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2021/06/12

大和本草諸品圖下 アマリ貝・蚌(ドフカヒ)・カタカイ・鱟魚(ウンキウ) (アリソガイ或いはウチムラサキ・イケチョウガイ或いはカラスガイとメンカラスガイとヌマガイとタガイ・ベッコウガサとマツバガイとヨメガカサ・カブトガニ)

 

Kai2

 

[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションの画像をトリミングした。]

 

アマリ貝

筑前州宗像郡蓑生(フ)浦ノ

空(ウツセ)貝古歌ニ所ㇾ詠スル

空殻也海

中淺處

大也其

肉味ヨシ西土ノ人

アマリ貝ト云

長四寸橫三寸三分ホドアリ

○やぶちゃんの書き下し文

あまり貝

筑前州宗像郡、「蓑生(〔みの〕ふ)の浦の空貝(うつせ〔かひ〕)」〔と〕古歌に詠ずる所〔の〕、空殻〔(あきから)〕なり。海中、淺き處に在り。大なり。其の肉、味、よし。西土の人、「あまり貝」と云ふ。長〔(た)〕け四寸、橫三寸三分ほどあり。

――――――――――――――――――

蚌(ドフカヒ)

是與ㇾ馬刀一其形似而大也

琵琶湖多シ他

邦ニモ稀

ㇾ之其小ナル

者馬刀

ト云和

名ミゾ

貝處々ニ

多シ蚌ト其

形相似タリ只   有大小而已

○やぶちゃんの書き下し文

蚌(どぶかひ)

是れ、「馬刀〔(みぞがひ)〕」と、其の形、似て、大なり。琵琶湖、多し。他邦にも稀れに、之れ、有り。其の小なる者、「馬刀」と云ふ。和名「みぞ貝」。處々に多し。「蚌〔(どぶがひ)〕」と其の形、相ひ似たり。只、大・小、有るのみ。

――――――――――――――――――

カタカイ ヨメノサラ二物著

海岸石傍

而生二物

         俯圖

皆然片貝

最味美ヨメノ

サラハ䗩ナリ老  仰圖

蜯牙ハカタカイト

云福州府志

似䗩而味厚

名牛蹄以ㇾ形

○やぶちゃんの書き下し文

かたかい 「よめのさら」〔と〕一類二物。海岸〔の〕石〔の〕傍らに著〔(つ)〕きて、生ず。二物、皆、然り。「片貝」、最も、味、美し。「よめのさら」は「䗩」なり。「老蜯牙」は「かたかい」と云ふ。「福州府志」に曰はく、『䗩〔(セキ/シヤク)〕に似て、味、厚し。一名、「牛蹄」。形を以つて名づく』と。

[やぶちゃん注:以下、指示キャプション。]

         俯圖

         仰圖

――――――――――――――――――

鱟魚(ウンキウ) カブトガニ

 其形狀載テ在本書

 葢諸州所

 稀ニ有

 物

 

Kabutoganinakamuragakuenban

 

[やぶちゃん注:以前に、『大和本草卷之十四 水蟲 介類 鱟 附「大和本草諸品圖」の「鱟」の図 参考「本草綱目」及び「三才圖會」の「鱟」の図 一挙掲載!』で載せたのだが、それは国立国会図書館デジタルコレクションの別の版本の「大和本草」の図(旧蔵者の書入れがなかなかに面白く、本図には、もろに『図アシヽ』と批判されてある)を裏写りを消すために補正し過ぎて、セピア色の斑が生じて甚だ不満足であった。そこで、底本の中村学園大学図書館蔵本画像PDF)の22コマ目を拡大表示させ、それをスクリーン・ショットし、さらにそれをトリミングし、周囲やカブトガニ図の中や周縁の汚れも徹底的に清拭した上、実はそちらでは欠損している頭胸部の甲の前面の箇所を恣意的にソフトで補って示したものを、上に掲げた。このご当地キャラ「かぶとがに君」的ブットビのシュールな図を紹介する私の憂鬱はこれを以って完成されたと考えている。]

