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2021/09/27

畔田翠山「水族志」 タバミ (フエフキダイ)

 

(一七)

タバミ【紀州日高郡由良足代浦】一名タモリ【紀州海士郡雜賀崎浦】白頰

大者尺餘形狀黃翅ニ似テ觜細ク眼大也背淡靑色帶ㇾ黃腹白色頰白色

細鱗「ハカタヂヌ」ノ如シ脇翅淡黃色腹下淡黃色ニ乄黑條アリ本ノ刺

太ク二寸許白色帶淡紅縱ニ條アリ腰下鬣淡黃色本淡黑色其本ニ太

キ刺三アリ中ノ刺長ク乄二寸餘白色帶淡紅縱ニ條アリ背ノ上鬣刺

長三寸許陰陽刺アリ淡紅色ニ乄淡黑斑アリ下ナルハ本黑色ニ乄其

下淡黄色尾淡黃色ニ乄淡黑斑アリ端淡黑色漳州府志ニ烏頰全棘鬣

但其頰烏又有白頰ト云ヘハ白頰ハ棘鬣類ノ白頰也閩中海錯疏及閩

書ニ白頰魚ヲ載曰似跳魚而頰白跳魚ハ弾塗ニ乄「トビハゼ」也棘鬣類

ノ白頰ト同名異物也

○やぶちゃんの書き下し文

たばみ【紀州日高郡由良足代浦。】一名「たもり」【紀州海士郡雜賀崎浦。】・白頰

大なる者、尺餘。形狀、黃翅〔はかたぢぬ〕に似て、觜〔はし〕、細く、眼、大なり。背、淡靑色に黃を帶び、腹、白色。頰、白色。細鱗。「はかたぢぬ」のごとし。脇の翅〔ひれ〕、淡黃色。腹の下、淡黃色にして黑條あり。本〔もと〕の刺〔とげ〕、太く、二寸許り。白色に淡紅を帶ぶ。縱に條あり。腰の下の鬣〔ひれ〕、淡黃色、本は淡黑色。其の本に太き刺、三つあり。中の刺、長くして、二寸餘、白色に淡紅を帶ぶ。縱に條あり。背の上の鬣の刺、長さ三寸許り。陰陽の刺あり。淡紅色にして、淡黑の斑あり。下なるは、本、黑色にして、其の下、淡黄色。尾、淡黃色にして、淡黑の斑あり、端〔はし〕、淡黑色。「漳州府志」に、『烏頰〔すみやき〕、棘鬣、全きたり。但し、其の頰、烏〔くろ〕、又、白頰〔はくきやう〕も有り。』と云へば、「白頰」は棘鬣類〔きよくりやうるゐ〕の白き頰のものなり。「閩中海錯疏」及び「閩書」に、「白頰魚」を載せて曰はく、『跳魚に似て、頰、白し。』と。跳魚は「彈塗〔だんと〕」にして「とびはぜ」なり。棘鬣類の「白頰」と同名異物なり。

[やぶちゃん注:宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)ではここで、

スズキ亜目フエフキダイ科フエフキダイ亜科フエフキダイ属フエフキダイ Lethrinus haematopterus

の方言の一つとして挙げる。他に「クチビ」「クチビダイ」『(紀州各地)』とし、その名は『口中赤色であるため』とし、「タバミ」は『(田邊・切目・鹽屋)』とし、「タバメ」は『(周參見』(すさみ:現在の和歌山県西牟婁郡すさみ町周参見。]『・串本』とし、「タマメ」は『串本・三輪崎』』とした後、本「水族志」では「タモリ」『(雜賀崎)』と挙げ、また、別に田辺では「タバミババク」と本書にあるとするが、少なくとも、ここではない。「WEB魚類図鑑」の同種のページによれば、『他の日本産フエフキダイ属魚類とくらべ、体高が著しく高い。胸鰭基部の内側には鱗がないか』、『あっても少ない。背鰭棘中央部下の側線上方横列鱗数(Trac)は』通常は五列。『鰓蓋後端が赤いものと』、『そうでないものがいるが、これについては現在』、『研究がすすめられている。体長』は四十センチメートル程度で、分布は、新潟県)以南、『神奈川県』から『鹿児島県、瀬戸内海、沖縄、小笠原諸島』の他、『済州島、台湾』東『シナ海』で『岩礁域』の『砂泥底にすむ。沿岸からやや沖合に見られ、水深』百メートル『前後まで見られるよう』であるが、『小型個体は浅海に多い』。「食性」は『肉食性』で『甲殻類や小魚などを捕食する』とある。『釣りや沖合底曳網で漁獲され、食用になる。標準和名フエフキダイであるが、日本の太平洋沿岸には』、『あまり多くなく、東シナ海や日本海西部などに比較的多い』とある。

