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« 日本山海名産図会 第四巻 河鹿 | トップページ | 日本山海名産図会 第五巻 目録・備前水母 »

2021/06/23

日本山海名産図会 第四巻 諸國に河鹿といふ魚 / 第四巻~了

 

諸國に河鹿といふ魚

 

Kajikazu1

 

Kajikazu2

 

 

[やぶちゃん注:標題は画像の通り、囲み字であるので、太字下線で示した。画像は底本の国立国会図書館デジタルコレクションのものをトリミングした。まず、全体の三頁分を示した(カットしたが、最初の見開きの右側は先の「河鹿」の末尾)。それとは別に各個的に掲げられている図八点を別に大きなサイズでトリミングし、それぞれのキャプションの前に掲げた。なお、一つ一つのキャプションは、読みやすくするために、総て引き揚げて繋げて、整序して示した。一部の魚名標題は字が大きいが、それを持たない前の三種とのバランスが気になる(可哀そうなので)ので、同ポイントとした。トリミングの関係上、キャプションの一部が魚体の端に出てしまうものがあるが、妙な色潰しをすると、かえって目障りなのでそのままとした。本パートは先行する、

本第四巻の四つ前の「鮴」(ごり)

に主に関わり、直前の「河鹿」(かじか)の後にあるはするものの、作者は、その「河鹿」では、魚類の「河鹿」ではなく、鳴く蛙及び現在の「河鹿」(種としてのカジカガエル)をその正体として語ることを主としており、実はその「河鹿」項との直接の関係性は、かなり薄弱と言える。但し、鳴く魚について「河鹿」で言及はしているので、全く奇異な配置とは言えず、江戸時代に十把一絡げの多様な「河鹿」が使用されたことを考えれば、「これこそ真の『魚の河鹿』だ!」と絵入でスクープして花火を挙げるには、ここは格好の位置であるとも言えるのである。実際、江戸時代に、かくも多様な河鹿を、図入りで、それなりに真摯に博物学的に分類したもので、民草の誰もが気軽に読める巷間に板行されたものというは、この時期には恐らくは他にないのではないかと私は思う(本草学者のレッテルを掲げる連中のインキ臭い研究は除外してである)。そうした市井の博物学史の視点から、これは一種の特異点であるよう感じている。

 

1_20210623141301

 

○伊豫大洲(おほず)のは、砂鰌に似て、少し大(おほ)い也。聲(こへ)は、茶碗の底をするごとくなるに、尚、さえて、夜(よる)、鳴くなり。鳴く時、兩頰(りやうほ)、うごく。「大和本草」に『杜父魚(とふぎよ)』とす。「本草」、杜父魚の聲を不載(のせす)。

