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« 芥川龍之介書簡抄95 / 大正八(一九一九)年(七) 二通 | トップページ | 日本山海名産図会 第二巻 砥礪 »

2021/07/12

「和漢三才圖會」巻第六十一「雜石類」より「砥(といし)」

 

Toisi

 

といし   磨刀石 礪石

【音紙】 羊肝石

      【砥阿乎止

       礪阿良止】

本草砥磨物也細密者爲砥粗糲者爲礪人若死蹋之患

帯下未知所由又磨刀垽名龍白泉粉用塗瘰癧擦核

三才圖會云砥首陽山有紫白粉色者出南昌者最善

△按古者用木磨物故字作搘【音支】今則用蓋非眞石此

 凝土也堀山取之如瓦土然有数種

庖丁刀砥 蒼色謂之青砥山城之產爲上丹波及防州

 岩国產次之

刀劔砥 淡白色參州名倉之產爲最上山州嵯峨之内

 曇次之越前常慶寺村之產又次之

剃刀砥 淡白色山州鳴瀧及上野之產爲上丹波近江

 次之

礪石 肥前天草之產赤白襍有橒文謂之天草砥出於

 豫州者淡白或淡赤色有橒文並磨諸刀之新刀或作

 硯亦賤也紀州神子濵肥州唐津皆出礪其他不盡述

凡砥山中甚軟黏未爲砥者取之日乾細末水飛作團子

 名之砥粉𣾰工家復硏末和𣾰飯糊水塗𣾰噐下地謂

 之地鏽其上以𣾰可塗否則肌不密

龍白泉【砥水】以可染黑茶色【俗云憲法染】布帛藍染而柘榴皮

 五倍子煮熟以其汁再染浸龍白泉【陳久者良】一宿則純黑

 勝於鐡漿染而帛不易敗

○やぶちゃんの書き下し文

といし   磨刀石 礪石〔(れいせき)〕

【音紙】 羊肝石

      【「砥」は「阿乎止〔(あをと)〕」、

       「礪」は「阿良止〔(あらと)〕」。】

「本草」に、『砥は物を磨くなり。細密なる者を「砥(あをと)」と爲し、粗糲〔(それい)なる〕者を「礪(あらと)」と爲す。人、若し、之れを蹋(ふ)めば、帯下〔(こしけ)〕を患ふと〔いへど〕、未だ、〔その〕所由〔(よるところ)〕を知らず。又、刀を磨きたる垽(をり)を「龍白泉粉」と名づく。用ひて、瘰癧結核〔(るいれきけつかく)〕に塗る。』と。

「三才圖會」に云はく、『砥は首陽山に紫白粉色の者、有り。南昌に出づる者、最善なり。』と。

△按ずるに、古〔(いにしへ)〕は、木を用ひて物を磨(と)ぐ。故に、字、「搘」に作る【音「支」。】。今は則ち、石を用ふ。蓋し、眞の石に非ず、此れ、凝(こ)りたる土なり。山を堀り、之れを取ること、瓦〔の〕土のごとし。然り、数種有り。

庖丁刀(ほうちやう)砥 蒼色。之れを「青砥(あほと)」と謂ふ。山城の產、上と爲し、丹波及び防州岩国の產、之れに次ぐ。

刀劔砥 淡白色。參州名倉の產、最上と爲す。山州嵯峨の「内曇(うちぐもり)」、之れに次ぐ。越前常慶寺村の產、又、之れに次ぐ。

剃刀(かみそり)砥 淡白色。山州の鳴瀧及び上野〔(かうづけ)〕の產、上と爲す。丹波・近江、之れに次ぐ。

礪石(あらと) 肥前天草の產、赤に、白、襍(まじ)りて、橒文(もくめ)有り。之れを「天草砥」と謂ふ。豫州に出づる者、淡白〔(あはしろ)〕く、或いは、淡赤色、橒文(もくめ)有り。並びに諸刀の新刀(あらは)を磨(と)ぐ。或いは、硯に作る〔も〕亦、賤(やす)し。紀州の神子濵(みこの〔はま〕)・肥州唐津、皆、礪を出だす。其の他、盡く〔は〕述べず。

凡そ、砥、山の中、甚だ軟黏(やはらか)にして、未だ砥に爲らざる者、之れを取りて、日に乾し、細末にして、水を飛ばし、團子(だんご)と作〔(な)〕す。之れを「砥粉〔(とのこ)〕」と名〔(なづ)〕く。𣾰工家(ぬしや)に、復た、硏末して、𣾰・飯糊(ひめのり)・水を和えて、𣾰噐の下地を塗る。之れを「地鏽(ぢさび)」と謂ふ。其の上に𣾰を以つて塗るべし。否(しからざ)るときは、則ち、肌、密(こまや)かならず。