「紀州日高郡由良足代浦」現在の和歌山県日高郡由良町のこの湾(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。由良町網代がある。

「紀州海士郡雜賀崎浦」和歌山県和歌山市雑賀崎のこの附近

「白頰」「しろほ」或いは「しらほ」か。「ほお」は漁師は縮約するだろうと踏んだ。

「黃翅〔はかたぢぬ〕」前回の『畔田翠山「水族志」 ハカタヂヌ (キチヌ)』に異名として出る。

「背の上の鬣の刺、長さ三寸許り。陰陽の刺あり」宇井氏の記載によれば、『背鰭は十棘九軟條』とあるので、この「陰陽」とは軟条と硬い棘条を指すものと思われる。

「漳州府志」(しょうしゅうふし)は、何度も出ているが、ここのところ、サボっているので再掲する(以下の二書も同じ)。原型は明代の文人で福建省漳州府龍渓県(現在の福建省竜海市)出身の張燮(ちょうしょう 一五七四年~一六四〇年)が著したものであるが、その後、各時代に改稿され、ここのそれは清乾隆帝の代に成立した現在の福建省南東部に位置する漳州市一帯の地誌を指すものと思われる。

「烏頰〔すみやき〕」前回も注したが、「烏頰魚(すみやき/くろだひ)」というのは、前項にも注で出した、スズキ目スズキ亜目イシナギ科イシナギ属オオクチイシナギ Stereolepis doederleini を指すとしか思えないのである。畔田は真正の現在のクロダイを想起して書いているとしても、そうした部分をバイアスとしてかけて読む必要がある。

「棘鬣類〔きよくりやうるゐ〕」広義のタイ類。

「閩中海錯疏」明の屠本畯(とほんしゅん 一五四二年~一六二二年)が撰した福建省(「閩」(びん)は同省の略称)周辺の水産動物を記した博物書。一五九六年成立。中国の「維基文庫」のこちらで全文が正字で電子化されている。また、本邦の「漢籍リポジトリ」でも分割で全文が電子化されており、当該の「中卷」はこちらである。但し、三種を並べて述べているので、以下に引く(後者の画像が不具合で見れないので、恣意的に一部の漢字を正字化した。太字は私が施した)。

   *

 彈塗  白頰  塗蝨

「彈塗」、大如拇指。鬚鬛靑斑色。生泥穴中。夜、則、駢首、朝、北。一名「跳魚」。「海物異名記」云、『登物捷、若猴。然故名「泥猴」。』。「白頰」、似跳魚而頰白。「塗蝨」、生於泥中、如蝨。故名一呼「塗蝨」。有刺彈人。一名「彈瑟」。田塍潭底、往往有之、一名「田瑟」。

   *

これは面白い記述だ。「塗蝨」は特に惹かれる。これは直感だが、跳ねて、人が刺されるとなると(生息域は泥中ではなく、ごく浅い岩場だが)、スズキ目ゲンゲ亜目ニシキギンポ科ニシキギンポ属ギンポ Pholis nebulosa の仲間ではないかと考えた。鰭が結構、硬く、尖っており、中・大型個体(最大三十センチメートル)に不用意に触ると、かなり痛む。但し、現代中国語では「塗蝨」(音「トヒツ」)は調べてみるに、条鰭綱ナマズ目ギギ科ギバチ属ギギ Pelteobagrus nudiceps を指しているようである。それも確かに指すし、泥田(「田塍」の「塍」(音「ショウ・ジョウ」:現代仮名遣)は「田の畔」の意)の中にいて、刺されると、激しく痛むという点、ナマズの仲間であるが、前の二種のハゼ同様、細長いから、納得出来、違和感はない。因みにこの場合の「塗」は「(泥に)塗(まみ)れる」性質による呼称と読める。

「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。

「跳魚」「弾塗〔だんと〕」孰れも広義のハゼ類(条鰭綱スズキ目ハゼ亜目 Gobioidei)を指す。

「とびはぜ」現行ではハゼ亜目ハゼ科オキスデルシス亜科 Oxudercinae トビハゼ属 Periophthalmus のことを広義には指すものの、特にその中でも、和名としてはトビハゼ Periophthalmus modestus に限定される。]

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