[やぶちゃん注:「鮴」(ごり)で既注であるが、「伊豫大洲」は現在の愛媛県大洲市で、図の川は同市を貫流する肱川(ひじかわ)かと思われる。

「砂鰌」「すなどぢやう(すなどじょう)」と読んでおく。条鰭綱骨鰾上目コイ目ドジョウ科ドジョウ属ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus に代表されるドジョウ類であろうが、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の異名検索では、この異名をドジョウ科シマドジョウ属シマドジョウ Cobitis biwae ・シマドジョウ属イシドジョウ Cobitis takatsuensis ・シマドジョウ属オオシマゴジョウ Cobitis sp. type A・シマドジョウ属ニシシマドジョウ Cobitis sp. type Bとしている。ご存知の方も多いと思うが、ドジョウは以下の行動をとる際に鳴くように聴こえることがある。ドジョウ類は腸呼吸で酸素を取り込むことが出来るので、水面で口から空気を吸い込み、使用済みのそれを肛門から排出するが、その取り込みと排気の際に音を立てることがあるのである。WEBマガジン HEAT」の若林輝氏の「意外だと思う人が多いかも? けっこういる鳴く魚をご紹介」に、『ドジョウは腸で空気から酸素を取り込むことができるので、水面で口から空気を吸い込みます。この時に「チュッ」と鳴くのですが、捕まえて水から出したときに』も、『「キューッ」という大きく鳴くことがあります。ドジョウは口から取りこんだ空気をお尻から出しますので、この「キューッ」という音は、ゲップもしくはオナラ、なのかもしれません』とあるのがそれである。また、個人サイト「SYU'S WORKSHOPの『「ドジョウを飼っていた話」について』では、「キュウ」「キュウー」「キュウ、キュウ」と鳴く事実が体験として語られてある。従って、ここで「茶碗の底をするごとくなる」(鳴る)というのは、違和感はない。但し、「尚、さえて、夜(よる)、鳴くなり」は私自身が飼育したことがないので何とも言えない。ただ、後者の記事には、ある『夜はいつにも増して「キュウ、キュウ」と鳴くドジョウたちの声が騒がしかった』ことがあったとはある(但し、それは実は断末魔のそれであったのだが。リンク先を読まれたい)。また、「鳴く時、兩頰(りやうほ)、うごく」というのも、YouTube のあいず氏の「ドジョウの鳴き声」で、水中から取り出した動画で確認出来る(音声レベルが低いので、大きくしないと、鳴き声は聴こえない)。では、これはドジョウ類なのかと言えば、描かれた魚体は、口鬚だけはそれらしく見えるものの、全身は、どう見てもドジョウ類ではなく、頭部と腹部が有意に左右に広いゴリ型である。現在も大洲の名産とする「カジカ」を、『大洲郷土料理の店「料苑たる井」「との町たる井」』の「かじか」の画像で見るに、やはり、

条鰭綱スズキ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux

である。しかし本種には鬚はない。鬚は作者のキャプションの「砂鰌に似て」に合わせて絵師が付け足してしまった可能性がある。そういえば、「鮴」(ごり)でも、第一図の「加茂川鮴捕」のゴリは、どれもこれも皆、二本の触角を有して描かれてあって、ナマズにしか見えなかった。しかし、そこに注した通り、京の鴨川で行われた「ゴリ漁」の対象種は、少なくとも近代にあっては、ヨシノボリ属カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus に同定されており、カワヨシノボリには、やはり、鬚はないのである。

『「大和本草」に『杜父魚(とふぎよ)』とす』「大和本草卷之十三 魚之下 杜父魚 (カジカ類)」を参照されたい。

『「本草」、杜父魚の聲を不載』前注リンク先で明の李時珍の「本草綱目」の「杜父魚」は電子化してある。確かに鳴くとは載らない。無論、魚の上記の狭義のカジカ類は鳴かない。]

 

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○越後國のもの。頭(かし)ら、大きく、黒班(こくもん)あり。腹、白し。小(せう)は、一、二寸。大(たい)は、五、六寸。聲、蚯蚓(みゝず)に似て、さへたり。夜、鳴く。但し、諸國山川(やまかは)にも多し。四國にて「山とんこ」と云う。大坂にて「どんぐろはせ」といふ。

