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2021/08/10

曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 蚘蟲圖

 

Kaityu

 

[やぶちゃん注:底本では標題他、キャプションと画像を挿入しているため、それらが標題を含め、活字化されていない。以上にそれを底本からトリミング補正と清拭を行って掲げた(この画像は以上の通り、立項標題の代わりをなしており、示さないことには、本文を再現出来ないのである)。それを視認して、以下に電子化する。なお、発表者は前に同じく好問堂山崎美成である。「蚘蟲」は江戸時代から現在までは、概ね、回虫=線形動物門双腺綱 旋尾線虫亜綱回虫(カイチュウ)目カイチュウ上科カイチュウ科カイチュウ亜科カイチュウ属 Ascaris ヒトカイチュウ Ascaris lumbricoides を代表とする、ヒトに寄生する(他の動物の寄生虫による日和見感染を含む)寄生虫類を指した(私の「和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蚘(ひとのむし)」を参照されたい)。既に平安時代に「蚘蟲」で「あくた」と読み、「人の腹の中に寄生する長い虫・腹の虫」の意があった。源順の「和妙類聚抄」の巻之三「形體部第八」の「病類第四十」に、

   *

蚘(カヒ)虫(アクタ[やぶちゃん注:二字に対して左にルビする。])【「寸白」[やぶちゃん注:「すはく」でヒト寄生虫の古い異名。]の名。】 「唐韻」に云はく、『蚘【音「回」。「蛕」「蛔」、并びに同じ。】人の腹中の長虫なり。』と。「病源論」に云はく、『蚘虫【今、案ずるに一名「寸白」。俗に云ふ「加以(かひ)」、又、云ふ、「阿久太(あくた)」。】白酒[やぶちゃん注:濁り酒。]を飲み、生栗等を食ひて、成る所なり。

   *

と、既に記されているから、平安時代に知られていた。江戸時代には想像を絶するほどに多量の寄生虫が寄生していた人が多くあり、「逆蟲(さかむし)」と言って、胃の中に多数のそれが寄生した結果、虫体を口から吐き出す人もいたほどであった。]

 

 蚘蟲圖 奥州南部領

       蒲野沢村

           兵八

          申三十九歲

此頸の長五寸位。

八寸位。

是より、一尺

五、六寸有之。

末程、細ク、蛇

の如し。

色、黒く、腹、うす

色。牛の膽を用

ひ候処、右之通

可有之哉

 

[やぶちゃん注:キャプション。右から左へ。]

此所、口ニ

   有之哉。

 

足ノ廽り大指位

長サ三寸程

 

皮厚キこと、鮏の塩引の

皮よりあつく、とゞめ、

やうやく、さす。

 

[やぶちゃん注:以下、本文。]

右兵八、文政六未年二月比より相煩、同七申年五月十七日、晚より、悉痛甚敷、六月二十日朝、右之通之異物、相出候。尤五月六日、狂氣のごとく相成候。後、水、七、八升吞候由。[やぶちゃん注:「悉痛甚敷」は「悉(ふつく)に痛み甚敷(はなはだしく)」と読んでおく。「悉に」は「すっかり・すべて・ことごとく」の古語。]

別 紙

一 當夏、蒲野澤村書面之者、長々相煩居候而[やぶちゃん注:「にて」。]、別紙の通り、之者、相出に、今、聢と[やぶちゃん注:「しかと」。]不宜。此比[やぶちゃん注:「このごろ」。]、脇野澤元良[やぶちゃん注:医師の名。]抔、之療治を請申度[やぶちゃん注:「たき」。]由に而、此元へ罷出候に付承り候處、右樣之物、いまだ、左之臍より下に有之由。元は左右に在し處、右は下り候趣。其病へ、鍼を、四、五本、相立候へば、病人、くるしみ、鍼拔候得者[やぶちゃん注:「鍼(はり)、拔きさうらえば」。]、病ひ、脊中之方へ隱れ候由に御座候。先生方へ爲相見[やぶちゃん注:「さうけんのため」。]御承り可披成候。又、一つ、珍敷事は、三上左五兵衞殿、覺居候。「てうまん病」に御座候。當三月朔日より、初は風邪に而引籠、夫より次第に、腹、大きく相成込り居候處、當八月十一日比より、臍、出、へその樣にはり出居、同月二十日七時、ほそ[やぶちゃん注:「臍」。]、相破れ、濁酒色の水へ、くらげやうのもの加り、あるひは玉子の「ふはふは」の樣のものも加り、其日、一升ほど、翌日、三、四升、翌、日二升ほど、追々、出候處、既に八升餘、九升ばかり相出、右ほその破れ候處、聢と直り不申居候。是又、爲御知[やぶちゃん注:「おしらせなし」。]申候得は、先生方へ被相咄[やぶちゃん注:「あひはなされ」]、御承り可然候。

  右奇病二條、乙酉正月二十八目友人堀尙平に得たり。 美 成 識

 

