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2021/05/27

大和本草卷之五 草之一 蔬菜類 水萵苣(かはちさ) (カワチシャ) / 大和本草本巻からの「水族」抽出~了

 

【外】

水萵苣 葉ハ蓼ニ似テ微大ナリ救荒本草曰

Kahatisya

[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションの画像を最大でダウン・ロードしてトリミングした。ここである。この図がこの本文の二行目の冒頭に配され、以下、次の行に示したものが、下に書かれてある。]

一名水菠菜水邊多生苗髙一

尺計葉似麥藍葉而有細鋸齒兩葉對生每兩葉

間對叉又生兩枝稍間開靑白花結小靑蓇葖如

小椒粒大其葉味微苦性寒○萵苣ト葉ノ形狀

不同味ハ粗似タリ生ニテモ煮テモ食ス性冷滑熱

毒ヲ消ス虚寒ノ人ハ不宐本草ニ柔滑類ニ水苦

𦽿アリ或カハチサト訓ス恐クハ非ナラン與木萵苣

別ナリ

○やぶちゃんの書き下し文

【外】

水萵苣(かはちさ) 葉は、蓼〔(たで)〕に似て、微〔(やや)〕、大なり。「救荒本草」に曰はく、『一名、「水菠菜〔(すいはさい)〕」。水邊に多く生ず。苗の髙さ一尺計り。葉、麥藍〔(ばくらん)〕の葉に似て、細き鋸齒、有り。兩葉、對生〔(たいせい)〕す。兩葉の間每〔(ごと)〕に、叉〔(さ)〕に對し、又、兩枝を生ず。稍〔(やや)〕間〔ありて〕、靑白の花を開き、小〔さなる〕靑〔き〕蓇葖〔(こつとつ)〕を結ぶ。小椒〔(こせう)〕の粒の大きさのごとし。其の葉、味、微〔(やや)〕、苦く、性は、寒なり。』〔と〕。

○萵苣〔(ちさ)〕と葉の形狀、同じからず。味は粗〔にして〕、似たり。生にても、煮ても、食す。性、冷、滑、熱。毒を消す。虚寒の人は宐〔(よろ)〕しからず。「本草」に「柔滑類」に「水苦𦽿」あり。或いは「かはちさ」と訓ず〔れども〕、恐くは非ならん。「木萵苣」と〔は〕別なり。

[やぶちゃん注:双子葉植物綱シソ目オオバコ科クワガタソウ属カワヂシャ Veronica undulata当該ウィキによれば、『別名、カワヂサ、カワジサ』。『茎は円柱形で柔らかく、直立または斜上して、高さは』十センチメートルから一メートルにも『なり、淡緑色で毛はない。葉は対生し、葉身は狭卵形または長楕円状狭卵形で長さ』は二・五~八センチメートル、幅は五ミリメートルから二・五センチメートルで、『先端は』少し尖り、『基部は葉柄がなく』、『円形になって茎を半ば抱き、縁にはややとがった鋸歯がある。葉質は』、『やや肉質で柔らかく、茎とともに毛はない』。『花期は』五~六月で、『葉腋から長さ』五~十五センチメートル、幅一~一・五センチメートルになる『細長い総状花序を出し』、五十から百二十個もの『花をつける。花柄は長さ』三~五ミリメートルに『なり、腺毛が生え、斜上し、果時にはまっすぐに伸びる。萼は深く』四『裂し、裂片は狭卵形で』、尖る。『花冠は径』四~六ミリメートルで『皿状に広く開き』、四裂し、『白色から白紫色になり』、『淡紫色から淡紅紫色の脈がある。雄蕊は』二『個、雌蕊は』一『個ある。果実は蒴果となり、球形で、長さ、幅ともに』二・五~三・二ミリメートルで、『先端はわずかにへこみ、先端に長さ』一~一・五ミリメートルの『花柱が残る。種子は板状の楕円形で』、『多数あり、長さ』〇・五ミリメートル、幅〇・四ミリメートルと小さい。『日本では、本州、四国、九州、琉球諸島に分布し』、『川岸、溝の縁、水田のあぜなど多湿地に生育する』。『世界では、台湾、中国大陸、東南アジア、インドに分布する』。『和名カワヂシャ(川萵苣)は、「川べりに生えるチシャ』」(=「萵苣(ちしゃ)」=レタス=双子葉植物綱キク目キク科アキノノゲシ属チシャ Lactuca sativa )『の意味』である。『種小名』の『undulata は、「波状の」「うねった」の意』である。『和名の由来のとおり、若葉は軟らかく、キク科のレタス類のように食用にされる』とある。

「蓼〔(たで)〕」双子葉植物綱ナデシコ目タデ科 Persicarieae 連イヌタデ属サナエタデ(ペルシカリア)節 Persicaria の広義のタデ類或いは、狭義には同属同節のヤナギタデ Persicaria hydropiper を指す。私は似ているとは全く思わない。

