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2021/07/28

日本山海名産図会 第二巻 鳬(かも)・峯越鴨(おごしのかも)

 

Kamo0

 

[やぶちゃん注:これ以下、底本の国立国会図書館デジタルコレクションの画像をトリミングした。キャプションは「高縄(たかなは)をはつて鳬(かも)を捕(とる)」。本文に出る皮革で出来た「水足袋(みづたび)」を装着した「なんば」(田下駄)を履いている。少なくとも、私はこうした特殊な履物を描いたのを見たのは初めてである。而して、何より、向こうの田圃道に、鴨を掠め取らんとして来たのであろう、二匹の狐が絶妙のアクセントとして描かれて見事である。]

 

   ○鳬(かも)

○鳬は攝州大坂近邉に捕るもの、甚だ美味なり。北中島を上品とす。河内、其の次ぎなり。是れを捕るに 他國にては「鴨羅」といへども、津の國にては「シキデン」とて、橫幅、五、六間[やぶちゃん注:約九・一〇~一〇・九一メートル。]に、竪一間[やぶちゃん注:約一・八二メートル。]斗の細き糸の羅を、左右、竹に付けて立つる。又、三間程づゝ隔てゝ、三重(ぢう)・四重に張るなり。是れを「霞」共云。○又、一法に、池の辺(ほとり)にては、竹に黐(もち)を塗り、横に、多く、さし置けば、鳬、渚(みぎは)の芹(せり)など求食(あさる)とて、竹の下を潜(くゝ)るに、觸れて黐にかゝる。是れを「ハゴ」と云ふ。○又、一法に、水中(すいちう)に有る鳥をとるには、「流し黐」とて、藁蘂(わらしべ)に黐を塗り、川上より、流しかけ、翅(つはさ)にまとはせて捕らふ。○又、一法に、「高縄(たかなは)」と云ふ有り。是れは池・沼・水田の鳥を捕るが爲めなり。先づ、黐を寒(かん)に凍らざるが爲め、油を加えて、是れを、一度(いちど)、煮て、苧(お)に塗り、轤(わく)に卷き取り、さて、兩岸に(りやうきし)に篠竹(しのたけ)の細きを、長さ一間斗りなるを、間(あひだ)一間半に一本宛(づゝ)立て並らべ、右の糸を纏ひ張る事、圖のごとし。一方に向ひたる一本つゝの竹は、尖(かど)の切りかけの筈(はづ)に、油を塗り、糸の端(はし)をかけ置き、鳥のかかるに付きて、筈、はづれて、纏(まと)はるゝを、捕ふ。是を「棚が落ちる」といふ。東西の風には、南北に延(ひ)き、南北の風には東西にひき、必ず、風に向ふて飛び來たるを、待つなり。又、鴨、群飛(ぐんひ)して、糸の、皆、落るを「惣(そう)まくり」と云ふ。獵師は、「水足袋(みづたび)」とて、韋(かわ)にて作りたる沓をはき、又、下に「なんば」と云ふ物を副差(そへは)きて、沼・ふけ田の泥上(でいじやう)を行くに便利とす。又、鳥の、朝、下(お)りしと、宵に下りしとは、水の濁りを以つて知り、又、足跡について、其の夜(よ)、來(く)る・來らざるを考へ、旦(あす)、來たるべき時刻など、察するに一(ひとつ)もあたらずといふこと、なし。

