大和本草卷之八 草之四 水草類 龍舌草 (ミズオオバコ)
龍舌草 水中ニ生ス葉如車前水中生花花白如菱
而大處々有之本草水草類載之西土ノ方言水ホコ
リト云水カハケハ葉枯ル又水葵ト云葵葉ニモ似タリ花ハ
三出ナリ八月ニサク實ハ三角アリ細ナリ
○やぶちゃんの書き下し文
龍舌草〔(りゆうぜつさう)〕 水中に生ず。葉、車前のごとし。水中に花を生ず。花、白く、菱のごとくにして大なり。處々に、之れ、有り。「本草」、「水草類」に之れを載す。西土の方言〔に〕「水ほこり」と云ふ。水、かはけば、葉、枯〔(か)〕る。又、「水葵」と云ふ。葵〔の〕葉にも似たり。花は、三〔つ〕出〔づる〕なり。八月に、さく。實は三角〔(みつかど)〕あり。細〔(さい)〕なり。
[やぶちゃん注:単子葉植物綱オモダカ目トチカガミ科ミズオオバコ属ミズオオバコ Ottelia alismoides の異名。当該ウィキによれば、『湖沼やため池、水田などに自生』し、『日本を含むアジアや、オーストラリアなどに生息する』。『沈水状態で生育する。葉の大きさは』五~四十センチメートルと、『環境によって変異が大きく、水深が深いところのほうが大型化する傾向にある。また染色体数にも多様性があり』、二倍体(2n=22)から十二倍体(2n=132)までが『知られている』。『夏から秋にかけて、水面に花茎を伸ばし』、三『枚の丸い花弁をもつ紅色がかった白い花をつける。花は一日花。基本的に花茎』一『本から一つの花しかつけないが』、一『本の花茎から』、『複数の花を開花させることもある。雄蕊は』三本から六本で、雌蕊は六本で、『ともに黄色で』、『一固まり』で形成される。『花が咲き終わると』、『花茎は短縮し、水中に没するが、種子が熟すると』、『再び水面にでて、ここで果実は三裂し、水面に種子を散布する』。『富栄養の浅い水域に多い。かつては水田における』代表的な『水田雑草の一つであった』が、『水田の環境変化、およびため池の埋め立てや』、『水質汚濁などにより、生息数は激減している』。但し、なお、「田んぼビオトープ」『などで水田環境の回復を図っている場合、往々にして復活する』。『沖縄島北部や八重山地方では』、「タークブ」『(田の昆布)と呼ばれ』て『食されていた』。『個体変異、環境による変異が大きく、分類はやや混乱した。はっきりした柄のある幅広い葉をつけるのが標準的だが、流れのあるところでは』、『柄のはっきりしない狭い葉をつけることもある。上記のように水深の深いところで大型化するので、かつてはこの大きさの違いによって』、小型の個体(群)が『オオミズオオバコと区別されることもあったが、現在は同一の種と考えられている』。『また、花茎に花が付くところ特徴の違いにより、花を複数つける個体をセタカミズオオバコとして別種とすることもあるが、これも葉の形と同様、形態変異の一つと考えられている』とある。
「車前」知られた陸生の多年草である双子葉植物綱シソ目オオバコ科オオバコ属オオバコ Plantago asiaticaの異名「車前草(しゃぜんそう)」。「車前」は漢名で、人や牛車・馬車が多く通る轍(わだち)によく生え、踏みつけにも強いことから、この名がついた。御覧の通り、種としては全く縁がない。
『「本草」、「水草類」に之れを載す』「本草綱目」では巻十九の「草之八」「水草類」に(囲み字は太字に代えた)、
*
龍舌草【「綱目」。】
集解 時珍曰はく、「龍舌、南方の池澤・湖泊[やぶちゃん注:湖沼に同じ。]の中に生ず。葉、大葉[やぶちゃん注:シソ。]・菘菜(あをな)及び芣苡(ふい)[やぶちゃん注:オオバコ。]の狀のごとし。根、水底に生ず。莖を抽(ぬ)きて、水に出でて、白花を開く。根、胡蘿蔔(こらふ)[やぶちゃん注:ニンジン。]の根に似て、香ばし。汁に杵(つ)きて、能く鵞・鴨の卵を耎(やはら)かにす。方家[やぶちゃん注:薬剤処方医。]に用いて、丹砂を煮て、白礬を煅(や)き、三黃[やぶちゃん注:大黄・黄連・黄芩の黄色い生薬。精神神経活動と循環活動の処方薬として有名。]を制す[やぶちゃん注:三黄の効果を絶妙に制御するということか。]。」と。
氣味 甘鹹にして寒。毒、無し。主治 癰疽(ようそ)[やぶちゃん注:悪性の腫 れ物。「癰」は浅く大きいものを、「疽」は深く狭いものを指す。]・湯火灼傷[やぶちゃん注:多様な火傷。]に、擣きて、之れを塗る【時珍。】。
附方【「新一」。】乳癰腫毒[やぶちゃん注:乳腺炎或いは腫瘍・乳癌。]【龍舌草・忍冬・藤を研り、爛らして、蜜に和して、之れを傅(つ)く。多く、能く鄙(いなか)にて事とす。[やぶちゃん注:この最後の部分の読みは自信がない。]】。
*
「西土」西日本。特に益軒のフィールドであった九州を指すことが多い。
「水ほこり」「水埃」。ミズオオバコの異名。
「實は三角〔(みつかど)〕あり。細〔(さい)〕なり」当該ウィキの画像。]
« 芥川龍之介書簡抄58 / 大正五(一九一六)年書簡より(五) 井川恭宛 | トップページ | 大和本草卷之八 草之四 水草類 鼠尾草(みそはぎ) (ミソハギ) »