大和本草附錄巻之二 蟲類 海馬(かいば) (タツノオトシゴ)
海馬 入門云背カヾマリ如竹節紋長二三寸色黃
褐ナリ。シヤコト云說アリ。シヤコニハアラズ別也此物ザ
コノ内ニマジリテ有之
○やぶちゃんの書き下し文
海馬(かいば) 「入門」に云はく、『背、かゞまり、竹の節〔(ふし)〕の紋のごとし。長さ、二、三寸。色、黃褐なり。』と。「しやこ」と云ふ說あり。「しやこ」にはあらず。別なり。此の物、ざこの内にまじりて、之れ、有り。
[やぶちゃん注:トゲウオ目ヨウジウオ亜目ヨウジウオ科タツノオトシゴ亜科タツノオトシゴ属 Hippocampus のタツノオトシゴ類。外見の形態分類に従った伝統的博物学や本草学では、「蟲類」は現行の昆虫類よりも遙かに範疇が広い。概ね水産・陸産を問わず、無脊椎動物大部分や、魚やその他の尋常生物には見えない奇体な印象を与える生物群もここに体よく押し込まれた。既に益軒は「大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 海馬」で挙げている。本邦の当該標準和名種はタツノオトシゴ Hippocampus coronatus 。中国では全長が二十から三十センチメートルに達するような大型種である、タカクラタツ Hippocampus trimaculatus ・クロウミウマ Hippocampus kuda ・オオウミウマ Hippocampus kelloggiなどの一個体或いは雌雄個体の全乾燥品が漢方薬「海馬(かいま)」として珍重されてきた歴史がある(如何にもな強精・強壮剤としてである。現在、そのためにこうした大型種は激減してしまった)。私の『神田玄泉「日東魚譜」 海馬 (タツノオトシゴ)』と、サイト版の栗本丹洲(「栗氏千蟲譜」巻七及び巻八より)「蛙変魚 海馬 草鞋蟲 海老蟲 ワレカラ 蠲 丸薬ムシ 水蚤」も見られたい。
「入門」明の李橚(しゅく。但し、李梃(てい)ともする)「醫學入門」。一五七五年成立。中国古今の医説の要説を述べ、経絡から臓腑の解説、諸科の診断と治療法、本草の性質概説、歴代医学者の名まで網羅する。全七巻。「内集」の巻二「本草分類」内に、
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海馬 出西海。大小如守宮蟲、首若馬、身如蝦、背傴僂有竹節紋、長二三寸、色黃褐、以雌雄各一爲對。
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とある。
「しやこ」甲殻亜門軟甲綱トゲエビ亜綱口脚目シャコ上科シャコ科シャコ Oratosquilla oratoria 。「大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 蝦蛄」を参照。博物画は『毛利梅園「梅園介譜」 蝦蛄』にトドメを刺す。
「ざこ」「雜魚」。]
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