○雁(がん)を捕るにも此の高縄を用ゆとは云へども、雁は、鴨より、智(ち)、さとくて、元より、夜(よる)も目の見ゆるもの故に、飼の多きには、下(お)りず、土砂(どしや)乱れたる地には、下(くだ)らず。或ひは、番(つが)ひ鳥の、其の邊(へん)を廽(めぐ)り、一聲、鳴ひて、飛ぶ時は、群鳥、隨つて去る。たまたま、高縄の邊(ほとり)に下(くだ)れば、獵師、竹を以つて、急に是れを追へば、驚きて、縄にかゝること、十(ぢう)に一度(いちど)なり。○又、一法、「無双がへし」といふあり。是れ、攝刕嶌下郡(しましもこほり)鳥飼(とりかい)にて鳬(かも)を捕る法なり。昔は、「おふてん」と高縄を用ひたれども、近年、尾刕の獵師に習ひて、「かへし䋄」を用ゆ。是れ、便利の術なり。大抵、六間[やぶちゃん注:約十・九一メートル。]に幅二間[やぶちゃん注:約三・六四メートル弱。]ばかりの䋄に、二拾間[やぶちゃん注:三十六・三六メートル。]斗の綱(つな)を付けて、水の干泻、或ひは砂地に短き杭(くひ)を、二所(ふたところ)、打ち、䋄の裾の方(かた)を結び留(とゞ)め、上の端には竹を付、其の竹を、すぢかひに、両方へ開き、元(もと)、打ちたる杭に結び付け、よく、かへるように、しかけ、羅(あみ)・竹縄とも、砂の中に、よく、かくし、其の前を、すこし掘りて、窪め、穀(こめ)・稗(ひへ)などを蒔きて、鳥の群れるを待ちて、遠くひかへたる。䋄を、二人がゝりにひきかへせば、鳥のうへに覆ひて、一ツも洩らすことなく、一擧、數十羽(すじつば)を獲るなり。是れを、羽を、打ちがひに、ねぢて、堤(つゝみ)などに放(はな)つに、飛ぶこと、あたわず。是れを「羽がひじめ」といふ。雁(がん)を取るにも、是れを用ゆ。されども、砂の埋(うづみ)やう 餌のまきやう、ありて、未練の者は取り獲(え)がたし。  ○鳬(かも)は山澤(さんたく)・海邊(かいへん)・湖中(こちう)にありて、人家に畜(か)はず。中華、綠頭(りよくとう)を上品とす。日本、是れを「眞鳬(まかも)」といふ故に、「萬葉集」、靑きによせて、よめり。又。「尾尖(をさき)」は、是れに次ぎて、「小ガモ」といふ。古名「タカへ」なり。「黑鴨(くろかも)」◦「赤頭(あかかしら)」◦「ヒトリ」◦「ヨシフク」◦「島フク」◦「※𪂬(かいつぶり)」[やぶちゃん注:「※」=「群」+「鳥」。恐らく「鸊」の誤字であろう。]◦「シハヲシ」◦「秋紗(あいさ)」◦「トウ長」◦「ミコアイ」◦「ハシヒロ」◦「冠鳥(あじかも)」【「アシ」とも云なり】)◦尾長(をなが)、此の外、種類、多し。「緑頸(あをくび)」・「小鳬(こかも)」・「アヂ」は、味、よし。其の余(よ)は、よからず。

 

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Kamo3

 

[やぶちゃん注:キャプションは一枚目は「豫刕峯越鳬(よしうおこしかも)」、二枚目は「攝刕霞羅(せつしうかすみあみ)」、三枚目は「津訓國無雙返鳬羅(つのくにむさうかへしかもあみ)」。後の二者は前に語られてあるが、底本の配置に従い、その順番通りに示した。最後の挿絵には中景に肥桶を天秤棒で荷った農夫が点景されている。こういう農夫が家にやって来て屎尿を買い取った実景を記憶に持っているのは、多分、私の世代が終わりかも知れない(小学校低学年の昭和六四(一九八九)年頃の記憶)。言っておくが、私の家が水洗になったのは、私が結婚した一九九〇年のことである。]

 