 

○やぶちゃんの書き下し文

鱟魚(ウンキウ) 「カブトガニ」

 其の形狀、載せて、本書に在り。葢〔(けだ)〕し、諸州、稀〔(ま)〕れに有る所〔にして〕、異物と爲〔(な)〕す。

[やぶちゃん注:「アマリ貝」現在の和名に「空貝(うつせ〔かひ〕)」に近いものとしては、

腹足綱異鰓上目後鰓目無楯亜目ウツセミガイ上科ウツセミガイ科ウツセミガイ属ウツセミガイ Akera solute

はあるが、これはタクソンの後鰓目 Opisthobranchia から判る通り、ウミウシに代表される、無殻であるか、或いはごく小さな殻片痕跡である彼らの中でも、有意な貝殻を持つ種の一つである。巻の非常に緩い波で風化した巻貝の殻のような口の大きく開いた螺状殻を有する。外国産種の、繊細なキャラメル・ロール菓子を思わせるものを二つほど持っていたが、教え子にあげてしまった。「私が標本業者から買うほどいいのか?」と思われる方のために学名のグーグル画像検索をリンクさせておく。それを見れば、判る通り、生体時は、その軟体部は薄い繊細なその殻からはみ出して体が「あまり」出たような様子を呈するのである。さればこそ、「あまり貝」の名にも、私は反応して、ウツセミガイを想起したに過ぎない。生態や分布などは当該ウィキを見て戴きたいが、一つだけ言っておくと、この何か物哀しい和名は無論、「空蟬貝」であるが、「うつせみ」の語自体が、実際には、そう簡単ではない。所属していた今はなき「相模貝類同好会」(創設者の一人間瀬欣彌氏は私の父の友人)一九九七年発行の「貝の和名」(会報『みたまき』特別号)によれば(コンマを読点に代えた)、殻高三センチメートル内外で、『淡褐色で殻の非常に薄い貝。殻はコメツブガイ』(腹足綱後鰓亜綱頭楯(ブドウガイ)目ナツメガイ超科ヘコミツララガイ科コメツブガイ属 Retusa )『類を大型にしたような形をしているが、生きている状態を見れば、殻の退化したした種類の多いウミウシに近いことが判る。日本産は』一科一属一種で、『「うつせみ」とは「うつしおみ(現臣)」の約「うつそみ」が転訛した語で、本来の言葉の意味は「この世に生きている人間」「人間の生きているこの世」のことなのであるが、「空蝉」の当て字が用いられるようになったことから「蝉の抜け殻」そして「虚脱状態」を意味するようになった。この貝の名は、殻が薄く壊れやすい状態から蝉の抜け殻を連想して名付けられた名。別名ミナワガイというが、「みなわ」』(歴史的仮名遣「みなは」)『とは「水の泡」のこと。こちらも薄く壊れやすい膨らんだ殻からの連想』とある。ここでことわっておくと、薄い枕のような形のウツセミガイを話の枕にしたのは、不詳とするのが実はいやで、あくまでキャプションから、穿って強引に示したものに過ぎず、この貝の図は。これまた、そのウツセミガイなどでは毛頭ないわけではある。

 しかし、かと言って、「古歌に詠ずる所〔の〕、空殻〔(あきから)〕」、「空貝(うつせ〔かひ〕)」、則ち、非生物学的な広汎な「空しい死骸の空(から)の殻(から)」を指しているのか? というと、これまた、そういうわけではなく、ここでは、あくまで、はっきりと、「筑前州宗像郡」の「蓑生(〔みの〕ふ)の浦」(現在の福岡県福津市西福間にある福間海岸(グーグル・マップ・データ)に比定されている)の『海中、淺き處に』棲息し、しかも有意に大きく、『其の肉、味、よし。西土の人、「あまり貝」と云ふ。長〔(た)〕け四寸、橫三寸三分ほどあり』とする貝なのである。図が正しくその種を描いているとなら、私は貝殻表面の激しく粗い成長輪脈から、

