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2021/07/19

日本山海名産図会 第二巻 吉野葛

 

Yosinokuzu

 

[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションの画像をトリミングした。キャプションは「吉野葛(よしのくず)」。]

 

  ○ 葛(くず) 葛穀(かつこく) 一名 鹿豆(ろくとう)

蔓草(つるくさ)なり。根を食らふ。是れを「葛根(かつこん)」といふ。粉(こ)とするを「葛粉」といふ。吉野より出だすもの、上品とす。今は紀州に「六郞太夫」といふを賞す。もつとも佳味(かみ)なり。是れ、全く他物を加わへざるゆへなるべし。草は山野とも自然生(しぜんせい)多く、中華には家園(には)[やぶちゃん注:二字へのルビ。]に種えて「家葛(かかつ)」と云う。野生のものを「野葛(やかつ)」といふ。日本にては家園(には)に栽ゆること、なし。葉は遍豆(いんけんまめ)に似て、三葉(さんよう)一所に着きて、三尖(みつかど)。小豆(あづき)の葉のごときもあり。莖・葉とも毛茸(け)[やぶちゃん注:二字へのルビ。]ありて、七月ころ、紫赤(むらさき)[やぶちゃん注:二字へのルビ。]の花を開きて紫藤花(ふじのはな)[やぶちゃん注:三字へのルビ。]のごとし。穗を成して、下に垂れる。長さ三寸斗り。莢(さや)を結びて、是れ又、毛あり。冬月(ふゆ)、根を堀りて、石盤にて、打ち※(くだ)き[やぶちゃん注:「※」=「扌」+「叩」。]、汁を去り、金杵(かなきね)にてよく舂き細屑末(こまかきこ)[やぶちゃん注:三字へのルビ。]となして、水飛(すいひ)、數度(すど)に、飽(あ)かしめ、盆に盛りて、日に暴(さら)し、桶に納めて出だす【和方書、是を「水粉」といふ。】○葛根(かつこん)は藥肆(くすりや)に生乾(きほし)・暴乾(さらし)の二品あり。○蔓は、水に浸し、皮を去り、編み連(つら)ねて、器とし、是れを「葛簏(ふちこち)」といひて水口(みなくち)に製するもの、是なり。葛篭(つゞら)は蔓をつらねたるの名なり。○葛布(くづぬの)は、蔓を煮て、苧のごとく、裂き、紡(う)を績(つむ)きて、織るなり。「詩經」に「絺綌(ちげき)」と云は。「絺」は「細糸」、「綌」は「太き糸」にて、古へ、中華に織るもの、今の越後縮(えちごちゝみ)のごときもありと見たへり。○「クス」と云ふは、「細屑(くづ)[やぶちゃん注:二字へのルビ。]」の儀にて、「水粉(すいふん)」につきての名にして、草の本名は「葛(ふぢ)」なり。「フヂ」は即ち、「鞭(ぶち)」なり。古製(こせい)、是れをもつて「鞭(むち)」とす。故に号(なづ)けて、「喪服」を「葛衣(ふぢごろも)」といふは「葛布」なればなり。

[やぶちゃん注:以下、最後まで一字下げ。但し、後の二箇所の「○」の記号だけは下げがない。]

これ、蔓・葉・根・花(くわ)・皮ともに、民用に益あり。故に遠村の民は、親屬、手を携へ、山居(さんきよ)して、堀り食らひ、高く生ひて、粉なき時は、山下(さんか)に出でて、これを紡績(はうせき)す。皆、人に益し、救ふ事、五穀に亞(つ)げり。○蕨根(わらびのね)も亦、是れに亞(つ)きて、同しく「水粉(すいふん)」とす。其の品は賤しけれども、人の飢へを救ふにおゐては、その功用、變ること、なし。伯夷(はくゐ)・叔齋(しゆくせい)が、首陽の山居も、此れによりて生(せい)を保てり。【僞物(きぶつ)は生麩(せいふ)をくわへて、制し、味、甚だ、佳(くわ)ならす。】

○此の余(よ)、葛粉(かつふん)の功用、甚だ、多し。或ひは餠、又は、水麵(すいとん)に制し、白粉(おしろひ)に和(くわ)し、糊(のり)に適(てき)し、料理の調味なと、さまざま、人に益す。○或る書に云わく、『葛、よく、毒を除く。』といへども、其の根、土に入ること、五、六寸以上を「葛膽(かつたん)」といひて、これ、頸(がふ)なり。これを服すれば、人に吐(と)せしむ。

[やぶちゃん注:マメ目マメ科マメ亜科インゲンマメ連ダイズ亜連クズ属クズ変種クズ Pueraria montana var. lobata 。私の家の県道方向に向かった斜面は一面の葛で覆い尽くされてしまっている。亡き母が丹精込めて育てた紫陽花もすっかり覆われて、殆んど花を咲かせなくなってしまった……

「六郞太夫」このブランドは現在は残っていない模様である。

「遍豆(いんけんまめ)」我々は当然の如く、マメ目マメ科インゲンマメ属インゲンマメ Phaseolus vulgaris を想起するが、しかし、ではインゲンマメとクズは似ているかというと、私は似ていないと思う。而して、作者は恐らくは浪速大坂の人間である。さすれば、西日本では別にインゲンマメでないものを「インゲンマメ」と呼んでおり、それはマメ亜科インゲンマメ連フジマメ属フジマメ Lablab purpureus で、同種はクズに草体は勿論、花もちょいと似ている(ウィキの「フジマメ」の画像リンク)から、ここはフジマメのことととる。

「三葉(さんよう)一所に着きて、三尖(みつかど)」クズの葉は大型の三出複葉。当該ウィキの葉の写真をリンクさせておく。御覧の通り、「三尖(みつかど)」とは、一つの葉自体が小葉で三方へ尖ることを言っている。

