大和本草附錄巻之二 魚類 すず (ダツ) / 大和本草附錄巻之二 魚類~了
スヾ ハ海魚也二尺許橫セバクタテ長シ馬鮫魚ノ
形ニ似タリ色モ亦似タリ○漁人ノ曰骨多ク味不好
且有小毒非佳品
○やぶちゃんの書き下し文
「すゞ」は海魚なり。二尺許り。橫、せばく、たて、長し。馬鮫(さはら)魚の形に似たり。色も亦、似たり。
○漁人の曰はく、「骨、多く、味、好からず。且つ、小毒、有り。」〔と〕。佳品に非ず。
[やぶちゃん注:大きさから、
条鰭綱ダツ目ダツ亜目ダツ上科ダツ科ダツ属ダツ Strongylura anastomella (全長一メートルほど。日本海と東シナ海を含む西太平洋の温帯域に分布する。日本でも北海道南西部以南で見られるが、南西諸島と小笠原諸島には分布しない。私は刺身を食べたことがあるが、まあ、美味くも不味くもなかった)
の他、本邦近海には、同属の、
リュウキュウダツ Strongylura incisa (全長七十センチメートルほど。ダツに比べて頭部の鱗が大きい。日本では南西諸島に分布する)
や、
ハマダツ属ハマダツ Ablennes hians (全長一・二メートルに達し、体側に黒っぽい横縞模様が出ることで他の種類と区別できる。全世界の熱帯・温帯域に広く分布し、本邦では本州以南の沿岸に分布する)
ヒメダツ属ヒメダツ Platybelone argalus(全長五十センチメートルほどで、ダツ類の中では小型種。尻鰭が背鰭よりも前にあること、目が体長の割には大きいことで他の種類と区別する。本邦では南西諸島・小笠原諸島に分布する)
テンジクダツ属テンジクダツ Tylosurus acus (全長一メートルほど。本邦の沿岸表層域で普通に見られる。下顎に角のような下向きの突起が出ることが多い)
テンジクダツ属オキザヨリ Tylosurus crocodilus(全長一・三メートルに達する。生きている時は鰓蓋に青い横縞が一本入り、背面は濃紺、側面は銀白色、腹面は白い。他のダツ類に比べて、より太く、頭部が短い。明瞭な尾柄隆起があり、尾鰭は強く二叉する。最大全長一・五メートル、最大重量六・三五キログラムの記録があるという。私は高校時代(一九七二~一九七四年)に高岡市伏木の国分港と小矢部川の間の防波堤上から、本種の超巨大個体を目撃した。恐らくは一・五メートルはあった。体を悠々と優雅にくねらせて、私の目の下水面を通って行った。鰓の青い横縞をはきり覚えており、背部の紺色が、秋の陽に虹色に輝いて見えた。大きさに慄然としつつも、どこかで幻界にあって時空が止まったのような気持ちを味わったのを忘れない。友人も父母も全く信じてくれなかったが)
である。なお、本種は物理的な海産の超危険動物としてよく知られている。当該ウィキによれば、『捕食の際』には、『小魚の鱗で反射した光に敏感に反応し、突進する性質がある。暗夜にダツが生息する海域をライトで照らすと、ダツが激しく突進してきてヒトの体に突き刺さることがある』『ので』、『夜間の潜水はとくに注意が必要である。実際にダツが人体に刺さって死傷する事故も発生しており』、『沖縄県の漁師には、鮫と同じくらいに危険視されている』。『ダツが刺さった時は』、『むやみに抜くと』、『出血多量に陥る場合があるので、抜かずにダツを殺してから慎重に病院に行く』とあるほどである。なお、サヨリ(ダツ目トビウオ亜目サヨリ科サヨリ属サヨリ Hyporhamphus sajori )や、時にサンマ(トビウオ亜目サンマ科サンマ属サンマ Cololabis saira )も異名で「スズ」と呼ぶが、ここはサイズと、本巻で「大和本草卷之十三 魚之下 鱵魚(さより)」が出ていること(サンマが出ていないのはちょっと不審だ)、及び、スズキ目サバ亜目サバ科サバ亜科サワラ族サワラ属サワラ Scomberomorus niphonius に似ているとあること、食味を評価していないことから、総合的にダツの異名ととった。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のダツのページに、岡山県笠岡市採取で「スズ」の異名を掲げる。
「小毒、有り」不審。ダツに毒性があるというのは聴いたことがない。]
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