[やぶちゃん注:「鮴」(ごり)で注した通り、カジカ類を地方で「ドンコ」と呼ぶことが有意にあるが、ここは「越後」と大きさと色及び斑紋から、

スズキ目ハゼ亜目ドンコ科ドンコ属ドンコ Odontobutis obscura

としておく。当該ウィキによれば、『全長は』二十五センチメートル(☜)『に達し、日本産の淡水ハゼ類としてはカワアナゴ類』(ハゼ亜目カワアナゴ科カワアナゴ亜科カワアナゴ属 Eleotris 。代表種はカワアナゴ Eleotris oxycephala )『に匹敵する大型種である。他のハゼ類に比べて頭部が大きく』、『横幅があり、垂直方向にやや押しつぶされて(縦扁して)いる。口は大きく、唇が厚く、下顎が上顎より前に突き出ていて、上下の顎には細かい歯がある。胴体は円錐形に近く頭部と比べると短い。胸びれは扇形で大きく発達する。腹びれは完全に二つに分かれる』。『体色は褐色で、第』一『背鰭・第』二『背鰭・尾鰭の基底に計』三『対の黒い斑紋』(☜)『がある。周囲の環境や精神状態などによって、頭部に不規則な斑紋が出現する場合がある。また、繁殖期のオスは全身が黒っぽくなる』(☜)とあり、分布域は『愛知県・新潟県以西』(☜)『の本州、四国、九州』及び『大韓民国巨済島』である。さらに、ドンコは鳴く。広島市の「太田川河川事務所」公式サイト内の「ドンコ」の記載の「産卵行動」の部分に、『雄は口とひれで産卵室を作り、産卵室内で低い声で「グーグー」と鳴く。産卵室に雌を迎え入れ、産卵を行う』とあり、あらゆる点で一致を見る。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のドンコによれば、「どんこ」の語源は「鈍甲」で、『滋賀県での呼び名。動きが鈍(にぶい)からではないか』とある。]

 

3

 

○加賀國のものは、頭(かしら)、大(おほ)きし。尾に股あり。背、くろく、腹、白し。其の聲、鼡(ねずみ)に似て、夜、鳴く。小(せう)なるは、一寸ばかり。大なるは、二尺ばかり。但し、小は、聲、なし。

[やぶちゃん注:幻しとなりつつある加賀の名物料理「ごり料理」の正当な種は「大和本草附錄巻之二 魚類 吹 (「ゴリ」類或いはカジカ・ウツセミカジカ等)」で示した通り、先の

条鰭綱スズキ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux

であるが、本図には鬚はなく、気持ちよく、以上に同定出来ると思いきや、尾鰭が分岐するのは本種に当たらない。というより、このような強い湾入を示す尾鰭を持つものは、淡水産の「カジカ」類には見当たらない。ただ、狭義のカジカ類の尾鰭は薄くぺらんとした団扇型で、如何にも弱く、捕獲後、時間が経ったものは、尾鰭がぺたんとして、鰭条の間が透けて裂け、このように見えぬことはないようにも思われる。「鳴く」とする大なるものは、前のドンコと混同している可能性がある。但し、ドンコも尾は分岐しない。

 

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○石伏(いしふし) 一名「ごり」

二種あり。海(うみ)・河(かわ)ともに、あり。眞(しん)の物は、腹の下に、ひれ、ありて、石に、つく。杜父魚(とふぎよ)に似て、小なり。聲、あり。夜、鳴く。ひれに刺(はり)あり。海は、やはらかなり。河は、するどし。

[やぶちゃん注:海産と淡水産があるというところから、複数の種を想定しなくてはならない。これは、「大和本草卷之十三 魚之下 緋魚 (最終同定比定判断はカサゴ・アコウダイ・アカメバル)」で考証した中に掲げたものが概ねそれらに当たる。

河川のそれは「腹の下に、ひれ、ありて、石に、つく」という点で、先の、

条鰭綱スズキ目カジカ科カジカ属カジカ Cottus pollux

を始めとする広義のカジカ類らしく見えるが、ここでは鋭い棘があるとすることから、カジカ類ではない、全くの別種である、

条鰭綱ナマズ目ギギ科ギバチ属ギバチ Pseudobagrus tokiensis

ギバチ属アリアケギバチ Pseudobagrus aurantiacus

ギバチ属ギギ Pelteobagrus nudiceps

を有力候補としなくてはならない。少なくともギバチとギギは、腹鰭の棘と基底部の骨を擦り合わせて「ギーギー」と低い音を出す(彼らは孰れも背鰭や胸鰭の棘が硬く鋭く、刺さると痛み、ギバチの場合は毒があるともされる)。一方、海の「石伏」は、逆に鰭が柔らかいとあるからには、

ハゼ類(条鰭綱ハゼ目ハゼ亜目 Gobioidei

を比定するのがよいか。但し、「棘」と言っているところは、私などは、棘鰭上目スズキ目ゲンゲ亜目ニシキギンポ科ニシキギンポ属ギンポ Pholis nebulosa を想起してしまうのだが、ギンポは広義の「ゴリ」類には魚体が似ていないから、引き下げる。]