斧足綱異歯亜綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科 Saxidomus 属ウチムラサキ Saxidomus purpurata

を直ちに最有力同定候補として想起した。「あまり貝」の「あまり」は、或いは同種がしばしば長い水管を突き出したまましており、身も厚いので、貝から「余って」はみ出ているの謂いで、納得は出来る(あくまで私の勝手な語源推理なので注意されたい)。しかしそれを語源とするとなると、斧足を垂らしているバカガイ上科バカガイ科バカガイ属バカガイ Mactra chinensis も候補に浮上してくることになるが、ここは珍しく絵師を庇って、バカガイの殻は光沢があり、つるつるであるから退けることとする。

『「蓑生(〔みの〕ふ)の浦の空貝(うつせ〔かひ〕)」〔と〕古歌に詠ずる』これは、「後拾遺和歌集」の巻第十八の「雜四」の馬内侍(むまのないし 生没年未詳:一条天皇中宮定子にも出仕した)の一首(一〇九七番)、

    そらごと歎き侍り侍りける頃、

    語らふ人の、絕えて音(おと)し

    侍らぬにつかはしける

 うかりける身のうの浦のうつせ貝(がひ)

     むなしき名のみ立つは聞ききや

である。新日本古典文学大系版では、この「身のうの浦」について、『「うかりける身」から続けていう。蓑生の浦。八雲御抄では石見国とする』が、『契沖は筑前国かとする』とあり、後者の比定地が先の場所である。但し、平凡社刊の下中弘氏編集・発行の「彩色 江戸博物学集成」(一九九四年刊)の「貝原益軒」では、貝類の大家波部忠重先生は、これを、

マルスダレガイ目バカガイ超科バカガイ科バカガイ亜科アリソガイ属アリソガイ Coelomactra antiquata

に推定比定され、『中国では西施舌という。唐の玄宗皇帝が山東省青島近くの名勝地を訪れ、この貝の料理を食べたとき、その美味を賞して西施舌と名付けたという。彼が』その時既に、『楊貴妃を知っていたら、楊貴舌としたかもしれない。肉は美味とあるが淡白。日本では誤ってミルクイガイ(ミルガイ)』バカガイ科オオトリガイ亜科ミルクイ属ミルクイ Tresus keenae )『にあてているが、これは誤りである』とある。「ブリタニカ国際大百科事典」によれば、殻長十一・五センチメートル、殻高九・五センチメートル、殻幅五・五センチメートルに達する大型種で、殻は三角形状で、殻頂部がよく膨らみ、薄質で脆い。殻頂部は帯青紫色で、殻皮は薄く、帯褐色で成長脈に沿って明らかである。殻内面も青紫色を帯び、噛み合せの歯は、殻頂の下に大きい弾帯受けがある。軟体の足は白色。食用となる。太平洋側は房総半島以南、日本海側は男鹿半島以南。また、中国大陸に分布し、浅海の細砂底にすむ。唐の玄宗皇帝がこれを食し、その美味を賞して、傾国の美女にあやかって西施舌(シーシーシャ)と名づけた、とあり、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種の画像を見るに、確かに、この図と強く一致する。されば、これを第一候補とする。

蚌(ドフカヒ)「大和本草卷之十四 水蟲 介類 蚌」で示した通り、当初、これは以下の四種を指すと考えた。

斧足綱古異歯亜綱イシガイ目イシガイ科イケチョウ亜科カラスガイ属カラスガイCristaria plicata 

琵琶湖固有種である同属のメンカラスガイCristaria plicata clessini (カラスガイに比して殻が薄く、殻幅が膨らむ)

イシガイ科ドブガイ属 Sinanodonta に属する大型のヌマガイ Sinanodonta lauta(ドブガイA型)

同属の小型のタガイ Sinanodonta japonica(ドブガイB型)