  ○峯越鴨(おごしのかも)【「鴨」の字は「アヒロ」なり。故に一名「水鴨」といふ。「カモ」は「鳬」を正字とす。今、俗にしたかふ。】

是れ、豫刕の山に捕る方術(はうじゆつ)なり。八、九月の朝夕、鳬の群れて、峯(みね)を越へるに、茅草(ちくさ)も翅(つばさ)に摺り、切れ、高く生る事なきに、人、其草の陰に、周𢌞(まはり)・深さ共に三尺ばかりに穿(うが)ちたる穴に隱れ、羅(あみ)を扇(あふぎ)の形に作り、其の要(かなめ)の所に、長き竹の柄を付て、穴の上ちかく飛來たるを、ふせ捕るに、是れも、羅(あみ)の縮(ちゞま)り、鳥に纏(まと)はるゝを捕らふ。尤も、手練(てれん)の者ならでは、易(やす)くは獲がたし。【但し、峯(みね)は両方に田のある所を、よし、とす。朝夕ともに、闇(くら)き夜(よ)を専(もちば)らとす。䋄を、なつけて「坂䋄(さかあみ)」といふ。】

 

[やぶちゃん注:「鳬」「鴨(かも)」である。但し、本邦に於ける「かも・カモ」自体は鳥類の分類学上の纏まった群ではない。鳥綱カモ目カモ科 Anatidae の鳥類のうち、雁(これも通称総称で、カモ目カモ科ガン亜科 Anserinaeのマガモ属 Anas よりも大型で、カモ科 Anserinae 亜科に属するハクチョウ類よりも小さいものを指す)に比べて体が小さく、首があまり長くなく、冬羽(繁殖羽)は♂と♀で色彩が異なるものを指すが、カルガモ(マガモ属カルガモ Anas zonorhyncha )のように雌雄で殆んど差がないものもいるので決定的な弁別属性とは言えない。また、「鳬」は本書では「鴨」の意で、「鳧」とも書き、これらは「鴨」の異体字であり、総て上記の広義な「鴨・かも・カモ」を指している。しかし乍ら、何より困るのは、この字を「かも」と和訓せず、「けり」と読んだ場合は、現行の和名では、全く異なる種である、チドリ目チドリ亜目チドリ科タゲリ(田鳧・田計里)属ケリ Vanellus cinereus を指すので非常に注意が必要である。なお、本邦で古くから食用にされたものは、主に、

カモ目カモ科マガモ属マガモ Anas platyrhynchos

で、加えて野生のマガモとアヒル(マガモ品種アヒル Anas platyrhynchos var. domesticus )との交雑交配種である、

マガモ属マガモ品種アイガモAnas platyrhynchos var. domesticus

も食用とする。但し、アヒルはマガモを品種改良した家禽品種で生物学的にはマガモの一品種であり、その交配であるアイガモもまた、学名はアヒルと同じである。「マガモ」・「アヒル」・「アイガモ」という呼び変え区別は生物学的鳥類学的なものではなく、歴史的伝統による慣例や認識に過ぎないか、或いは商業的理由によるものである。無論、ここで捕っている種はマガモやアイガモ(飼育していたものが野生化している)に限らず、他の「鴨」類も混雑するし、それらも「鴨」として食していたと考えられるから、他の種も含まれると考えねばならない。しかし、カモ科Anatidaeはガンカモ科とも言い、五亜科五十八属百七十二種もおり、リュウキュウガモ亜科 Dendrocygninae(二属九種)・ゴマフガモ亜科 Stictonettinae(一属一種・ゴマフガモ Stictonetta naevosa 。本邦には棲息しない)・ツメバガン亜科 Plectropterinae 一属一種:ツメバガン Plectropterus gambensis 。本邦には棲息しない)・ガン亜科 Anserinae(十四属三十七種)・カモ亜科 Anatinae(三十八属百二十二種)もいるから、可能性のある種を総て挙げることは私には不可能である。詳しくは「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鳧(かも)〔カモ類〕」の私の注を参照されたい。

「北中島」この附近かと思われる(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。

「シキデン」不詳。網を敷き張った様子が大きな屋敷のように見えることからの「敷殿」か。死語のようで、ネット検索の網には掛かってこない。

「黐(もち)」鳥黐(とりもち)。「耳嚢 巻之七 黐を落す奇法の事」の私の注を参照されたい。

「芹(せり)」日本原産の双子葉植物綱セリ目セリ科セリ属セリ Oenanthe javanica 。私の「大和本草卷之五 草之一 蔬菜類 芹(せり) (セリ)」を参照されたい。

