日本山海名産図会 第二巻 龍山石
○龍山石(たつやまいし)
播州に産して、一山一塊(いつさんいつくわい)の石なる故に、樹木、すくなし。往々。此の石山、多けれども、運送の便(たより)よき所を切り出だして、今は堀り採るやうになれども、運送不便の山は、いたづらに存して、切り入(い)る事、なし。石の寳殿は、即ち、立山石(たつやまいし)にして、其の邉を便所(へんしよ)として、専ら、切り出だし、採法、すべて、かはること、なし。故に、圖も畧せり。色は、五彩を混(こん)ず。切りて形を成す事、皆、方條(ながて)にのみ、あり。溝渠(みそ)・河水(かは)の涯岸(きし)、或ひは、界壁(さいめ)の敷石(しきいし)・敷居(しきい)の土居(とゐ)・庭砌(ていれき)等(とう)の用に抵(あ)てゝ、他の器物(きぶつ)に製すること、なし。大きさは、三、四尺より、七、八尺にも及び、方(はう)五寸に、六寸の物を、「五六」といひ、五寸に七寸を、「五七」といひて、尚(なを)、大いなる品數(ひんすう)あり【麓の塩市村(しほいちむら)に石工あり。南の尾嵜(おさき)に「龍(たつ)が端(はな)」といひて、龍頭(たつかしら)に似たる石あり。ゆゑに「龍山」といふ。】
[やぶちゃん注:「龍山石」「石品」の私の「立山石(たつやまいし)」(作者の誤記と思ったが、ここでも同じように並置しているので、異名として当時はあったものであろう。「立」でも腑には落ちる気はしないでもない)の注を参照。
「石の寳殿」同前の注の中で述べておいたので、やはりそちらを参照されたい。
「便所」「べんしよ(べんしょ)」。切り出しするの便が良い場所。
「方條(ながて)」「長手」を当てたものか。平たい方形・長方形の意であろう。
「界壁(さいめ)」境目の当て読みか。家屋や敷地の境目を示すものの謂いであろう。
「敷居(しきい)の土居(とゐ)」門の内と外との仕切りとして敷く横木の土台の意であろう。
「庭砌(ていれき)」既注だが、再掲しておくと、「砌」は「水限(みぎ)り」の意で、雨滴の落ちる際、また、そこを限るところからの呼称であるから、ここは庭に面した軒下などの雨滴を受けるために石或いは敷瓦を敷いた所を指す。
「塩市村」現在の兵庫県高砂市米田町塩市附近。北西で接する兵庫県高砂市阿弥陀町に「竜山石採石遺跡」(グーグル・マップ・データ航空写真。以下同じ)があり、現在も砕石されていることが画像から判る。因みに、その北直近に先の「石の寳殿」があるのも判る。
「尾嵜」この地名は現存しないようである。
「龍(たつ)が端(はな)」塩市地区の南直近の圏外に「竜ヶ鼻」がある。]
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