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2021/05/23

芥川龍之介書簡抄69 / 大正五(一九一六)年書簡より(十六) 二通

 

大正五(一九一六)年・春(年次季節推定)・井川恭宛(封筒欠)

 

     I

白ふぢの花のにほひときくまでにかそけかれどもかなしみはあり

夕やみにさきつゝにほふ白藤の消なば消ぬべき戀もするかな

わが戀はいよよかすかにしかはあれいよよきよけくありさびにけり

     Ⅱ

朝ぼらけひとこひがてにほのぼのとあからひく頰をみむと思へや

     Ⅲ

たまゆらにきえし光とみるまでにそのたをやめはとほく行きけり

     Ⅳ

天ぎらふ雲南省ゆ來りたる埴輪童女(おとめ)に FUMIKO は似るも(白木屋の展覽會あり)

朝づけば觀音堂の尾白鳩ふくだめるこそ FUMIKO には似ね

ふと見たる金の蒔繪の琴爪(つめ)箱をかひてやらむと思ひけりあはれ

 

君と同じ理由で Extra‐Re‐Echo を要求する資格があるかと思ふ

自贊すればⅡが一番得意 Ⅲはどうしても一番まづい 實感がうすいのかしらとも思つてみる Ⅳをかく時は氣樂に出來る Iはともすればありあはせの SENTIMENT で間に合はせてしまひさうで良心がとがめる それでつくつた歌はもつと澤山あつたが三首だけしか書かなかつた 君のはがきの繪のやうにはじめに書いた奴だけ書いたわけだ

短篇を二つ書いた 發表したらよんでもらふ

朝は早くおきるやうになつたから感心だ 尤も必要にせまられてだが

今朝君が結婚したら何を祝はうかと思つていろいろ考へた BEETHOVEN の MASK ではいけないかな 僕はこの頃この天才と BERLIOZ との傳記をよんで感心してしまつた。

  新聞を難有う 今日これから君の姊さんの方へおくる

                   龍

 

[やぶちゃん注:アルファベットは総て縦書。短歌は全体が三字下げであるが、引き上げた。最後の「龍」の署名は実際には最終行の下方三字上げインデント。

「Extra‐Re‐Echo」対象芸術作品に対する相手の「特別な反響」提示。それは必ずしも批評とは限らない。応じた芸術作品であってもよい。

「BERLIOZ」「の傳記」私の芥川龍之介手帳 1-3」(大正五年発行の銀行の手帳)を見よ。

「短篇を二つ書いた」底本は『春』とするが、「白ふぢの花」が実景だとすると、推定区間が広くなる。この年の頭から並べると、「鼻」(『新思潮』二月十五日発表。以下クレジットは同じ)・「孤獨地獄」(『新思潮』四月一日)・「父」(同前)・「虱」(『希望』推定五月)・「酒蟲」(『新思潮』四月一日)である。]

 

 

大正五(一九一六)年・年次推定・山本喜譽司宛(封筒欠)

 

留守に來てくれたさうで大へん失敬した 淺草の活動寫眞で雨にふりこめられてゐたのだ 此頃は時々活動寫眞をみにゆく 今日はボオマルシエのフイガロをみに行つたのだ 古いフランスの喜劇は應揚[やぶちゃん注:ママ。]でいい フイガロが小姓と二人でギタアをひきながら月夜にセレナアドをうたふ所なぞはしみじみしてゐた 尤も淺草の見物はみんな退屈してゐたが

文ちやんの歌をありがたう 今あけてみた 僕は女のかいたかなをよむのがへただからよむのに五分ばかりかかつた 字も歌もよく出來てゐる よく出來てゐなくつてもうれしいのに變りはなからうが

君へこの手紙をかくより先にお禮の手紙をかいた 明日の日づけで

特待生になつたさうでおめでとう 來年から特待生も百十圓出すのだから君のそれも僕の優等生も同じく可成有名無實だね お互にもう一年早く入學してゐればよかつた

    一

天(あま)なるや光ながれてはつ夏の品川の海(み)はうつつともなし

    二

品川のうらべによするいささ波光ゆらぐを人も見るらむ

    三

人の上(へ)をしのぶとすればみづがねをちぢにゆりゆるさざれ波見ゆ

    四

人すめばうれしと思ふ品川のさざ波なしてつきそわが戀

 

 喜 譽 司 樣           龍

二伸 664女史へよろしく□で□とよめるだらう

 

[やぶちゃん注:二箇所の□はママ。「664」は三マス分縦書。短歌は全体が一字下げであるが、引き上げた。

「ボオマルシエのフイガロ」フランスの実業家・劇作家ボーマルシェ(Beaumarchais/本名ピエール=オーギュスタン・カロン Pierre-Augustin Caron 一七三二年~一七九九年)が一七七八年に書いた風刺劇「フィガロの結婚」(イタリア語:Le nozze di Figaro /フランス語:Les noces de Figaro )。後の一七八六年にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したオペラ(Le Nozze di Figaro , K.492)の方がより知れている。

「664女史へよろしく□で□とよめるだらう」「664女史」不詳で、全体も全く意味不明。

   *

 なお、採用しなかったが、この年の年末の十二月二十五日発信の山本喜誉司宛書簡があり、その冒頭で、『おないだ送つた契約書二通hあれでよかつたらうか あんまり君の方から何とも云つて來ないから少し心配になつた この手紙つき次第何とか返事をしてくれ給へ』(以下の書信内容はこれとは無関係)とある。この「契約書」とは、間違いなく、新全集宮坂年譜のこの年の十二月パートにある『この月、塚本文との婚約が成立し、文の跡見女学校卒業を待って結婚する旨の縁談契約書が両家の間で交わされる』とあるものであろう。

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