 

5_20210623141401

 

○軋々(ぎき)

○嵯峨にて「みこ魚(うを)」といひ、播刕にて、「みこ女郞(じよらう)」といふ魚、是れに似て、色、赤く、咽(のど)の下に、針、有り。「ぎゝ」は、ひれに針あり、大ひに人の手を、さす。漢名(かんみやう)、「黄顙魚(わうそうきよ)」。「みこ魚」は「鰪絲魚(わうしきよ)」。海(うみ)・河(かは)ともに有り。小三寸はかり、大、四、五寸。腮(あぎと)の下(した)に、ひれ、あり。色、黃茶。黑斑文(くろはんもん)あり。

[やぶちゃん注:最後の「小三寸はかり」は割注のように三行で有意に字が小さくなってはいるが、これは単にその頁内に叙述を入れ込むための仕儀と捉え、割注扱いせず、本文に入れ込んだ。さて。これはもう、図を見ても、基本、前項の、

ナマズ目ギギ科ギバチ属 Pelteobagrus

と考えてよい。「日本山海名産図会 第四巻 河鹿」の私の「三才圖會」の注で詳しく語ったので、そちらを見られたいが、色が赤いのはギギよりもギバチである。但し、「みこ魚(うを)」(巫女魚)及び『播刕にて、「みこ女郞(じよらう)」』(「巫女女郎」)という異名と、海にもいる刺す赤い魚というのは、

棘鰭上目カサゴ目ハオコゼ科ハオコゼ属ハオコゼ Paracentropogon rubripinnis

なんぞが直ちに想起されるし、実は、この「巫女魚」「女郎魚」は、どうも、

カサゴ目コチ亜目ホウボウ科ホウボウ属ホウボウ Chelidonichthys spinosus

どにもありそうな相応しい異名なのである。ホウボウに棘はないが、胸鰭の一番下の軟条三対は遊離して太く発達して、しかも赤く、脚の代わりになっているのは「ひれに針あり」という表現としっくりくるからである。調べてみると、あった。「まるは神港魚類株式会社」公式サイト内の「日本の旬 魚のお話」の魴鯡(ほうぼう)」の「地方名」に、「キミヨ・キミウオ(北陸)」として、『体色が華やかなことから、「女郎魚」の意で呼ぶ。昔は遊女、巫女(みこ)の雅号を「君」と呼んだ。また、佐渡に流された後鳥羽上皇が美味しいと食べたことから名が付いたという説もある』とあった。凡そ、ホウボウはゴリと間違えようはない華麗な魚体だが、一応、気になったので、候補として記載しておくこととする。]

 

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○越前霰魚(ゑちぜんあられうを)

○『「此國のほかになし」とて、「杜父魚」に充つるも、誤りなり』とす。霰の降る時、腹を、うへにして、流(なが)る、といふ。一名「カクブツ」。聲、あり。考ふるに、「杜父」の種類也。「杜父」といひて、あやまるにも、あるべからず。

[やぶちゃん注:これは日本固有種の、

カジカ属アユカケ Cottus kazika

の異名である。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアユカケのページに、本書を出典として「エチゼンアラレウオ(越前霰魚)」が載る。他に「ガコ」を挙げ、『福井県永平寺町など』での呼称で、『産卵のために秋から冬にかけて川を下るものをアラレガコ』と呼び、『「霰魚(あられがこ)」とは産卵期の冬、霰の降るときに膨らんだ白い腹を上にして流れにのって下流に下るとされるため』とあり、また「アイカケ」(鮎掛)は『三重県南牟婁郡紀宝町浅里、徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)』採取で、『「鮎掛」は棘でアユをひかけて捕まえて食べているためと教えられていた』とある。大和本草附錄巻之二 魚類 吹 (「ゴリ」類或いはカジカ・ウツセミカジカ等)」の私の注も参照されたい。当該ウィキによれば、『太平洋側は茨城県久慈川以南、日本海側は青森県深浦町津梅川以南、四国、九州に生息するが、瀬戸内海沿岸での定常的な生息は確認されていない』とする。但し、アユカケには図のような鬚はない。]

