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2021/04/25

芥川龍之介書簡抄46 / 大正四(一九一五)年書簡より(十二) 井川恭宛献詩

 

大正四(一九一五)年九月十九日・田端発信・井川恭宛(転載)

 

  詩四篇

 井川君に獻ず

 

   I 受胎

いつ受胎したか

それはしらない

たゞ知つてゐるのは

夜と風の音と

さうしてランプの火と――

熱をやんだやうになつて

ふるへながら寢床の上で

ある力づよい壓迫を感じてゐたばかり

夜明けのうすい光が

窓かけのかげからしのびこんで

淚にぬれた私の顏をのぞく時には

部屋の中に私はたゞ獨り

いつも石のやうにだまつてゐた

さう云ふ夜がつゞいて

いつか胎兒のうごくのが

私にわかるやうになつてくると

時々私をさいなむ

胎盤の痛みが

日ごとに强くなつて來た

あ神樣

私は手をあはせて

唯かう云ふ

 

   Ⅱ 陣痛

海の潮のさすやうに

高まつてゆく陣痛に

私はくるしみながら

くりかへす

「さはぐな 小供たちよ」

早く日の光をみやうと思つて

力のつゞくだけもがく小供たちを

かはゆくは思ふけれど

私だつてかたわの子はうみたくない

まして流產はしたくない

うむのなら

これこそ自分の子だと

兩手で高くさしあげて

世界にみせるやうな

子がうみたい

けれども潮のさすやうに

高まつてゆく陣痛は

何の容赦もなく

私の心をさかうとする

私は息もたえだえに

たゞくり返す

「さはぐな 小供たちよ」

 

   Ⅲ めぐりあひ

何年かたつて

私は私の子の一人に

ふと町であつた事がある

みすぼらしい着物をきて

橦木杖をついた

貧弱なこの靑年が

私の子だとは思はなかつた

しかしその靑年は

挨拶する

「おとうさまお早うございます」

私は不愛相に

一寸帽子をとつて

すぐにその靑年に背をそむけた

日の光も朝の空氣も

すべて私を嘲つてゐるやうな

不愉快な氣がしたから

 

   Ⅳ 希望

こんどこそよい子をうまうと

牝鷄のやうに私は胸をそらせて

部屋の中をあるきまはる

今迄生んだ子のみにくさも忘れて

 

こんどこそよい子を生まうと

自分の未來を祝福して

私は部屋のすみに立止まる

ウイリアム・ブレークの銅版畫の前で

          一九一五 九月十九日

                龍 之 介

 

[やぶちゃん注:全体が四字下げであるが、これは私には、芥川龍之介の新生、それも作家芥川龍之介の新生を予告する詩篇のように思われる。

「橦木杖」は「しゆもくづゑ(しゅもくづえ)で普通は「撞木杖」と書く。頭部が丁字形になった杖。但し、「橦」も音が「シュ」であり、「天秤棒や旗竿などの真っ直ぐな棒」・「鐘を撞(つ)く棒」の意や、動詞で「突く・突き破る」の意があるから違和感はない。]

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