久しぶりに書きたい夢を見た
私は教員になった二十二で、ひどく田舎の地に赴任することになった。私は友人家族の世話で、一面の畑の奥の山渓の古アパートに入った。そこは鉄道が敷かれているものの、一時間に一本しか(それも蒸気機関車)来ない。アパートの大家は川漁の達人だった。
引越の日には近くに住む友人の母と娘(少女)が手伝いに来てくれ、一晩、泊まっていった。ところが、翌朝、目覚めて見ると、少女一人しかいなかった。私が尋ねると、
「私は、初めから、一人でした。」
と平気な顔をしている。
汽車の汽笛が聴こえた。少女が、
「あれに乗らないと遅れてしまうわ!」
と言った。[やぶちゃん注:ここまでは総てにつけて「つげ義春」風。]
私は大急ぎで背広に着替えて、それを翼のように翻しながら、畑の中を突っ切って、線路を跨ぎ、何んとか間に合って、汽車に飛び乗った。昇降口から身を乗り出して背後を見ると、少女が手を振っている。私は、
「今夜は料理を作るから、待っていて!」
と叫ぶ自分を、俯瞰で撮っていた。[やぶちゃん注:このシーンは唐突に「誓いの休暇」風。]
その晩、私は豪華なパエリアを作って少女と食事をした。
翌朝は日曜日で、少女を家まで歩いて送り届けた。そこは昔の大船の山間であった。私は少女にいろいろな場所を案内しつつ、この少女と別れるのがひどく淋しい気がしていた。
その時、気がついたのだ。
『この少女は友人の母親の少女時代の姿だ。』
しかし、それを口に出そうとした時、少女は右手の人差し指を立てて、私の唇に押し当てた。[やぶちゃん注:ここでまた、突然、「つげ義春」風。]
少女の家に着いた。しかし、母はいない。老いた父親が迎えて呉れた。私はそこの厨房を借りて再び渾身のパエリアを作り、三人で黙って食べた。
少女は涙を流しながら。…………
*
何か哀しい気持ちになって目が覚めた。因みに、この少女は「北の国から」の中嶋朋子の螢にそっくりだった。
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