 

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○石くらひ

○「ドングロ」。ひれに、刺(はり)、なし。漢名(かんめう)、未ㇾ詳(つまびらかならず)。

[やぶちゃん注:辞書等によれば、先に注に入れた、

ハゼ亜目カワアナゴ科カワアナゴ亜科カワアナゴ属カワアナゴ Eleotris oxycephala

とするが、先の、

スズキ目ハゼ亜目ドンコ科ドンコ属ドンコ Odontobutis obscura

と区別しようがない。「石くらひ」は「石喰(食)らひ」であろうが、両種ともに貪欲であるから、これも共通する感じがする。但し、両種ともに図のような鬚はない。]

 

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○杜父魚(とふぎよ)

○「イシモチ」。「川ヲコゼ」【伏見】。「クチナハトンコ」【伊豫】。「マル」【嵯峩】。「ムコ」【近江】。[やぶちゃん注:最後の「。」を除いてここの「イシモチ」以降の「。」は底本にあるものである。]

水底(みなそこ)に居て、石に附きて、「石伏(いしふし)」に似たり。「コチ」に似たる黑斑(くろまだ)ら。加茂川に多し。頭(かしら)とひれに、刺(はり)ありて、するどし。

 

日本山海名產圖會巻之四

[やぶちゃん注:「大和本草卷之十三 魚之下 杜父魚 (カジカ類)」を参照されたい。またまた「頭とひれに、刺ありて、するどし」は困った。ただ、作者は恐らく、「物類称呼」(俳諧師越谷吾山(こしがやござん)によって編纂された江戸後期の方言辞典。安永四(一七七五)年刊)の「杜父魚」を参考にしたのではないかと思われる。PDFで所持する吉澤義則撰「校本物類稱呼 諸國方言索引」(昭和八(一九三三)年立命館出版部刊)を視認して電子化する。

   *

杜父魚 かじか○京大坂にて◦いしもち、加茂川にて◦ごり、嵯峨(さが)にて◦いまる、伏見にて◦川をこぜ、近江にて◦むこ、どうまんいしぶしちゝこ、九州にて◦どんぽ、筑前にて◦ねんまる、越前にて◦かくふつ、出雲にて◦ごす、伊賀にて◦すなほり、相模及伊豆駿河上總下總陸奥其外國々にて◦かしかと云。駿河沼津にては◦かじいと云。今按に、此魚種類甚多し、其水土によりて形すこしかはり、大小の品有といへ共、一類別名也と云。江戶にて賞(しやう)する鯊(はぜ)、これ又品類(ひんるい)多し。まはぜ◦三年物をいふ道風の淨瑠理に、はぜ釣ばりに三年物、戀一はこつちのゑて、とあるは「はぜ」におかしき異名(いめう)あればふくみて書る文なり。◦だばうはぜ、是は下品也◦しまはぜといふ有。是かじか也。又いし臥(ぶし)といへるは【源語玉鬘卷】に、ちかき川のいし臥(ぶし)などやうの逍遙(せうえう)し給ひて(下略)【河海】ちかき川とは賀茂川也と有。又下賀茂糺(たゞす)森の茶店にて「ごり」を調味(てうみ)して「ごり汁(じる)」と名付て賣也。又加賀越前の土人は「ごり」を鮓(すし)となしてたしみ食ふ。これを蛇(じや)の鮓といふ。又木曾の谷川などにて諸木の倒(たをれ)たる有て、年を経(へ)枝くさりて石鮎(ごり)[やぶちゃん注:二字へのルビ。]に化すといへり。それを土人ごり木といふ。又かくふつといふ物は、北海にて雪雹(あられ)[やぶちゃん注:「雹」へのルビ。ママ。]の降るとき腹(はら)を上になして水上に浮ぶ魚也【續猿簑】詞書有て

