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2021/07/13

小酒井不木「犯罪文學研究」(単行本・正字正仮名版準拠・オリジナル注附) (5) 三比事に書かれた探偵方法 三

 

        

 

 最後に『手がかり』を基として、推理によつて犯人を探偵する方法に就て述べよう。これは前にも述べたごとく三比事を通じて話の數が比較的に少いのである。前章に私は、いづこともなく駕籠で連れられて行つた醫師が、石橋の獅子の笛が隣家で聞えたといつた言葉から、地頭が犯人の住家を搜し當てるといふ藤陰比事の話を紹介して、板倉伊賀守の裁判談の燒直してあらうと言つたが、櫻陰比事の中にも同じ話があるから一寸紹介して置かう。やはこれも板介伊賀守の裁判談の燒直してあらう。題は『大事を聞き出す琵琶の音』といふのであつて、一條のある外科醫がどこともなう連れられて行つて二十日ばかり滯在し、金瘡《きんさう》の療治をさせられて歸される。この事を訴へ出ると裁判官は、何か先方て變つたことはなかつカかとたづねる。醫師は、窓から山が見えたこと、月夜に琵琶の音をきいたこと、月の二十三日夜に、一晚中、山で群集の聲がしたことを語る。裁判官はそれによつて、山の群集を愛宕の參詣と判斷し、後、京中の琵琶法師をたづねて、近い内に嵯峨へ招かれたものをさがし出し、遂に金瘡療治を賴んだものたち――卽ち盜賊――を搜し當るといふのである。[やぶちゃん注:国立国会図書館デジタルコレクションのこちらから原文が読める(巻四の「九」)。これはメインが悪人連中に殺された者たちの仇討ちを絡めたもので、飽きさせない展開となっている。]

 藤陰比事の中には、盜人から切り取つた片腕によつてその盜人をアイデンチフアイする[やぶちゃん注:identify。割り出す。特定する。]物語が書かれてある。土藏の屋尻を切る音で土人が眼をさまして樣子をうかゞふと、盜人は、切口から片手をさしこんで、金銀の革袋を盜み出さうとしたので、主人は飛びかゝつてその腕をつかんだが、先方は大力で今にも振りはなしさうになつたから、已むを得ず刀でその腕を切り落すと、盜人は一目散にどこかへ逃げて行つた。そこで主人はその腕をもつて地頭に訴へ出ると、地頭はそれを見て、太皷師だと判斷した。といふのは指ごとにたこがあつたからで、それから眞犯人を逮捕することが出來た。[やぶちゃん注:これは巻四の「㊀詮義に手を盡す片腕」。ここと、ここと、ここと(見開き挿絵)、ここ。]

 指のたこだけで太皷師だと判斷することは出來さうもないことだが、兎に角手がかりによつて判斷した好箇の例である。然し同じく藤陰比事にある『身の上知らぬ五助が呼聲』といふ物語りは、人の言葉づかひを手がかりとして判斷した最も興味ある例であつて、現今の探偵の參考にもなり得ると思ふ。[やぶちゃん注:私が参考に閲覧している「国文研データセット」の宝永六(一七〇九)年版では、標題が異なり、巻之二の「㊇裸にしたる詞(ことば)にあやまり」である。ここと、ここが本文。離れた場所にあるこれは本篇の挿絵と見た。]

『乍ㇾ恐言上仕候、私儀は北村の重兵衞と申者にて御座候、南村の七九郞と申ものと當月每年申合せ、河内へ木綿買に罷越候に付、此度も申合せ、同道仕る筈に前夜約束仕り、今朝小潮川と申す舟渡し場にて、出會申す時取《ときどり[やぶちゃん注:事前に時刻を取り決めておくことを言う語。]》いたし候故、早天にかのわたし場へ參り相待申し、はや六つ[やぶちゃん注:午前六時頃。]になり候へ共、七九郞見え申さず候に付、あまりふしぎにぞんじ、わたし守五郞をやとひ七九郞かたへさそひにつかはし候へば、約束の通り今朝七つ[やぶちゃん注:午前四時頃。]まへに宿を出申候よし、女房返事仕にし候故、不審に存じ候處、七八町[やぶちゃん注:約七百六十四~八百七十三メートル。]川下の井關《ゐせき》[やぶちゃん注:「堰」「井堰」が正しい。水を他に引くために蛇籠(じゃかご)などを置いて川の水を堰き止める所。]に死人ながれかゝりこれあるよし風聞仕り候に付、はせ參り見申候へば、七九郞丸はだかにて相果これあり候故、早速七九郞女房かたへまゐり告《つげ》しらせ候へば、女房かへつて私をうたがぴ、木綿買申すもとで全二十兩銀五百目持參申候へば、これを取らんとて殺したるものとねだり[やぶちゃん注:難くせをつけ。]、男のかたきとのゝしり申候、私毛頭おぼえ御座なく候間、御吟味被ㇾ遊下され候はゞ、ありがたく可ㇾ奉ㇾ存候以上。

   月 日       北村口重兵衞判

 地頭聞しめし屆けられ、七九郞が女房を召出され、夫は何時に宿を出しぞ、七つまへと申す、わたし守が七九郞をさそひにまゐりたるは何時ぞ、明ケ六つと申す、渡し守は何と申してきたりしぞ、お内儀お内儀と申しておもての戶をたゝきたると申す、地頭おぽしめすは、七九郞が名をこそ呼びて起すべきに、女房を呼おこすこと不思議とおぼし召し、急いでその渡し守をめしよせられ、拷問仰付られければ、金銀はいまだ一分も取申さず、そのままこれあり候、ひよつと夜深《よぶか》に候故出來心にて仕り候、命の儀はおたすけと白狀申すにつき、盜賊人殺しの重罪たる御仕置仰せつけられけるとなり』

 短いけれども、行き屆いた物語であつて、三比事を通じての白眉といつてよいかもしれない。が然し、繰返して言ふ通り三比事の物語は全體を通じて言へば優劣は殆んどないといつてよい。私は次章に三比事にあらはれた犯罪及び犯罪心理について書いて見ようと思ふ。

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