「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 遠望
遠 望
さばかり悲しみたまふとや
わが長く叫べること
煉瓦の門に入りしこと
路上に草をかみしこと
なべてその日を忘れえず
いはむや君が來し方を指さし
かの遠望をしたたむる
あはれ あはれ
わが古き街の午後の風見よ。
――廐橋暮日篇より――
[やぶちゃん注:初出は大正三(一九一四)年五月号『創作』。以下に示す。「廓橋」はママ。
遠望
さばかり悲しみたまふとや、
わが長く叫べること、
煉瓦の門に入りしこと、
路上に草をかみしこと、
なべてその日を忘れえず、
いはむや君が來し方を指さし、
かの遠望をしたたむる、
あはれ、あはれ、
わが古き街の午後の風見よ。
(廓橋暮日篇より)
「習作集第九巻」の初期形を示す。
遠望
さばかり悲しみ給ふとや
わが長く叫べること
煉瓦の門に入りしこと
路傍に草をうえしこと
なべてその日を忘れえず
いはむや君が來し方を指さし
かの遠望をしたゝむる
あはれ あはれ
わが古き町の午後の風見よ。
(厩橋暮日扁より)
「廐橋」現行は「厩橋」で「まやばし」と読む。旧上野国中央の利根川左岸の群馬郡の旧地名。もと「うまやばし」だったものが、「う」が脱落して「まやばし」となり、さらにこれが江戸初期に「まへばし」から「前橋」と記されるようになって定着、現在の群馬県前橋市の名に引き継がれてある。東山(とうさん)道の「群馬駅」(くるまのえき)近くの川(利根川の前身)に架けられた橋の名から起こったともされる。]
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