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2021/06/16

日本山海名産図会 第四巻 鮴

 

Gori1

Gori2

Gori3

 

[やぶちゃん注:図は底本の国立国会図書館デジタルコレクションのものをトリミングした。最初の図のキャプションは「加茂川鮴捕(かもはごりとり)」(「加茂川」は京の鴨川のこと)、二枚目は「加賀淺野川之鮴捕(かがあさのかはのごりとり)」。「淺野川」は石川県金沢市の富山県(南砺市刀利)との県境に位置する順尾山(ずんおやま:標高八百八十三メートル。グーグル・マップ・データ。以下同じ)付近に源を発し、北流して金沢市街地を貫流して、ニホンかい直近の河北潟南西の金沢市湊で大野川に合流する川である。三枚目は「豫刕大洲石伏(よしうおおづいしふし)」。「豫刕大洲」とは現在の愛媛県大洲市で、図の川は同市を貫流する肱川(ひじかわ)かと思われる。]

 

   ○鮴(こり)【字書に見ることなし。姑(しばら)く俗に從がふ。一名、「鮻」【イシフシ】。】

山城賀茂川の名産なり。「大和本草」に、『二種あり。一種は腹の下に、丸き鰭あり。其の鰭、平(へい)なる所ありて、石に付(つ)けり。是れ、眞物(しんぶつ)とす。膩(あぶ)ら、多し。羹(あつもの)として、味、よし。形は「杜夫魚(とふぎよ)」に似て、小さく、背に黑白(くろしろ)の文(もん)あり。一名(めう)、「石伏」と』云〻。是れ、貝原氏(うぢ)の粗說なり。尤も、「一物なり」とはいへども、形、小異あり。尚、下(しも)の圖に見るべし。

○漁捕(ぎよほ)は、筵(むしろ)二枚を繼(つ)ぎて淺瀨に伏せ、小石を多く置き、一方の兩方の耳を、二人して持ちあげゐれは、又、一人、川下より、長さ三尺余りの撞木(しゆもく)を以つて、川の底を、すりて、追ひ登る。魚、追はれて、筵の上の小石に付き、隱るを、其侭(そのまま)、石ともに、あげ、採るなり。是れを「鮴押(ごりおし)」と云ふ。

○又、加賀淺野川(あさのかは)の物も名産とす。是れを採るに、賀茂川の法に同しく、「フツタイ」・「板おしき」と、其の名を異(こと)にするのみ。「フツタイ」は割りたる竹にて大なる箕(みの)のごとき物を、賀茂川の筵のかわりに用ひ、「板おしき」は竪五尺・橫三尺ばかりの厚き板を、竹にて挾み、下に足がゝりの穴あり。是れに足を入れて、上の竹の余りを手に持ち、石間(いしま)をすりて、追ひ來たる事、前に云ふごとし。

○又、里人などの、納凉に乘じて、河邉に逍遙し、この魚を採るに、人々、香餌(かうゑ)を手の中に握り、水に掬(きく)し、

「ゴリ。」

と呼べば、魚、群れて、掌中に入るなり。又、籃(かご)にて、すくひ採ることも有るなり。是れをしも、未熟の者にては、得やすからず。清流淺水(あさみづ)といへども、見へがたき魚なり。

○「和名抄」に「ゴリ」を出さず。「䱌」を「いしふし」として、『性、石間に伏し沈む』。

[やぶちゃん注:「䱌」の字は底本では(へん)と(つくり)の間に縦に一画が入る。「䱌」は国字で魚の「イシブシ」を指す。]

