大和本草附錄巻之二 介類 蠣 (大型のマカキ・イワガキ)
蠣 又一種生海中大如杯曰草鞋蠣又一種大蠣
房數倍五六月有之名曰黃蠣月令廣義ニ出タリ
○やぶちゃんの書き下し文
蠣〔(かき)〕 又、一種〔あり〕、海中に生ず。大いさ、杯〔(さかづき)〕のごとし。「草鞋蠣〔(わらぢがき〕」と曰ふ。又、一種、大蠣〔あり〕。房、數倍。五・六月、之れ、有り、名づけて「黃蠣〔(きがき)〕」と曰ふ。「月令廣義〔(がつりやうこうぎ)〕」に出でたり。
[やぶちゃん注:「大和本草卷之十四 水蟲 介類 牡蠣」を参照。
前者はマガキ(斧足綱ウグイスガイ目イタボガキ科マガキ属マガキCrassostrea gigas )の二・三年物であろう(マガキは標準的には満一年で六センチメートル、二年で八センチメートル、三年で十センチメートル程度に成長する)。「草鞋蠣」はもう生きていない呼称かと思ったら、サイト「ヘッドライン」の『「角打併設の一軒家ビストロ「SAKE × 牡蠣鉄板 港町バル」学芸大学に日本酒と三陸シーフード発信の拠点が誕生」という記事の中に、このビストロで「草鞋牡蠣のグラタン」というメニュー(写真有り)があるのを見つけて嬉しくなった。何時か行って食べたい。
後者は採取の季節(旧暦であることに注意)と、大きいこと、及び「黃蠣〔(きがき)〕」という名から、斧足綱ウグイスガイ目イタボガキ科マガキ属イワガキ Crassostrea nippona と断じてよいであろう。「大和本草卷之十四 水蟲 介類 牡蠣」に、『「ヲキガキ」海中ふかき處にあり。大にして、色、黄なり。夏、食す。常の蠣は石に附き生ず。故に、殻、偏〔(へん)〕なり。「ヲキカキ」は偏ならず。其の殻、蚌〔(どぶがひ)〕のごとく、外は皆、殻なり。味は、をとれり』とある。
「月令廣義」「げつれいこうぎ」と読んでいいようだが、私は大学の漢文学の講義で「がつりょう」と読むと習って以来、そう読むことにしている。明の官僚・学者であった馮應京(ふうおうけい)が万暦年間(一五七三年~一六二〇年)に著した、中国の伝統的な年中行事・儀式・慣例慣習などを解説したもの。全二十四巻。先秦時代の一年間の行事を理念的な観点から紹介した「礼記」の「月令篇」を補足するという形式を採る。そのため、古書からの引用が多く、古くは六朝梁代(六世紀中頃)の、既に原典が失われてしまっている文言小説などからの説話を傍証として多く収録しており、中国の民間伝承を研究する上での貴重な資料となっている(ウィキの「月令広義」に拠った)。但し、同書を調べたが、当該部を確認出来なかった。]
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