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2021/10/24

「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第三(『月に吠える』時代)」 厩

 

  

 

高原の空に風光り

秋はやふかみて

鑛脈のしづくのごとく

ひねもす銀針(ぎんばり)の落つるをおぼえ

ゆびにとげいたみ

せちにひそかに

いまわれの瞳の閉づるを欲す。

 

ここは利根川、

その氾濫(はんらん)のながめいちじるく

靑空に桑の葉光り

さんらんとして遠き山里に愁をひたす

あはれ、あはれ、われの故鄕(ふるさと)にあるなれば

この眺望のいたましさ。

眼もはるに見ゆ。

村落の光る厩(うまや)のうへに

かがやく愛の手は伸びゆきて

われの身は銀の一脈

ひそかに息(いき)づき生命(いのち)はや絕えなんとする。

 

[やぶちゃん注:底本では、大正三(一九一四)年九月七日の制作とし、同年翌十月発行の『地上巡禮』(第一巻第二号)初出とするが、筑摩版全集でも初出は同じ。初出形を示す。

 

  厩

 

高原の空に風光り、

秋はやふかみて、

鑛脈のしづくのごとく、

ひねもす銀針(ぎんばり)の落つるをおぼえ、

ゆびにとげいたみ、

せちにひそかに、

いまわれの瞳の閉づるを欲す。

 

ここは利根川、

その氾濫(はんらん)のながめいちじるく、

靑空に桑の葉光り、

さんらんとして遠き山里に愁をひたす、

あはれ、あはれ、われの故鄕(ふるさと)にあなれば、

この眺望のいたましさ。

眼もはるに見ゆ。

村落の光る厩(うまや)のうへに、

かゞやく愛の手は伸びゆきて、

われの身は銀の一脈、

ひそかに息づき生命(いのち)はや絕えなんとする。

             ―九月七日―

 

同一稿と推定する。大きな違いは「あんなれば」と「あなれば」であるが、これは、同一の連語で、動詞「あり」(在・有)の連体形に伝聞推定の助動詞「なり」の付いた「ありなり」の音便形「あんなり」の「ん」の無表記である。但し、中古より、この「なり」は断定の意でも使用例が普通にあり、ここもそれである。小学館の編者によるお節介な消毒であろう。なお、掲載誌『地上巡禮』は北原白秋によって、まさにこの前月に創刊されたものであった。筑摩版年譜によれば、この『『地上巡禮』をはじめ、當時の雜誌に室生犀星、大手拓次、朔太郞が肩を竝べて作品を發表したことから、「白秋麾下の三羽鴉」と呼ばれたという』とある。]

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