『「救荒本草」に曰はく、『一名、「水菠菜〔(すいはさい)〕」。水邊に多く生ず。苗の髙さ一尺計り。葉、麥藍〔(ばくらん)〕の葉に似て、細き鋸齒、有り。兩葉、對生〔(たいせい)〕す。兩葉の間每〔(ごと)〕に、叉〔(さ)〕に對し、又、兩枝を生ず。稍〔(やや)〕間〔ありて〕、靑白の花を開き、小〔さなる〕靑〔き〕蓇葖〔(こつとつ)〕を結ぶ。小椒〔(こせう)〕の粒の大きさのごとし。其の葉、味、微〔(やや)〕、苦く、性は、寒なり。』〔と〕。』「救荒本草」は何度も出たが、これで本巻部を終わるので再掲しておくと、明の太祖の第五子周定王朱橚(しゅしゅく 一三六一年~一四二五年)の撰になる優れものの本草書である。全二巻。一四〇六年刊。飢饉の際の救荒食物として利用出来る植物を解説していのるのであるが、収載品目は四百余種に及び、その形態を文章と図で示し、簡単な料理法を記しているが、画期的なのは、その総てを実際に園圃に植えて育て、実地に観察して描いている点である。植物図は他の本草書に比べても遙かに正確であり、明代に利用されていた薬草の実態を知る上で重要な文献とされる。一六三九年に出版された徐光啓の「農政全書」の「荒政」の部分は、この「救荒本草」に徐光啓の附語を加筆したものである(以上は小学館「日本大百科全書」に拠った)。国立国会図書館デジタルコレクションの原本画像の巻二の「草部」の「水萵苣」をほぼそのまま引いている(この左がその図の頁で、こちらの次の頁の右が益軒が引用した解説部分である)。今回は、国立国会図書館デジタルコレクションの画像もトリミングして以下に添える。益軒は一部で字を落しており、最後の「救荒」附記もカットしているので、煩を厭わず、それで視認して解説部の原文を示しておく。国立国会図書館デジタルコレクションのそれは享保元(一七一六)年の本邦での板行版であるため訓点が打たれているが、まず、原文を白文で示し、必要な箇所を後で注した。

   *

 

Kawajisya1

 

Kawajisya2

 

水萵苣 一名水菠菜水邊多生苗高一尺計葉似

麥藍葉而有細鋸齒兩葉對生每兩葉間對叉又生

兩枝稍間開靑白花結小靑蓇葖如小椒粒大其葉

味微苦性寒

 救荒 採苗葉煠熟水淘淨油塩調食

   *

「麥藍」は中文サイトの学名から見て、双子葉植物綱ナデシコ目ナデシコ科ドウカンソウ属ドウカンソウ Vaccaria hispanica を指すようである。同種については「東邦大学薬学部付属薬用植物園」公式サイト内のこちらを見られたい。「蓇葖」とは「袋果」(たいか)の古い呼称で、裂開果(れっかいか)の一種。一枚の心皮から生じた子房が成熟した果実で、縫目状の線に沿って裂け開いて種子を出すものを指す。トリカブト・シャクヤクなどがそれ。「小椒」胡椒に同じ。最後の「救荒」部は前に「大和本草卷之五 草之一 蔬菜類 山葵(わさび) (ワサビ)」で電子化した同書の「山萮菜」のそれと、ほぼ同じである。私は享保版の訓点の一部に疑問があるのでオリジナルに読むと、「苗葉を採り、煠(ゆ)で熟して、水に淘淨して[やぶちゃん注:水に浸けて浮いたものを取り去り。]、油・塩にて調へ、食ふ。」であろう。「煠」に「キ」を送っており、確かに「煠」は「焼く」とも読める。或いは「炒める」とも読めるのだが、そもそもがカワジシャの苗葉をしっかり(「熟」はその意)焼いたり、炒めたりしたら、瞬く間に焦げたボソボソの炭のようなものになってしまい、食物となろうはずがないと私は考えるのである。なお、この国立国会図書館の蔵本は旧蔵者による朱点が打たれていて面白い。二行目の頭の「麥」の「罒」は意味不明「麥四藍」かとも思ったが、そんな植物名はヒットしない。三行目の「稍」の左朱圏点は上の罫外に「梢」らしき字がある。その誤字と採ったようだ。私は「稍(やや)」でいいと思ったが、確かにその「枝の間」から青白の花が開くとした方がいいようだ。「蓇葖」の左にはやや見にくいが、「ミノ俗語」と解説しているのである。まさか、三百年も経って、学者でも何でもない在野の藪の中の野人が、あなたの朱点を読むとは思っていなかったでしょうねぇ。

「虚寒」漢方で、体内に温める力である陽が不足し、冷え易いか、或いは、既に冷えた状態になってしまっていることを指す。

『「本草」に「柔滑類」に「水苦𦽿」あり。或いは「かはちさ」と訓ず〔れども〕、恐くは非ならん。「木萵苣」と〔は〕別なり』「水苦𦽿」は「スイクカ」と読んでおく。「本草綱目」の巻二十七の「菜之二」の「柔滑類」に(囲み字は太字に代えた)、

   *

水苦蕒【宋「圖經」。】 校正【外類より移して此に入るる。】

釋名「謝婆菜」【「圖經」】・「半邊山」

集解【頌曰はく、「水苦蕒は宜州溪澗の側に生ず。葉、苦蕒に似て、厚く、光澤あり。根、白术(はくじゆつ)に似て軟かなり。二、八、九月、其の根を采りて之れを食ふ。」と。】

根 氣味 微、苦。辛寒。毒、無し。主治 風熱・上壅・咽喉腫痛及び項上の風癧、酒を以つて、磨り、服す【蘓頌。】。

   *

益軒先生、台中のサイト「認識植物」のこちらを見て下さい。明らかに「本草綱目」も確認引用されている感じで、何より、「救荒本草」の「水萵苣」「水菠菜」も記載されています。残念ながら、その学名はカワジシャです。本邦の辞書類でもカワジシャの別名とあります。

 

 さて。遂に、これを以って「大和本草」本巻からの、私の勝手な「水族」の最後の拾い出しを終わる。やっと「大和本草諸品圖」に入れる。

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