大和本草諸品圖下 石ワリ貝・タチ貝・ツベタ貝・シリタカニナ (穿孔貝の一種・タイラギ(図は無視)・ツメタガイ及びその近縁種・バテイラ)
[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションの画像をトリミングした。]
石ワリ貝
石中ニアリワリテトル
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タチ。貝
大ナリ
[やぶちゃん注:「。」はママ。「タチ(貝)」の意味か。]
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ツベタ貝
螺ノ類ナリ味頗ルヨシ
肉堅シ薄キフタアリ
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シリタカニナ
[やぶちゃん注:「石ワリ貝」キャプションから、岩礁等に穴を開けて棲息し、採取するには穿孔物を破砕せねばならない二枚貝の穿孔貝の一種としてよいが、図からは同定が出来ない。知られた種でこの図の形に多少近いのは、
斧足綱翼形亜綱イガイ目イガイ科イシマテ属イシマテ Lithophaga curta
異歯亜綱オオノガイ目ニオガイ亜目ニオガイ超科ニオガイ科ニオガイ属ニオガイ Barnea manilensis
ニオガイ科 Zirfaea 属ニオガイモドキ Zirfaea subconetricta
であろうか。他に四センチメートルにもなる大型の、
オオノガイ目ニオガイ亜目ニオガイ超科ニオガイ科カモメガイ属カモメガイ Penitella kamakurensis
がいるが、この貝は、白色で横長の楕円形を成し、殻表面を見ても特異的に前後部が明らかに分かれて見え、両殻ともに強く丸く膨れ、その前域には独特の粗い鑢(やすり)のような刻線を有していて、私には巨大な蛾の蛹のように見える奇体な形態をしているから(「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種の画像を参照)、この図からは完全に除外される。そうそう、西インド諸島から北アメリカ東岸に分布し、柔らかい泥岩の中に穿孔する英名 angel wing 、ニオガイ科 Scobinopholas 属テンシノツバサガイ(天使の翼貝)Scobinopholas costata の殻長十数センチメートルの美品も一組持っていたが、これも教え子にあげてしまって今はない。あれは少し惜しかったな。大事にして呉れ給え。
「タチ。貝」図がまるで合わないが、名前からは即座に、水中の砂地や砂泥地に殻頂(蝶番のある尖った方)を下にして、海底に突き「立」つようにして棲息する、
斧足綱翼形亜綱イガイ目ハボウキガイ科クロタイラギ属タイラギについては、長くタイラギ Atrina pectinata
を想起した。事実、地方によってタイラギは「タチガイ」(立貝)と呼ばれている。但し、この図の不審は、先に示したイソシジミやワスレイソシジミのように、蝶番と靭帯が殻頂外側に後方へ有意に出張っているのが激しく描かれている点である。一応、図を無視して名前だけで同定した。
「ツベタ貝」腹足綱直腹足亜綱新生腹足上目吸腔目高腹足亜目タマキビガイ下目タマガイ上科タマガイ科ツメタガイ属ツメタガイ Glossaulax didyma 及びその近縁種。「大和本草卷之十四 水蟲 介類 光螺(ツメタガイ)」を参照されたい。他に『武蔵石寿「目八譜」 ツメタガイ類』や、『毛利梅園「梅園介譜」 片津貝(ツメタガイ)』も、是非、どうぞ。特に前者は彩色が素晴らしい。
「シリタカニナ」ややスマートに描き過ぎだが、名前は「シッタカ」のもとで、腹足綱古腹足亜綱ニシキウズ上科クボガイ科コシダカガンガラ属バテイラ亜種バテイラ Omphalius pfeifferi pfeifferi に同定してよい。因みに「バテイラ」は「馬蹄螺」である。]
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