大和本草附錄巻之二 魚類 (魚類の食に於ける属性論)
生魚ハ食シテ不泥滯消化シヤスシ煮モ炙ルモ皆ヨシ
鹽淹乾燥日久或爲鮓者皆消化シ難シテ滯ル譬
ヘバ生地黃ハ大寒トイヘ𪜈宜通シテ不泥熟地黃ハ
卻テ泥滯スルガ如シ葢生物ハ陽氣猶殘リテ化シヤ
スク熟物ハ既ニ生氣ヲ失テ化シガタシ生物ヲ畏レ
テ拘ハリ泥ムベカラズ然レ𪜈毎物生ヲ好ミ熟ヲ忌ニハ
非ズ食物ノ性ヲ辨ズルニ此理ヲ知ベシ
○やぶちゃんの書き下し文
生魚〔なまうを〕は食して泥滯〔(でいたい)〕せず、消化しやすし。煮(に)るも、炙(あぶ)るも、皆、よし。鹽淹〔(しほづけ)〕・乾燥、日、久しく、或〔いは〕鮓〔(すし)〕と爲す者は、皆、消化し難くして、滯〔(とどこほ)〕る。譬(たと)へば、生地黃〔(しやうぢわう)〕は大寒といへども、宜〔(よろ)しく〕通じて、泥〔(なづ)〕まざれども、熟地黃〔(じゆくぢわう)〕は卻〔(かへつ)〕て泥滯〔(でいたい)〕するがごとし。葢〔(けだ)し〕、生物〔(なまもの)〕は陽氣、猶ほ、殘りて、化〔(くわ)〕しやすく、熟物〔(じゆくもつ)〕は既に生氣を失つて、化しがたし。生物〔(なまもの)〕を畏れて、拘〔(こだ)〕はり、泥〔(なづ)〕むべからず。然れども、毎物〔(まいぶつ)〕、生を好み、熟を忌〔(い)む〕には非ず。食物〔(しよくもつ)〕の性〔(しやう)〕を辨ずるに、此の理〔(ことわり)〕を知るべし。
[やぶちゃん注:「泥滯〔(でいたい)〕」腹中にあって滞留して消化が上手く進まないこと。
「鹽淹〔(しほづけ)〕」塩漬け。
「乾燥」干物。
「日、久しく」上の二種を受けて、「塩蔵及び乾燥させて有意な長い日数を経た」は、「鮓〔(すし)〕と爲す」と並列であって、ともに「者は」に掛かる。
「生地黃〔(しやうぢわう)〕」キク亜綱ゴマノハグサ目ゴマノハグサ科アカヤジオウ(赤矢地黄)属アカヤジオウ Rehmannia glutinosa の根を陰干しした生薬。
「大寒」漢方で体を冷やす作用が最も強いことを指す。
「泥〔(なづ)〕まざれども」「泥滯」に同じで体内で滞留してしまい、排出されずに、却って悪い証を呈したりすることを指す。
「熟地黃〔(じゆくぢわう)〕」生地黄を酒と一緒に蒸して作った生薬。但し、酒が含まれるため、性は寒が殺がれて温に近くなる。
「卻〔(かへつ)〕て」「却つて」に同じ。
「毎物〔(まいぶつ)〕」どんな摂餌対象であっても。]
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