龍白泉(とじる)【砥水〔(とみづ)〕。】以つて黑茶色を染むべし。【俗に云ふ、「憲法染〔(けんぱふぞめ)〕」。】布帛、藍をもつて染めて、柘榴〔(ざくろ)の〕皮・五倍子〔(ごばいし)〕を煮熟して、其の汁を以つて、再たび、染め、龍白泉に浸し【陳久〔(ちんきう)〕の者、良し。】、一宿すれば、則ち、純黑〔たり〕。鐡漿染(かねそめ)に勝りて、而〔(しか)〕も、帛(きぬ)、敗〔(やぶ)〕れ易からず。

[やぶちゃん注:『「本草」に……』「本草綱目」巻十の「金石之四」の以下。囲み字は太字に代えた。

   *

越砥【「别錄中品」。】

 釋名磨刀石【藏器。】・羊肝石【「綱目」。】・礪石【時珍曰はく、「尚書」に、荆州厥の貢は砥礪と。注に云はく、砥は細宻を以つて名と爲す。礪、粗糲を以つて稱となす。俗に稱する者は、羊肝石と爲す。形色に因るてなり。景曰はく、越砥は今の細礪石なり。臨平に出づ。】

 氣味甘。毒、無し。

 主治目盲の痛みを止め、熱瘙(ねつさう)[やぶちゃん注:熱を持った皮膚の瘡。]を除く【「本經」。】。磨りし汁を目に㸃じて、障翳を除く。赤(しやく)に燒きて、酒に投じ、飲みて、血瘕痛切[やぶちゃん注:血が凝り固まって激しい痛みを生ずる症状か。]を破る【藏器。】。

 礪石主治宿血を破り、石淋[やぶちゃん注:膀胱結石。]を下し、結瘕を除き、鬼物惡氣を伏す。赤に燒き、酒中に投して之れを飲む。人、言之れを蹋(ふ)めば、帶下を患ふと。未だ由る所を知らず【藏器。】。

 磨刀垽(またうぎん)【一名「龍白泉粉」。】主治蠼螋尿瘡(かくさうにねうさう)[やぶちゃん注:現行ではサソリ刺傷の症状とされる古病名。]に傅(つ)效有り【藏器。】瘰瀝結核に塗る【時珍。】

   *

「粗糲〔(それい)なる〕者」粒子が粗い物。

「蹋(ふ)めば」「踏めば」に同じ。

「帯下〔(こしけ)〕」これは女性性器の分泌物又はその分泌異常を含む語でありから、踏む対象が女性に限られる禁忌となる。山中への女性の入山を嫌った旧習の名残ではあるまいか。

「垽(をり)」澱・滓(おり)のこと。

「瘰癧結核〔(るいれきけつかく)〕」平凡社「東洋文庫」版では『結核性の頸によく出る腫れもの』とする。

『「三才圖會」に云はく、『砥は首陽山に紫白粉色の者、有り。南昌に出づる者、最善なり。』と』国立国会図書館デジタルコレクションの一六〇九序の刊本では、ここと、ここ。但し、そこでは冒頭の図のキャプションは「礪」であり、本文の「首陽山に」以下の主語は「礪石」であって、「砥」ではない。「首陽山」周の武王を諌めた伯夷・叔斉が隠棲して餓死した山として知られるが、現在の山西省の西南部にあったとも言われ、別に河南省洛陽市の東北に同名の山も現存し、比定地は複数ある。「南昌」江西省南昌市。

「搘」この字は「支える」或いは「枝」の意で、特定の樹木を指さない。「東洋文庫」版では、『搘とは柱氐(どだい)のこと。氐は砥とも書く』とあるが、注が不親切で、「柱氐」の意味が判らない。「柱のようにそそり立っている石」の意のようではあるが、それでは、本文の意が通じない。

「庖丁刀(ほうちやう)砥」「青砥(あほと)」色が青く、肌理(きめ)の細かい粘板岩で作った砥石。中研ぎに用いる。

「刀劔砥」刀剣用砥石は複数のものを段階によって使用する。サイト「日本刀研磨 楽屋」の「刀剣研磨工程写真集」を参照されたい。

「參州名倉」サイト「鉋、鑿、大工道具の曼陀羅屋」のこちらに、『名倉砥の産地は全国の天然砥石産地の中でも一地域にしか無く(愛知県北設楽:きたしたら)』、同『郡』の旧『三輪村砥山であって』、『従来』、『言われている様に名倉村とか名倉山から出ているのではない。三輪村の隣が振草村で振草村に隣接して名倉村があるけれども、名倉村の方からは砥石が出ていない』。『恐らく』、『昔』、『此の辺一帯が名倉村といわれたか、或は砥石は名倉村へ運び出されて此処から諸国へ売り出された為に其名を得たものと思われる。土地の伝説では平家の落武者、名倉左近が刀を研いで見て発見したと言われており』、『現在は閉山されてい』るとある。この附近か(国土地理院図)。