[やぶちゃん注:前の奇体な外部寄生虫はさっぱり分からない。寄生バエの日和見感染にしては、虫体が大き過ぎる。当初は、臍の下方の左右にあったが、右は落ちたという。何らかの皮膚疾患や悪性新生物(癌)にしては、病態推移がそれらしくなく、形状が明らかに動物的であり、出現部位から見ても、ヒトの消化管内から出現した寄生虫ではない(臍が近いのは気になる。何らかの生物が日和見感染で臍から侵入することはないとはいえない)。虫体の下方に下がっている脚状のものが最も奇体で、これがなければ、全体は、環形動物門ヒル綱顎ヒル目ヒルド科 Hirudidae Haemadipsa 属ヤマビル亜種ヤマビル Haemadipsa zeylanica japonica が私には直ちに想起された。私は山岳部の顧問をしていたが、山中で驚くべき長大なヤマビルを何度も目撃した。私は幸いにして襲われたことはないが、生徒の中には知らないうちに吸着・吸血された者もいた(登山靴の靴下の中で。以下の引用を参照)。当該ウィキによれば、『体長は二・五~三・五センチメートルで、伸び縮みが激しく、倍くらいまで伸びる』とあるが、私は十センチメートル以上に延伸した個体を見た。『神奈川県の報告書によると、弾力に富み、且つ丈夫で、引っ張ってもちぎれず、踏んでもつぶれないと表現されるほどである』。『体は中央後方で幅広く、前後に細まるが、おおよそ円柱形で多少とも腹背に扁平。おおよそ茶褐色で栗色の縦線模様がある。背面の表面には小さなこぶ状の突起が多い。体は細かい体環に分かれているが、実際の体節はその数個分である。第二節から五節までと八節目の背面に丸く突き出た眼が一対ずつある。後方側面に耳状の突起がある。吸盤は前端と後端にあり、後端のそれがずっと大きい。口の中の顎には細かな歯がある。肛門は後方の吸盤の背面にある』。『人間であれば、その衣服の中に入り込んで吸血することもある。靴下など、目が粗ければ』、『頭をその隙間から突っ込んで吸血する例もある。キャラバンシューズにとりついたものが靴下に潜り込むまで』三十『秒という測定もある』。『雨の時には活動はさらに活発になり、樹上に登って枝葉の先からぶら下がり、動物のより高いところにもくっついてくる。ビニールのカッパは張り付きやすいため、足下から首まではい上がるのに』一『分程度と』言うとある。しかし乍ら、「一尺五、六寸」(四十八センチメートル半)というのは、あまりにも長過ぎ、本種ではない。恐るべき長大さ(通常で一メートル、延伸して数メートルになる種もいる)では、扁形動物門有棒状体綱三岐腸目結合三岐腸亜目チジョウセイウズムシ上科リクウズムシ科コウガイビル亜科 Bipaliinae のコウガイビル(真正のヒル類ではない)がいるが、彼らがこうして人体に食いつくことはない(誤飲などで、一定期間、人体内で生存して偽寄生虫として振る舞うケースは稀であるが、ある。当該ウィキを見られたいが、しかし、それはこのような箇所にこのように出現することは絶対にあり得ないと私は保証出来る)。とすると、他に何が考えられるか? 長さを問題にしなければ、発生部位・複数いたことから、現実的には、時に激しい痛みを伴う、おぞましい皮膚跛行症(皮下を虫体がうねうねと這うのが見えるのである)で知られる線形動物門双腺綱旋尾線虫目ガッコウチュウ(顎口虫)科ガッコウチュウ(顎口虫)属ニホンガッコウチュウ(日本顎口虫)Gnathostoma nipponicum の感染が疑われる。ただ、同種がヒトに感染して、自身が臍の下部から二匹も頭を出すというのは、どうなんだろう? 私はやはりちょっと考え難いことではないかと思うのである。他に同定候補があるとなれば、是非、御教授あられたい。

 次に、文書の後半に出る「てうまん病」は「脹満病」で、重症の腹水症状である。MSDマニュアル家庭版」の「腹水」を参照されたい。さて、この異常な腹水は前の奇体な虫よりは、遙かに容易に腹水の犯人候補を挙げることが出来る。肝硬変を引き起こし、身動きができないほどの腹水がたまる症状が出て、死に至るケースがあった本邦の風土病であった「片山病」である。扁形動物門吸虫綱二生吸虫亜綱有壁吸虫目住血吸虫科住血吸虫属ニホンジュウケツキュウチュウ Schistosoma japonicum がヒトに寄生(通常は経皮感染による)することによって発症する寄生虫病(人獣共通感染症)である日本住血吸虫症(かつての他の流行地であった山梨県甲府盆地に於いては固有病名として「地方病」、佐賀県筑後川流域では「佐賀流行病」などと呼称され、さらに古く江戸以前には「水腫脹満(すいしゅちょうまん)」「腹張(はらっぱ)り」「積聚(しゃくじゅ)の脹満(ちょうまん)」などと記されてある。但し、最初に述べておくが、本感染症は日本国内では一九七六年以来、新感染者はおらず、二〇〇〇年までに撲滅されている)。「生物學講話 丘淺次郎 第十二章 戀愛(13) 五 縁組(Ⅰ) 日本住血吸虫」の私の注を参照されたい。但し、この報告地が当たらない。本邦の日本住血吸虫症の流行地は関東以南だからである。当該ウィキを参照されたい。但し、同感染症ではなく、肝硬変や肝癌の末期には腹水が貯留するから、そちらととって問題はないし、そもそもが、『濁酒色の水へ、くらげやうのもの加り、あるひは玉子の「ふはふは」の樣のものも加り』と書いて、前の奇体な「蚘蟲」に引かれて、腹水病変組織の乖離した繊維や腐敗した組織断片が、そののように(虫のように)見えたと言いたいような(実際にはそう明確に言ってはいない)誤認しやすい表現である。例えば、実際に腹水中にニホンジュウケツキュウチュウの虫体がいて視認出来るとは私には思われない。

「奥州南部領蒲野沢村」現在の青森県下北郡東通村蒲野沢(グーグル・マップ・データ)。]

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