○「※」は「チヽカフリ」。𩺟に似て、黑點あり[やぶちゃん注:「※」=「魚」+(「肅」の下部を「用」に代えたもの。「鱐」の略字か。但し、この字は「干し魚・不明の魚の名・魚の脂(あぶら)」と国字で「鯱(しゃちほこ)」の意である。]。○𩸒魚(かうぎよ)「カラカコ」。『𩺟に似て、頰(ほ)に鉤(こう)を著ける物なり』と注せり。案ずるに、文字に於ては適當とも云いがたし。和訓義(わくんぎ)に於ては、「いしふし」、石に伏して、今、「コリ」・「石伏」といふに、あたれり。○「ゴリ」は、鳴く聲の「ゴリゴリ」といふによりて、後世の名なるべし。○「チヽカフリ」は、「チヽ」は「土(つち)」にて、土をかぶり、「蒙(かくる[やぶちゃん注:判読に自信がない。])」との儀なるべし。されは、「杜父魚(とふぎよ)」に、ちかし。人の音(こへ)を聞けば、砂中(さちう)に頭(かしら)をさして、碇(いかり)のごとくす。一名、「砂堀鯋(すなほりはぜ)」とも云ふ。「カラカコ」は「頰(ほう)に鉤(こう)を付けたる」の名なり。鉤の古名「カコ」とも云へり。「カラ」の義、未ㇾ詳(つまびらかならず)。○或ひは云、「聲(こへ)有る魚は、必ず、眼を開閤(かいかう)す。是れまた、一奇なり」とす。されども、其の實(じつ)をしらず。○又、是等、皆、所の方言に「かしか」とも云へり。尚、辨說、有り。下(しも)の「かしか」の條に見るべし。

[やぶちゃん注:作者が冒頭で引き、実は本文でもそれを下敷きにして書いたと思われる箇所が有意にある、貝原益軒の「大和本草卷之十三 魚之上 ゴリ」の本文と私の考証注を参照にされたいが、「ゴリ」という標準和名の種はおらず、ゴリ(鰍・杜父魚・鮖・鮴)は一般的には、典型的なハゼ類の形をした複数の淡水魚群を指す一般名・地方名である。考証迷走はリンク先を見られたいが、最終的に私が有力候補として指名したのは、

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科 Gobionellinae ヨシノボリ属 Rhinogobius

の仲間である。なお、益軒は別に「大和本草附錄巻之二 魚類 吹 (「ゴリ」類或いはカジカ・ウツセミカジカ等)」を立項しており、これも参考になろう。

「鮴(こり)」国字。但し、海水魚のメバルを指す漢字で、標題に示すものとしては、誤りである。思うに、ゴリ類が川底の砂石の下に隠れ潜むのを「休」んでいる「魚」として使用したものかも知れない。

『「鮻」【イシフシ】』読みは、小文字の割注にさらに小文字で割注として入っている。この「鮻」は漢語で、後に出る「鯋」と同字である。「鯋」は「不名の魚の名・鮫(鱶)・砂吹(すなふき)=鯊(はぜ)」で、最後のそれで一致を見る。国字として淡水魚の「いさざ」=チチブ(ゴビオネルス亜科チチブ属 Tridentiger )を指すのも広義の「ゴリ」類と一致する。

「杜夫魚(とふぎよ)」現行では、日本固有種で北海道南部以南の日本各地に分布し、「ドンコ」の異名でも知られる、条鰭綱カサゴ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux の異名とされることが多い。このカジカも広義の「ゴリ」の一種である。

「石伏」現在では、同じく広義の「ゴリ」の一種、ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科ウキゴリ属ウキゴリ Gymnogobius urotaenia の異名とすることが多い。

「粗說」要約。

「形、小異あり。尚、下(しも)の圖に見るべし」第一図の「加茂川鮴捕」のことを指して仰るのですが、そこの魚は、皆、ほぼ同じ大きさなんですけど? しかもこの魚、どれもこれも二本の触角を有して描かれてあって、これじゃ、ナマズにしか見えへんのですけど!?! ここでしか言えないので、附言しておくと、京の鴨川で行われた「ゴリ漁」の対象種は少なくとも近代にあっては、ヨシノボリ属カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus に同定されている。しかし、カワヨシノボリにはこんな触角は、ない!

「フツタイ」ブッタイ。漁具の画像と解説が嬉しい、㈶四万十川財団編の「四万十川の漁具 平成14年度」PDF)の「雑漁具」の14ページに写真と解説がある。『竹ひごを簾(す)状に編み、一方を閉じて柄をつけ、一方を広げて入口にした漁具。笹を束ねたホテや足でゴリをおどして、ブッタイに追い込む』とある。この前には「ゴリのウエとタテズ」(「ウエ」は筌(うけ)のことで、「タテズ」は「立(縦)て簾(す)」)の写真と解説がある。必見! 私は確かにこの漁具のことを「ぶったい」と呼称するのを、複数の地域で聴いているのだが、その語源が今以って判らない。御存じの方は切に御教授を乞うものである。

