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2021/05/21

芥川龍之介書簡抄66 / 大正五(一九一六)年書簡より(十三) 久米正雄宛

 

大正五(一九一六)年九月九日・田端発信・久米正雄宛

 

  芙蓉  新體香奩の一

 朝ながらゆめはいまだし紅芙蓉ただほのぼのとあかるきあはれ

 この朝けきりをお應しと紅芙蓉ほのかにさくはあはれなるかな

 むなしかる霧のこころに紅芙蓉ほのぼのとしていきづきにけり

 

右樣の次第につき 小生の近狀よろしく御推察下され度く候

久保万より「駒形より」をもらひ、今さらに 彼等の「出版易(い)」(新熟語)を羨み候 内容は三田文にのせし劇評 新聞へのせし小品のみ 小生 新思潮來月號に批評致す可く候

この頃 インスピレーション 無沙汰にて車力の如く 小說をかき居り候 千萬つまらなく御座候 但、少々さとりたる事有之 來春後は しばらく筆をたたむかと思ひ居り候

この頃ゲーテ言行錄と申すものをよみ 感歎多時 手卷を釋くに忍びざるヽもの有之候 殊に彼が「人は多方面でありたい。多方面の作物をのこしたい。それぞれの作物には その創作されたそれぞれの時の意味がある。自分は 賭博者の如く 現在に全部をかけやうと思ふ」と申候如き 殊に知己古人にありとも申し候ふべき乎

秦氏より錦畫の借金 催促され 窮し居り候 同氏が「愛する久米よ」を 御讀みになり候や否や 小生の讃辭の後に借金の催足[やぶちゃん注:ママ。]あり 「愛する久米よ」の後に 何があるかを知らず 天下は物騷千萬と覺え候

とりあへず 右御ひまつぶしまでに

                   龍

  久米賢臺

 

[やぶちゃん注:本書簡は旧全集に載らない。葛巻義敏編「芥川龍之介未定稿集」(岩波書店一九七八年刊)に拠った。短歌があるので採った。

「新體香奩」「しんたいかうれん(しんたいこうれんたい)」と読む。「香奩体」とは中国の詩風の一体で、主に後宮の婦人や深窓の閨媛などを詠んだ艶麗・艶情・媚態・閨怨を主題とした官能的なものをいう。晩唐の詩人韓渥(かんあく)は、官能的な艶美の詩が得意で、そうした艶体の詩ばかりを集めた彼の詩集「香奩集」三巻が評判を呼び、後に「香奩体」という詩体の呼称になったものである。同大正九年十一月に発表した「漢文漢詩の面白味」(リンク先は私のサイト版)を読むと、龍之介自身がこの香奩体自体に興味を持っていたことが窺われる。私の「芥川龍之介漢詩全集 十八」も参照されたい。

「久保万」作家・劇作家で俳人としても知られた久保田万太郎(明治二二(一八八九)年~昭和三八(一九六三)年)。浅草生まれ。耽美派(『三田』派)の新進作家として登場。劇作でも慶大在学中から注目され、築地座を経て「文学座」創立に参加し、広く新派・新劇・歌舞伎の脚色・演出と多方面に活動を展開した。「日本演劇協会」会長を務め、文壇・劇壇に重きをなした。小説・戯曲ともに多くは浅草が舞台で、江戸情緒を盛り込んだ情話で流行作家となった。文人俳句の代表作家としても知られ、俳誌『春燈』を創刊・主宰した。生家は「久保勘」という袋物(足袋)製造販売を業とした。府立三中に進学、一級下に芥川龍之介がおり、特に俳句の面では龍之介の師匠格であった。

「駒形より」大正五(一九一六)年平和出版社刊の随筆。多くの劇評も含む。国立国会図書館デジタルコレクションの画像で全文が読める

『「出版易(い)」(新熟語)』思うがままにすぐ出版出来る御身分のニュアンス。

「小生 新思潮來月號に批評致す可く候」第四次『新思潮』第一巻第九号(大正五年十一月一日発行・十一月号)に、「新刊紹介」に「駒形より 久保田万太郎著」として芥川龍之介が書評を発表している。

「秦氏」秦豊吉。既出既注

「愛する久米よ」不詳。識者の御教授を乞う。

「賢臺」対称代名詞。多く書簡の宛名などで、同輩或いはそれ以上の人を敬っていうのに用いる敬称。「貴下」「賢兄」に同じ。]

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