「ハゴ」「擌・黐擌」で「はが」「はか」とも呼ぶ。竹・木の枝・藁などに黐を塗り、田の中などに囮(おとり)の傍に於いて鳥を捕らえる罠。小学館「日本国語大辞典」を見ると、全国に「はご」の呼び名があり、特定の地方方言とは言い難い。

「流し黐」小学館「日本国語大辞典」に、冬の夜、長い縄や板に黐を塗りつけて、湖沼に流し、鴨などの水鳥を捕獲すること、とある。

「高縄(たかなは)」同前に、鳥を捕えるために縄に黐をつけて高いところに張っておくもの、とある。

「凍らざるが爲め」凍らないようにするために。

「苧(お)」「お」は歴史的仮名遣の誤り。既出既注えあるが、再掲すると、苧績紡(をうみつみ(おうみつみ))ぎの網。苧(からむし:イラクサ目イラクサ科カラムシ属ナンバンカラムシ変種カラムシ Boehmeria nivea var. nipononivea)の繊維を撚り合わせて網糸にしたもの。

「轤(わく)」車木(くるまぎ)。或いは「桛・綛」で「かせ」。本来は、紡(つむ)いだ糸を巻き取るH形またはX形の道具。「かせぎ」とも呼ぶ。二本又は四本の木を対にして、横木に打ち付け、中央部に軸を設けて回転するようにしたもの。

「篠竹(しのたけ)」根笹の仲間の総称で、細くて群がって生える竹を指すが、中でも幹が細く丸く均整のとれたものを矢柄などに用いる。

「筈(はづ)」通常は、矢の端の弓の弦につがえる切り込みのある部分である「矢筈(やはず)」を指す。ここは篠竹の端をそのような切り込みを加工した部分を指す。

「なんば」漢字不詳。小学館「日本国語大辞典」に、『深田にはいる時にもぐらないようにはく田下駄』とある。

「ふけ田」「ふけた」「ふけだ」とも読む。「深田」(ふかた・ふかだ)に同じ。泥・水の多い田としては低級な田。私は直ぐに水上勉の「飢餓海峡」の「汁田(しるた)」を想起する。東南アジアなどには多く、実際、それらは異様に深く、収穫は舟を用いるのを私は映画作品の中で見たことがある。

「雁」広義のガン(「鴈」とも書く)カモ目カモ科ガン亜科 Anserinae の水鳥の中で、カモ(カモ目カモ亜目カモ科 Anatidae の仲間、或いはマガモ属 Anas )より大きく、ハクチョウ(カモ科 Anserinae 亜科 Cygnus 属の六種及び Coscoroba 属の一種の全七種)より小さい種群を総称する。「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鴈(かり・がん)〔ガン〕」の私の注を参照されたい。狭義の一属一種であるノガン(野雁)目 Otidiformesノガン科ノガン属ノガン Otis tarda を扱った「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鴇(のがん)〔種としての「ノガン」〕」も一緒に見られたい。

「攝刕嶌下郡(しましもこほり)鳥飼(とりかい)」現在の摂津市鳥飼の各町。淀川右岸。

「無双がへし」福岡県小郡市小郡にあるかも料理・季節料理の「さとう別荘」公式サイト内の「小郡の野鴨猟」として、「無双網」の解説が図や写真附きで載り、『小郡の野鴨猟は特徴的な狩猟法を用います』。『それが「無双(むそう)網」です。この方法は「昼とり」と「夜とり」の』二『種類があり、鴨が朝夕に餌を食べる習慣を利用したものです』。『狩猟に用いる道具は幅』一メートル、『長さ』二十メートル『程の細長い網です』。『野生の鴨は非常に敏感なため』、『鴨がため池まで飛んでくる前に餌となる籾をまき』、『無双網を仕掛けておきます』。『その後、鴨からは見えない場所に用意してある見張り小屋に隠れ』、『鴨が来るのを待ち、ころあいを見はかり、無双網の仕掛け(針金)を引くと』、『文字通り一網打尽のうちに鴨が捕らえられるというわけです』とあり、非常に参考になる。なお、同ページには、かも料理に適したカモがリストされてあり、マガモ・オナガガモ・ヒドリガモ・トモエガモ・コガモの五種が挙げられてある。