である。ただ、解説内で用いている「馬刀〔(みぞがひ)〕」が厄介で、例えば、「大和本草附錄巻之二 介類 馬刀(みそがい) (×オオミゾガイ→×ミゾガイ→○マテガイ)」で大いに振り回された。その二の舞はやる気がないので、どうぞ、そちらをお読みあれ。そもそもが、「ミゾガイ」を考え出すと、「オオミゾガイ」も「ミゾガイ」も「マテガイ」も総て海産であり、ここでの話が無効になるのである。しかも、それらは貝の外観がこんなゴツゴツの岩の塊りなんぞではないのだ。さればこそ、「馬刀」は、その読みの「みぞがい」から「溝貝」であり、例えば、四種の後者の「沼貝」や「田貝」と同系列のカラスガイ類も含めた異称と採るべきである。実際、僕らが小さな頃は、湖にも沼にも溜池にも田にも底を流れる川にも小川にも溝にも彼らは普通にいたのである。先に示した「彩色 江戸博物学集成」の「貝原益軒」では、波部先生がこれを、

イシガイ科イケチョウガイ属イケチョウガイ Hyriopsis schlegelii

とされ、『淡水真珠養殖の母貝とされるが、現在は個体数が激減して利用できない状態になっている。琵琶湖特産で、霞ヶ浦にも移植されているが、中国にはこれに似た』同属の『ヒレイケチョウガイ』(Hyriopsis cumingii )『がすむ』とある。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイケチョウガイの画像を見ると、独特の変形部が、この図とよく一致するように思われ、「琵琶湖に多し」という叙述がそれを示唆する。なお、和名は「池蝶貝」でリンク先で、『貝殻を広げた形が蝶(チョウ)を思わせるため』とあった。但し、益軒は「他邦に稀に、之れ、有り」としていることから、上記の四種も同定候補として附した。

「カタカイ」「ヨメノサラ」を以って「一類二物」としたのは卓見である。前者は「片貝」で「カタガイ」でよく、所謂、岩場に附着するお馴染みの笠型の貝殻を持つ腹足綱始祖腹足亜綱笠形腹足上目カサガイ目 Docoglossa 或いはヨメガカサ科 Cellana にカサガイ類の総称であろう。敢えて代表種として後のヨメガカサ以外に限定するなら、

腹足綱前鰓(始祖腹足)亜綱カサガイ目カサガイ目ヨメガカサガイ科ヨメガカサガイ属ベッコウガサ Cellana grata

同属で大型(約七センチメートル)の、

マツバガイ Cellana nigrolineata

などであろう。後者は、現在は、

ヨメガカサガイ科 Cellana 属ヨメガカサ Cellana toreuma

の異名である。事実、彼らは美味い。なお、標準和名のカサガイ Cellana mazatlandica は殻長九センチメートルに達する大型種であるが、小笠原諸島の固有種で(天然記念物指定)、容易に我々が見ることは出来ない。

『「よめのさら」は「䗩」なり』この漢字は単漢字としては「蟾蜍・蝦蟆・蝦蟇」、則ち、ヒキガエル類の総称であるが、古くからカサガイ類(総称)をも指していたものらしい。「大和本草卷之十四 水蟲 介類 ヨメノサラ(ヨメガカサ)」参照。

『「老蜯牙」は「かたかい」と云ふ』「大和本草附錄巻之二 介類 片貝(かたがひ) (クロアワビ或いはトコブシ)」を参照されたいが、そこではもっと大きなそれらを比定した。「牛蹄」「形を以つて名づく」とあるから、私は漢籍のそれは、こんなちんまいカサガイ類とは思わないということである。

「福州府志」清の乾隆帝の代に刊行された福建省の地誌。前のリンク先の私の注を参照。

「鱟魚(ウンキウ)」節足動物門鋏角亜門節口綱カブトガニ目カブトガニ科カブトガニ属カブトガニ Tachypleus tridentatus『大和本草卷之十四 水蟲 介類 鱟 附「大和本草諸品圖」の「鱟」の図 参考「本草綱目」及び「三才圖會」の「鱟」の図 一挙掲載!』に言った以外のことを書く必然性を私は感じない。]

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