 〽角𩷚(かくふつ)や腹をならべて降るあられ

   *

「イシモチ」「イシモチ」は「石持」で、有意に大きな耳石を持つ種群の総称旧称であって標準和名としては魚類分類学では機能しない。現行では「イシモチ」(漢字表記「石持」「石首魚」「鰵」)と言った場合、

スズキ目スズキ亜目ニベ科シログチ属シログチ Pennahia argentata

ニベ科ニベ属ニベ Nibea mitsukurii

を指すが、業者や寿司屋では「イシモチ」の名が生きており、その場合、上記二種が別物でありながら、混在して卸売り業者が扱っているものの、寿司屋で「いしもち」と言った場合は、普通はシログチであると考えてよい。詳しくは、「大和本草卷之十三 魚之下 石首魚(ぐち) (シログチ・ニベ)」の私の注を参照されたい。これらの知識は、しかし、この場合の同定には無効であるように私は思う。何故なら、この「イシモチ」は淡水カジカ類やハゼ類の一部に見られる、文字通りの「石」を「持」つように、川床の石に張りついている魚の意であろうからである。

「川ヲコゼ」スズキ目ハゼ亜目ドンコ科ドンコ属ドンコ Odontobutis obscura の異名として、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のドンコのページに出る。この場合の「ヲコゼ」は「鬼虎魚」であるが、それは、専ら、「面つきが醜い魚」の意のそれであり(ドンコは体幹が縦方向に有意に押し潰されて縦扁しており、口は大きく、唇がこれまた厚く、下顎が上顎より前に突き出ている上、上・下の顎には細かな歯がある、所謂、異形タイプの魚である)、ドンコには海産のオコゼ類のような毒棘はない。従って、「刺ありて、するどし」の部分で無効である。なお、ドンコは胸鰭で石に張りつくことはできないから、前の私の「石持」説はこの魚に対しては無効となる。

「クチナハトンコ」不詳。「くちなは」は「朽ち繩」、「トンコ」は「ドンコ」で、「朽ち繩鈍甲」となるが、この「くちなは」は、古く忌まわしい「蛇」を直接指さないための「忌み言葉」として形が似ているヘビを指す語であり、西日本ではごく普通の語として現在も「くちなわ」として用いられている。思うに、ドンコの貪欲さ(当該ウィキによれば、『非常に貪欲で、口に入りさえすれば』、『自分と同じ大きさの動物にも襲いかかる』とある)や顔の禍々しさ(ドンコの正面から見た感じは「蛇っぽい顔」と言われれば、そう見えなくもない)から、かく命名されたと考えることは可能である。

「マル」不詳。「物類称呼」では「いまる」である。「いまる」はどうにも推理しようがない。「居丸」だったら、「ゐまる」だからだめである。作者の言うように「まる」だけで考えてみると、ドンコの胴体はまさに「丸」みを帯びた円錐形に近く、頭部と比べると短く、異名の一つに「ドカン」というのがあるらしい(但し、これが「土管」のことかどうかは不明である)。別に考えると、「まる」が、もし、ドンコを指すとなら、「糞(まる)」(排泄するという古語の動詞「まる」から)かも知れない。ドンコには悪いが、じっとしていると、形状・色ともにそれっぽく見えるからである。

「ムコ」古くに琵琶湖で獲れる魚を記したもののなかに、「ちちむこ」という名を学術データから見出せた。可能性を考えると、

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科 Gobionellinaeヨシノボリ属 Rhinogobius

のヨシノボリ類(ヨシノボリという標準和名の魚はいない)の仲間、或いは、琵琶湖固有種で全長四センチメートルほどしかない小型種、

ビワヨシノボリ Rhinogobius biwaensis

か?

「コチ」カサゴ目コチ亜目コチ科コチ属マゴチ Platycephalus sp.。大和本草卷之十三 魚之下 こち」参照。

 これを以って「日本山海名產圖會」巻之四は終わっている。]

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