十五丁に(早稲田大学図書館「古典総合データベース」の同書(PDF)で視認した。14コマ目)、
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ヤツシロノリ【肥後八城産】 紫菜(アマノリ)一種
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とあった。この「アマノリ」が正しいとすれば、紅色植物門ウシケノリ綱ウシケノリ目ウシケノリ科 Bangiaceae の一種となるが、どうも違う。「八代漁業協同組合」公式サイトの「八代青のり」を見ると、はっきり「スジアオノリ」とあり、これは
緑藻植物門緑藻綱アオサ目アオサ科アオサ属スジアオノリ(筋青苔)Ulva prolifera
が正解となる。前掲の田中氏の「日本の海藻 基本284」では、学名を「Enteromorpha prolifera」とするが、これは本種のシノニムなので問題ない。以下、田中氏の解説によれば、『四国の名産品』として『「青海苔』が知られるが、それは『この種が使われていることがほとんど』とある。『河口付近の淡水が混じる海域に生育することが多い。直径や長さ、江分かれの数など』、『個体ごとの形態の変異が大きい』。同属の『ボウアオノリ』Ulva intestinalis(異名にイトアオノリ。Enteromorpha intestinalis・Enteromorpha capillarisはシノニム)『に似るが、藻体全体、とくに下部からの小枝が多く出ていることが識別点である』。『本種はアオノリのなかでももつとも美味とされ、食用として重要種である。徳島県吉野川や高知県四万十川での養殖が有名である』とある。ここでは、ここで名にし負う熊本県八代市の球磨川河口(グーグル・マップ・データ)のそれも付け加えておこう。また、各地の加工品のそれを画像で載せておられる「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のスジアオノリのページも必見。私はそこに載る、新鮮なそれの天ぷらを、食べたくて食べたくて仕方がない。
「長崎の海に靑苔あり」「伊勢苔(〔いせ〕のり)、武藏の淺草(あさくさ)・品川苔(しながはのり)」と示すのは孰れも殆んどが最初に示した縁の遠いウシケノリ類と考えられる。それらは「大和本草卷之八 草之四 紫菜(アマノリ)(現在の板海苔原材料のノリ類)」を参照されたい。]
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