「小豆(あづき)」マメ亜科ササゲ属アズキ Vigna angularis 。クズの若い個体の場合は、葉が似ているかも知れない。

「莖・葉とも毛茸(け)あり」葉の裏面は白い毛が密生しており、白色を帯びている。

「紫赤(むらさき)の花」当該ウィキの花の写真をリンクさせておく。うちの斜面では、もさもさ過ぎて、花一つだに見えぬ哀しさ……

「紫藤花(ふじのはな)」マメ亜科フジ連フジ属フジ Wisteria floribunda 。小さな頃は、周囲の山々に幾らも咲いて、私の好きな花だったに。裏山の直近の藤沢の渓谷は本当に藤の沢だったに。今は完璧な住宅地に変貌してしまった。ウナギもカワエビもタニシもモッゴもウシガエルもアメリカアリガニもゴマンといたのに……

「水飛(すいひ)、數度(すど)に、飽(あ)かしめ」意味不明。前に出た「陶器(やきもの)」の文中では、「水干(すいひ)」で出、「水」で精製して、後に、しっかり「水」分を「飛」ばして「干」し上げることの意で用いていた。ここもそれをこれでもかと、複数回、「飽」きるぐらいに繰り返してやることの意味でとっておく。

「和方書」日本の本草書・農学書。

「葛根(かつこん)」基原植物は本原種の周皮を除いた根を乾燥したもので、「葛根湯」で現在もお馴染みの風邪薬・解熱鎮痛消炎薬に配合されている。なお、ウィキの「クズ」によれば、『花は可食で、シロップ漬け』『や天ぷらなどにすることができる。ただし』、『他のマメ科植物同様にレクチンを中心とした配糖体の毒性が含まれており、多量に摂取すると吐き気、嘔吐、眩暈、下痢、胃痛などを起こすおそれもあるため、あまり食用には適していない。加熱されていない種子は食中毒の可能性がより高くなる。その他に、樹皮や莢にはウイスタリン(wistarin)、種子には有毒性アルカロイドの一種であるシチシン(cytisine)が存在するという報告も上がっている』とあるので、要注意である。

「葛簏(ふちこち)」不詳。「簏」は「すり」と読んで、特に上代から中古に於いて、旅行の際などに携行した竹で編んだ籠状の小箱のことである。「あまはこ」とも。ここはしかし、クズの蔓で製した繩のことのようには思われる。

「水口(みなくち)」炊事場の水を引き入れたり、放出したりする口のことか。しかし、どこにどんな風に使うのか今一つ、私には判らない。識者の御教授を乞う。

「苧」は「を」或いは「からむし」。イラクサ目イラクサ科カラムシ属ナンバンカラムシ変種カラムシ Boehmeria nivea var. nipononivea の繊維を撚り合わせて糸や紐にしたもの。

「詩經」「絺綌(ちげき)」「詩経」の「国風」の「周南」にある「葛覃(かつたん)」の一節。

   *

葛之覃兮

施于中谷

維葉莫莫

是刈是濩

爲絺爲綌

服之無斁

 葛の覃(の)びて

 中谷(ちゆうこく)に施(いた)る

 維(これ) 葉 莫莫たり

 是(ここ)に刈り 是に濩(に)て

 絺(ち)と爲し 綌(げき)と爲し

 之れを服(ふく)して斁(いと)ふ無し

   *

全篇はサイト「漢詩と中国文化」のこちらがよい。「濩」は「煮」に同じ。「斁」は「厭」に同じで「厭(いや)になる」の意。思うに、これは婚姻後に女の主たる仕事となる着物を織る労働と、婚家と実家のいやさかを言祝いだ嫁入りの民謡であろう。詩篇の終わりは「歸寧父母」(歸(とつ)ぎて 父母を寧(やす)んぜん)である。

「越後縮(えちごちゝみ)」「織布」の私の注を参照。

「水粉(すいふん)」水に溶かして食用・水白粉(おしろい)などに使うものを言っているのであろう。

『草の本名は「葛(ふぢ)」なり』古くから「藤葛(ふぢかづら)」の呼称ああり、藤やなどの茎が他の物に巻きつく性質をもった植物の総称であったから、この謂いは奇異ではない。

『「フヂ」は即ち、「鞭(ぶち)」なり。古製(こせい)、是れをもつて「鞭(むち)」とす』これは一説としてはあってもいいが、私にはいかにも怪しく感じられる。因みに、小学館「日本国語大辞典」の「藤」の語源説にはこれは出ていないから、主要な説の一つとは言えないのではなかろうか。

『故に号(なづ)けて、「喪服」を「葛衣(ふぢごろも)」といふは「葛布」なればなり』平凡社「世界大百科事典」の「藤布」に、『木綿の伝わる中世末期までは植物性繊維として』、『アサ(麻)についで栲(たえ)などとともに庶民の間には広く行われていたと思われる。藤衣(ふじごろも)というのが公家(くげ)の服飾の中で喪服として用いられたが』、『これはもともと』は『粗末なものを用いることをたてまえとする喪服が』、『庶民の衣服材料である麻布や藤布で作られたため』、『このように称したのであろう』とある。この頭の「故に号(なづ)けて」というふりかざし方が何を指しているのか判らず、却ってはったりの感じを与えてよくない。

「生麩(せいふ)」小麦粉を水で練ったもの。

『「葛膽(かつたん)」といひて、これ、頸(がふ)なり。これを服すれば、人に吐(と)せしむ』「頸(がふ)」の読み不詳。謂わば、葛の精髄(「熊の胆」みたような)(頸=脊髄)の意か。これは或いは、先に引用した皮に含まれる有毒物質を指しているのかも知れない。]

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