「おふてん」不詳。物自体が判らない。「覆(お)ふ天」網などを考えはした。

「羽を、打ちがひに、ねぢて」両主翼を無理に捩じって背中で交差させることを言う。

『是れを「羽がひじめ」といふ』実際に鳥類をこうすることで、飛翔出来なくなり、「羽交い締め」の語源もそれである。なお、「締め」を「絞め」と表記するのは誤りである。「絞」は「喉を絞める」の意だからである。

「綠頭(りよくとう)」これは先に示したマガモの成鳥の繁殖期の♂。黄色の嘴、緑色の頭、白い首輪、灰白色と黒褐色の胴体と、♂は非常に鮮やかな体色をしている。♀は年中、嘴が橙と黒で、ほぼ全身が黒褐色の地に黄褐色の縁取りがある羽毛に覆われている。但し、非繁殖期の♂は♀とよく似た羽色になる(エクリプス:eclipse。カモ類の♂は派手な体色をするものが多いが、繁殖期を過ぎた後、一時的に♀のような地味な羽色になるものがおり、その状態を指す。この語は日食や月食などの「食」を意味し、それが鳥類学で転訛して学術用語となったものである)が、嘴の黄色が残るので判別出来る。但し、幼鳥は嘴にやや褐色を呈する(以上はウィキの「マガモ」に拠った)。

『「萬葉集」、靑きによせて、よめり』「かも」「まかも」「みかも」「あしかも」の語で出る。二十七首を数える。他に「あいさ」(後述)も一首、「をし」「をしどり」も五首ある。

「尾尖(をさき)」「小ガモ」「タカへ」カモ科カモ亜科マガモ属コガモ亜種コガモ Anas crecca crecca 。古名は「たかべ」。こちらの鳥図鑑によれば(PDF)、古名の「たか」は「高」、「べ」は「群(め)」の転じたもので、「高く群れ飛ぶ鳥」の意であるとある。「尾尖(をさき)」の異名は確認出来ない。

「黑鴨(くろかも)」カモ科クロガモ属クロガモ Melanitta nigra。マガモ属ではないので注意されたい。以下の幾つかは、「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鳧(かも)〔カモ類〕」の私の注で同定しているものもある。

「赤頭(あかかしら)」「ヒトリ」マガモ属ヒドリガモ(緋鳥鴨)Anas penelope 当該ウィキによれば、『和名は頭部の羽色を緋色にたとえたことに由来』し、『緋鳥(ひどり)と呼ばれ、その後』、『ヒドリガモとなった』。『異名として、赤頭、息長鳥、あかがし、そぞがも、みょうさく、ひとり、あかなどがある』とあった。

「ヨシフク」不詳。但し、幕末・明治頃の自筆写本の山本渓山(章夫)の鳥類図譜「禽品」の「ヨシフクカモ」とある。「西尾市岩瀬文庫/古典籍書誌データベース」のこちらの詳細書誌を参照。

「島フク」不詳。

「※𪂬(かいつぶり)」(「※」=「群」+「鳥」。恐らく「鸊」の誤字であろう)カイツブリ目カイツブリ科カイツブリ属カイツブリ亜種カイツブリ Tachybaptus ruficollis poggei 。言わずもがな、水鳥ではあるが、カモ類でさえない。「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鸊鷉(かいつぶり)」を参照されたい。

「シハヲシ」不詳。「シハ」は不明だが、「ヲシ」はカモ目カモ科オシドリ属オシドリ Aix galericulata を指している可能性が高く、同種には見紛うような近縁種はいないから、或いはオシドリの♀や♂の非繁殖期個体、或いは双方の若年個体を指しているように私は思う。「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鴛鴦(をしどり)」を参照されたい。