「板おしき」漢字表記不詳。形状からは「おしき」は「折敷」ではないし、歴史的仮名遣なら「をしき」である。恐らくは「板押し木(ぎ)」ではなかろうか。

『香餌(かうゑ)を手の中に握り、水に掬(きく)し、「ゴリ。」と呼べば、魚、群れて、掌中に入るなり』名指すことによる呪的縛りが加えられた面白い漁法である。

『「和名抄」に「ゴリ」を出さず。「䱌」を「いしふし」として、『性、石間に伏し沈む』』(「䱌」の字は底本では(へん)と(つくり)の間に縦に一画が入る。「䱌」は国字で魚の「イシブシ」を指す)「和名類聚抄」には、巻十九「鱗介部第三十」の「龍魚類第二百三十六」に、

   *

䱌(イシフシ) 崔禹錫が「食經」に云はく、『䱌【音「夷」。和名「伊師布之」。】、性、伏沈して石間に在る者なり。』と。

   *

とある。「䱌」は漢語としてはフグを指す。中国には世界で唯一、淡水産フグがいる。

「𩺟」「康熙字典」に「玉篇」を引き、『鯸、䱌魚。又、河魨、一名鯸鮧』とある。この「河魨」「鯸鮧」は孰れも広義の「フグ」である。

「黑點あり」これはトラフグを想起させる。

「𩸒魚(かうぎよ)」「カラカコ」。カジカ類の異名と思われる。サイト「真名真魚字典」の「を見られたい。但し、作者は一歩踏み込んで、最後に『「カラカコ」は「頰(ほう)に鉤(こう)を付けたる」の名なり。鉤の古名「カコ」とも云へり』という名推理を働かしている。これはちょっと脱帽だ。次の注のアユカケと直結するからである。

『頰(ほ)に鉤(こう)を著ける』鰓蓋に棘がついている。これは直ちに、広義の「ゴリ」の一種であるカジカ属アユカケ Cottus kazika を想起させる。日本固有種で、体長は五~三十センチメートル程度で、大型個体が出現する。「カマキリ」という異名を持ち、胸鰭は吸盤状ではなく、分離している。鰓蓋には一対の大きい棘と、その下部に三対の小さい棘を持ち、和名は、この棘に餌となる鮎を引っ掛けるとした古い伝承に由来するものである。

「和訓義」書名ではなく、和訓の意義の意で採った。

『「ゴリ」は、鳴く聲の「ゴリゴリ」といふによりて、後世の名なるべし』益軒も「大和本草卷之十三 魚之上 ゴリ」で、『其の大なる者、夜に至りて鳴く。其の聲、淸亮にして愛すべし。土人、之れを「河鹿(カジカ)」と謂ふ』などと言っている。無論、「ゴリ」類は孰れも鳴かない。これは所謂、両生綱無尾目ナミガエル亜目アオガエル科カジカガエル属カジカガエル Buergeria buergeri の誤認であろう(江戸時代にはカジカガエルは鳴き声の美しさがもて囃され、贈答なんぞもされていたのだが、知らぬ人は知らぬものなのである。ある動物の鳴き声を全く別の生き物に誤認していた例は、江戸期の随筆にも、多数、登場する。いい例が螻蛄(ケラ)の鳴き声を蚯蚓(ミミズ)とした例で、これは近代に至るまで民間では長く信じられていた。お時間のある方は「北越奇談 巻之五 怪談 其三(光る蚯蚓・蚯蚓鳴く・田螺鳴く・河鹿鳴く そして 水寇)」を読まれたい)。いやいや、とすれば、この鳴くと誤認されている「ゴリ」は、それこそ「其の味、極美」の、ほれ! 蛙じゃない「カジカ」、カサゴ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux なんじゃぁ、ないのかなぁ?

『「チヽカフリ」は、「チヽ」は「土(つち)」にて、土をかぶり、「蒙(かくる[やぶちゃん注:判読に自信がない。])」との儀なるべし』この考証も素晴らしい。思わず、賛同したくなる。

『下(しも)の「かしか」の條』本巻頭尾の「○河鹿(かじか)」(底本の国立国会図書館デジタルコレクションの当該部)を指す。実はそこで、作者は、鳴くのは、始めっからカジカガエルだと判っていたのではないか? と思わせる。やらかして呉れるじゃん! ニクイね!

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