『山州嵯峨の「内曇(うちぐもり)」』砥石の一種。京都市右京区の鳴滝山(この附近(グーグル・マップ・データ。以下同じ)か。山名は確認出来ない)から産出する。黄白色に紫色の模様がある。刀剣を砥ぐために用いる。鳴滝砥。

「越前常慶寺村」諸本で地名が異なるが、現在の一乗谷の奥の福井県福井市浄教寺町(じょうきょうじちょう)のこと。

「剃刀(かみそり)砥」剃刀やナイフ様の小型のそれを砥ぎ上げるのに用いるもの。

 淡白色。山州の鳴瀧及び上野の產、上と爲す。丹波・近江、之れに次ぐ。

「橒文(もくめ)」木の木目に似た紋のこと。

「新刀(あらは)」新しく鉄を鍛えて作り上げた研ぎが成されていない刀。新身(あらみ)。

「賤(やす)し」購入価格が安いの意。

「紀州の神子濵(みこの〔はま〕)」和歌山県田辺市神子浜(かみこはま)。

「盡く〔は〕述べず」各地で各種あり、産地・石質などを総て述べ上げる暇はない。

「水を飛ばし」「東洋文庫」版では、『水を打ち』とある。

「𣾰工家(ぬしや)」漆細工をする者。

「飯糊(ひめのり)」澱粉糊。姫糊(ひめのり)・続飯(そくい)、正麩糊(しょうふのり)などとも呼ばれるが、本来の「姫糊」と「続飯」は飯粒(めしつぶ)を潰して練って作った糊で、「正麩糊」は小麦澱粉から作った糊のことを指す。よく知られるように、接着剤・粘着剤として用いる。私は、昔、亡き母と障子を貼るのに、それを用いたのを想い出す。

「𣾰噐」漆器。

「地鏽(ぢさび)」錆漆 (さびうるし:水で練った砥粉 (とのこ) に生漆 (きうるし) を混ぜたもので、漆塗りの下地のほか、絵模様の輪郭を描いたり、肉を盛り上げたりするのに用いる。単に「さび」とも呼ぶ) を下地に塗ること。錆塗り。

「龍白泉(とじる)」砥汁。砥石で金属を砥いだ際に出る汁、或いはそれを専ら売るために砥石を研いだ滓り汁。

「憲法染」黒茶色の地に小紋を染め出したもの。慶長(一五九六年~一六一五年)の頃に吉岡流(本来は室町後期に興隆した剣術の一流派。当主は憲法 (けんぼう) の名を世襲し、小太刀 (こだち) を得意とした。憲法流)四代目憲法 の考案という。「吉岡染め」とも。刀剣研ぎの過程で得たそれを、染め物に用いたものであろう。

「柘榴〔(ざくろ)の〕皮」フトモモ目ミソハギ科ザクロ属ザクロ Punica granatum の樹皮・根皮・果皮は広く漢方生薬(特に駆虫薬)として用いられてきた。

「五倍子」ウィキの「ヌルデ」によれば、ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデヌルデ(白膠木)Rhus javanica 或いは変種ヌルデ Rhus javanica var.chinensis の葉にカメムシ目アブラムシ上科アムラムシ科タマワタムシ亜科 Schlechtendalia 属ヌルデシロアブラムシSchlechtendalia Chinensisが寄生して形成される大きな虫癭(ちゅうえい:所謂、「虫瘤(むしこぶ)」)から抽出した染料、或いは漢方薬を言う語である。この虫癭には『黒紫色のアブラムシが多数詰まっている。この虫癭はタンニンが豊富に含まれており、皮なめしに用いられたり、黒色染料の原料になる。染め物では空五倍子色』(うつぶしいろ:やや褐色がかった淡い灰色)『とよばれる伝統的な色をつくりだす。インキや白髪染の原料になるほか、かつては既婚女性』及び十八歳以上の『未婚女性の習慣であったお歯黒にも用いられ』、『また、生薬として五倍子(ごばいし)あるいは付子(ふし)と呼ばれ、腫れ物、歯痛などに用いられた』とある(但し、猛毒のあるトリカブトの根も同じく「付子」で「ふし」と読むので混同しないよう注意を要する、と注意書きがある)。

「陳久〔(ちんきう)〕」古いもの。この場合は、再度、浸す龍泉水のことを指している。

「一宿」一晩。

「鐡漿染(かねそめ)」生の鉄を長く水に浸して出来る黒い汁(鉄漿)を用いて紺色に染めること。]

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