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2021/04/29

大和本草附錄巻之二 介類 葦蟹(あしがに) (アシハラガニ)

 

葦蟹 仙覺カ萬葉集ノ註ニ云海邊ニ人馬ナドノ音ヲ

キヽテハシリ出ル白キカニナリ○篤信謂凡如此非

常ノ產物非佳品其性モ亦不好不可食

○やぶちゃんの書き下し文

葦蟹(あしがに) 仙覺が「萬葉集」の註に云はく、『海邊に、人馬などの音を、きゝて、はしり出づる、白き「かに」なり。』と。

○篤信〔(あつのぶ)〕、謂はく、「凡そ、此くのごとく、非常の產物、佳品に非ず、其の性も亦、好からず。食ふべからず。」と。

[やぶちゃん注:これは、まず、和名から(近年、以下の三属に分離された)、

甲殻亜門軟甲(エビ)綱十脚(エビ)目抱卵(エビ)亜目短尾(カニ)下目イワガニ上科モクズガニ科 Cyclograpsinae 亜科アシハラガニ属アシハラガニ Helice tridens(甲幅三センチメートルほど。干潟を徘徊するカニとしては大型。甲羅は僅かに横長の長方形で厚みがある。両眼の間が窪み、甲側縁には三個の鋸歯を有する。鉗脚は左右同大で、太くて丸っこく、表面は滑らかである。生体の体色はほぼ全身が青緑色だが、鉗脚は淡黄色で白っぽくも見え、甲も淡黄色の縁取りがある。鉗脚は左右同じ大きさである。本邦では本州以南に分布する。河口や内湾の砂泥干潟や、その上側にある塩沼に生息する。砂泥に直径三~四センチメートル、深さ四十センチメートルほどの巣穴を掘って生活するが、海から遠く離れることはない。また和名に「アシハラ」とあるが、ヨシ原より、やや海側に多い。潮の引いた砂泥上で活動するが、昼よりも夜が活発である。食性は雑食性であるが、主食はヨシの葉などの植物質の分解過程のデトリタスとする。繁殖期は夏で、この時期には抱卵した♀が見られる。孵化して海中に放出されたゾエア幼生は三週間ほどでメガロパ幼生に成長し、海岸へ戻ってくる。成熟するのに二年、寿命は数年ほどとみられている)

或いは、

Cyclograpsinae 亜科 Pseudohelice 属ミナミアシハラガニ Pseudohelice quadrata (甲幅二センチメートルほど。アシハラガニに似るが、小型で、体格も丸みがある。体色は濃褐色で、白黒の斑点が散在する。本邦では伊豆大島以南の西日本に分布する。アシハラガニと異なり、砂泥地ではなく、礫地や転石地を好み、巣穴からはあまり出てこない)

Cyclograpsinae 亜科 Helicana 属ヒメアシハラガニ Helicana japonica (甲幅二センチメートルほど。生体の体色は緑褐色で、全身に細かい白斑がある。相模湾以西の西日本に分布し、河口域の軟泥干潟に巣穴を掘って生息する。アシハラガニに比べて肉食性が強く、ハクセンシオマネキやチゴガニ等を捕食する)

となろう(以上は概ねウィキの「アシハラガニに拠った)。

「萬葉集」巻十六の「乞食者(ほかひびと)の詠(うた)二首」の二番目(三八八六番)に、

   *

おし照るや 難波の小江(をえ)に 廬(いほ)作り 隱(なま)りて居(を)る 葦蟹(あしがに)を 大君召すと 何せむに 吾(わ)を召すらめや 明(あけら)けく 吾が知ることを 歌人(うたびと)と 吾を召すらめや 笛吹きと 吾を召すらめや 琴弾きと 吾を召すらめや かもかくも 命(みこと)受けむと 今日今日と 飛鳥に到り 立てれども 置勿(おくな)に至り 築(つ)かねども 都久野(つくの)に至り 東(ひんがし)の 中(なか)の御門(みかど)ゆ 參り來て 命受くれば 馬にこそ 絆(ふもだし)掛くもの 牛にこそ 鼻繩(はななは)はくれ あしひきの この片山の もむ楡(にれ)を 五百枝(いほえ)剝ぎ垂れ 天光(あまて)るや 日の異(け)に干し 囀(さひづ)るや 唐臼(からうす)に搗(つ)き 庭に立つ 手臼(てうす)に搗き おし照るや 難波の小江の 初垂(はつたり)を 辛く垂れ來て 陶人(すゑひと)の 作れる瓶(かめ)を 今日行き 明日取り持ち來(き) 吾が目らに 鹽塗り給ひ 腊(きたひ)賞(はや)すも 腊賞すも