「秋紗(あいさ)」「秋沙」が普通。「あきさ」の音変化。カモ科カモ亜科アイサ属 Mergus の水鳥の総称。嘴は細長く、縁が鋸歯状を呈する。ほとんどの種は繁殖期以外は海辺や河川近くに住む。潜水が巧みで、魚を捕食する。本邦では冬鳥であるが、北海道で繁殖するものもある。「あいさがも」「のこぎりばがも」の異名もある。本邦には、概ね、冬の渡り鳥として、

アイサ属ミコアイサ Mergus albellus

ウミアイサ属ウミアイサ Mergus serrator

ウミアイサ属カワアイサ Mergus merganser

の三種が知られる。

「トウ長」不詳。

「ミコアイ」不詳。アイはアイガモか。白色個体っぽい名ではある。

「ハシヒロ」カモ科マガモ属ハシビロガモ Anas clypeata

「冠鳥(あじかも)」『「アシ」とも云なり』「アヂ」カモ目カモ科マガモ属トモエガモ(巴鴨) Anas Formosa当該ウィキによれば、『オスの繁殖羽は頭部に黒、緑、黄色、白の巴状の斑紋が入り』、『和名の由来になって』おり、『種小名formosa 』も『「美しい」の意』であるとあり、『食用とされることもあった。またカモ類の中では最も美味であるとされる。そのため古くはアジガモ(味鴨)や単にアジ(䳑)と呼称されることもあった』。『アジガモが転じて鴨が多く越冬する滋賀県塩津あたりのことを指す枕詞「あじかま」が出来た』とある。

「尾長(をなが)」マガモ属オナガガモ Anas acuta

「緑頸(あをくび)」既に出したマガモの♂。

「峯越鴨(おごしのかも)」「尾越の鴨」の漢字の当て字。晩秋の頃、峰を越えて、北から飛んでくる鴨を指す。

「アヒロ」既に出したマガモを家畜化した品種アヒル。

「茅草(ちくさ)も翅(つばさ)に摺り、切れ」「カヤに翼を擦(す)ってしまって、翅が傷つき」の意を出すだめに敢えて読点を打った。

「高く生る事なきに」不審。長い渡りのために、翼の損傷のみでなく、体力も衰え、「高く」上「る事」は出来なくなっており、の誤りかと思う。「長く生(いく)る」とは、あまりに可哀そうで、私は採れない。

「坂䋄(さかあみ)」最後に「加賀市観光情報センター KAGA旅・まちネット」の中の『「坂網猟」伝統が生んだ究極の天然鴨料理』という素敵なページを発見した! そこには、またしても写真と図入りで、『飛ぶ鳥を網で落とす名人技 伝統の「坂網猟(さかあみりょう)」』がある。そこには挿絵の「豫刕峯越鳬(よしうおこしかも)」に描かれた、アクロバティクな猟法が今も伝承されていることが判った。以下、その解説を引く。『坂網猟は石川県民俗文化財に指定された伝統猟法で、片野鴨池周辺の丘陵地を低く飛び越える鴨を、坂網と呼ばれるY字形の網を投げ上げて捕らえます』。『坂網猟が始まったのは今から約』三百『年前の江戸時代の元禄年間』(一六八八年~一七〇四年:本書の刊行は寛政一一(一七九九)年)『と伝えられ、大聖寺藩主が武士の心身の鍛錬として坂網猟を奨励したことから』、『多くの藩士がこれを行っていました』。『坂網は長さ』三・五メートル、『Y字形の先端の幅』一・三『メートル、重さ約』八百『グラムで、ヒノキと竹、ナイロン網などで作り、羽音を頼りに鴨をめがけて数メートル、時には』十『メートル以上の高さに投げ上げます』。『猟期中の夕暮れ時、鴨が近くの水田へ落穂などの餌を求めて鴨池を飛び立ち、周囲の丘を飛び越える僅か』十五分から二十『0分ほどの時間だけ』、『猟を行います』。『また、この地では、坂網猟で捕ったつがいの鴨を結婚式の引出物にするなど、鴨を活かした食文化と坂網猟を守ってきた歴史があります』とあった。私はこのページを見て、精神的にすっかり満腹になった。]

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