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2021/08/26

曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 夢の朝顏

 

○湯島手代町[やぶちゃん注:「てだいまち」或いは「てだいちやう」。現在の文京区湯島三丁目(グーグル・マップ・データ)。]に岡田彌八郞といひて、御普請方の出方をつとむる人あり。此人のひとり娘、名を「せい」とよびて、容儀もよく、殊に發明なれば、兩親のいつくしみふかく、しかも和歌に心をよせ、下谷邊に白蓉齋[やぶちゃん注:西島姓。]といふ歌よみの弟子となりて、去年十四歲にて朝がほのうたをよみしが、よくとゝのひたりと師もよろこびける。その歌、

    いかならん色にさくかとあくる夜をまつのとぼその朝顏の花

其冬、此むすめ、風のこゝちにわづらひしが、つひに、はかなく成りにけり。兩親のなげきいふべくもあらず。朝夕たゞ此娘の事のみいひくらしゝが、月日、はかなくたちて、ことし亥の秋、かの娘の、日頃、よなれし[やぶちゃん注:「世馴れし」。ここは普段から愛用していた、の意。]文庫の中より、朝顏の種、出でたり。一色づゝに、「これは『しぼり』」、あるは「るり」など、娘の手して、書き付け置きたるつゝみをみて、母親、猶更、思ひ出ゝ、「かく迄しるし置きたる事なれば、庭にまきて娘のこゝろざしをもはらさん。」とて、ちいさなる鉢に種を蒔きて、朝夕、水そゝぎざなど、したるほどに、いつしか、葉も出で、蔓も出でたれど、花は、一りんもさかざりければ、「すこし、時刻[やぶちゃん注:「じき」と当て訓しておく。]おくれにまきたるゆゑ、花のさかぬ成るべし。されども、秋に、秋草の花さかぬ事やは。」とて、さまざまにやしなひしが、さらに花の莟だに、なし。ある日、父彌八郞は、東えい山の御普請場へ出でたるあと、母は娘が事のみ、わすれかね、朝顏を思ひながら、うつらうつらと、ねむりたるが、娘の聲にて、「おかゝさま、花がさきました。」といふに、驚き、さめぬ。あまりいぶかしく思ひければ、朝顏のそばへゆきみれば、一りん、さき出でたり。いよいよ、『あやし。』と思ひて、夫彌八郞が歸るを待ちかねて、此よしをもかたり、花をも見せしよし、此はな、晝夜にさきて、翌朝までしぼまずしてあり、となん。

 右は文化十二乙亥年[やぶちゃん注:一八一五年。]の事なり。花のさきしは翌子年なり。

  文政乙酉孟夏朔    文寶堂 しるす

[やぶちゃん注:とてもしみじみとしたいい話である。なお、本話は町人で粉屋を生業とした考証家石塚豊芥子(いしづかほうかいし 寛政一一(一七九九)年~文久元(一八六一)年)が文化文政期の二十六年間の出来事・巷談を集めて綴った随筆「街談文々集要」の巻十五の「朝顏之奇怪」にも載るが、座敷浪人氏のサイト「座敷浪人の壺蔵」の「あやしい古典文学の壺」のこちらに現代語訳が載るものの、それは本文と原文が殆んど同一と読め、この「兎園小説」の本篇を転写したものに過ぎないと思われる。

「文政乙酉」文政八(一八二五)年。]

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