 右の歌一首は、蟹の爲に痛(いたみ)を述べて作れり。

   *

講談社文庫の中西進全訳注版によれば、『蟹運びの集団が所作をもって歌った歌謡で、蟹の立場に立つ痛みを述べる要素と、貢上者への奉仕とを謳う。蟹踊りは応仁記』にもあるとする。以下、同注やその他を参考に、私の感想も交えて簡単に語注する。

・「廬(いほ)」蟹の掘った巣穴。「ほかいびと」のあばら家も暗示させて、自らを献上する葦蟹にも喩える導入である。

・「隱(なま)りて」「なばりて」と同じで「隠れて」。

・「吾(わ)を召すらめや」雌(めす)の蟹は「ししびしお」(塩漬け)の食材として召すとして、儂は「蟹踊り」の技芸を見せるために召されたか? という洒落とする。

・「飛鳥」は河内飛鳥(現在の大阪府羽曳野市東部・南河内郡太子町などを指す旧地域。この中央附近。グーグル・マップ・データ。以下同じ)。

・「置勿」は奈良県大和市奥田かとする。

・「都久野」は奈良県橿原市の桃花野(つきの)とするが、これは鳥屋ミサンザイ古墳(宣化天皇身狭桃花鳥坂上陵(むさのつきさかのえのみささぎ)附近のことか。

・「絆(ふもだし)」馬を使役するために胴回りを縛る腹掛けか。

・「鼻繩(はななは)」牛を繩で繋ぐための牛の鼻に通した輪状の「はなぐり」と繩。思うに、献上する葦蟹は逃げ出さないように藁で脚と腹とを藁で縛られていることをも以上で匂わせているように私は感じる。それは「ほかいびと」の蟹踊りの召し出しの「縛り」にも繋がるであろう。

・「はくれ」「佩くれ」。

・「もむ楡(にれ)」「延喜式」に、ニレ(バラ目ニレ科ニレ属ハルニレ Ulmus davidiana var. japonica )の皮を揉んで粉にしたもを使った「楡木(にれぎ)」という名の漬物が記録されている。

・「五百枝(いほえ)剝ぎ垂れ」先の調味料を作るために「五百枝も剥いで」(乾すために)「吊り垂らして」。

・「囀(さひづ)るや」以下の臼音の比喩。

・「唐臼(からうす)」は足踏み式だから「手臼」が応じる。

・「初垂(はつたり)」砂で雑物を漉した最初の精製された「辛く」濃い潮水。これで葦蟹を漬ける。

・「腊(きたひ)」本来は「ほじし」と訓じ(音は「セキ・シャク」)、「保存用に重ねた干し肉」の意だが、ここは蟹を細かく擂り潰して塩漬けにしたものを指している。所謂、佐賀の郷土料理として知られる私の好きな「蟹(がん)漬け」である。今や、中国産の蟹で作られている。

   *

『仙覺が「萬葉集」の註』仙覚(建仁三(一二〇三)年~文永九(一二七二)年以後)は鎌倉時代の天台僧で「万葉集」の研究者。俗姓未詳。東国生れ(常陸国とする説有り)で、北条時政に滅ぼされた豪族比企氏の出身であるとされる。「万葉集」を研究し、まず、諸本の校訂に努め、無点歌に新点を加えて後嵯峨天皇に奏上し、また、書写本を宗尊親王に奉っている。さらに万葉注釈書の先駆(古注と称する)をなす「万葉集註釈」を文永六(一二六九)に完成させた。比企一族所縁の妙本寺でこの古注の研究に励んだことから、本堂左手に顕彰碑が建つ。

「篤信」貝原益軒の本名。

「非常の產物」救荒時の食料。

「其の性も亦、好からず。食ふべからず」モクズガニ(短尾下目モクズガニ科モクズガニ亜科モクズガニ属モクズガニ Eriocheir japonicus )とは異なり、淡水域には立ち入らないので、ウェステルマン肺吸虫症(扁形動物門吸虫綱二生亜綱斜睾吸虫目住胞吸虫亜目住胞吸虫上科肺吸虫科Paragonimus 属ウェステルマン肺吸虫 Paragonimus westermanii :ヒトを最終宿主とする)の危険性は低い。]

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