曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 駿河町越後屋替紋合印の事 文寶堂
○駿河町越後屋替紋合印の事 文 寶 亭
挑灯などに此しるしあり。これは、「江戶四里四方、丸で十分に商いをする」といふしるしなり。[やぶちゃん注:画像の右端のもの。]
芝口松坂屋も、三井の持にて同店なり。暖簾につくる松のしるし、葉形かくのごとくなるは、「三井」といふ文字なりといへり。[やぶちゃん注:画像の右端のもの。松葉の交差する左右に「井」の字が見えるが、四つある。]
此しるしは、表方立番などの者の半臀などへ付くるしるしなり。「〇〇」二つは、二わ、「○」は「まはり」、「∧」は「人」といふ字にて、「『庭まはりの人』といふ『合じるし』なり」と、三井本店につとめ居たる兵七といふものゝ話なり。されども此[やぶちゃん注:ここに一番左の紋が組み込まれてある。]印は、長崎西築町乙名荒木宗太郞といひしもの、元和八壬戌年、御朱印頂戴し、異國渡海の船を金札船と稱したるよし、その船のしるしに、此印あり。されば、三井にては、後に考へて付けたるものなるべし。
[やぶちゃん注:画像は底本のものをトリミング補正した。
「元和八壬戌年」一六二二年。]
« 芥川龍之介書簡抄119 / 大正一三(一九二四)年(二) 七通 「越し人」片山廣子との邂逅 そして 恋情の発露(イタズラ葉書は現物写真を視認してリロードした) | トップページ | 曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 銀河織女に似たる事 文寶堂 »