「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 (無題)(われの故鄕にあるときは)
○
われの故鄕(ふるさと)にあるときは
市(いち)びとのうしろゆびさし
ちちははの哀しみしげく
あはれまた家を出でんと
利根川の岸邊に立てば
はつ霜の磧のなかに
いろ赤き草の實光る。
[やぶちゃん注:底本の「詩作品年譜」では、『遺稿』とし、制作年を推定で大正三(一九一四)年とする。これは筑摩版全集では、第三巻の「未發表詩篇」に掲載されてある。同内容だが、読点が打たれてあるので、以下に示す。
○
われの故鄕(ふるさと)にあるときは、
市(いち)びとのうしろゆびさし、
ちちははの哀しみしげく、
あはれまた家を出でんと、
利根川の岸邊に立てば、
はつ霜の磧のなかに、
いろ赤き草の實光る。
なお、さらに調べると、筑摩版全集の『草稿詩篇「未發表詩篇」』に『○われの故鄕にあるときは(本篇原稿二種三枚)』としつつ、以下を掲げる(ここで言っておくと、同全集のこの場合の「二種」というのは、採用する価値がないものを含めての謂いである)。
*
○
われのふるさとにあるときは
市びとのあざけるときうしろ指さし
ちちはゝの哀むときにみしげく
われ一人
あはれまた手家をいづればでんと
利根川の岸邊にきたりに立てば
はつ霜の磧のなかに、
利根川も白くこほりて
霜枯れし畑のうへに雀
うすゆき の 磧の中に
いろ赤き草の實をつむ光る、
*
「磧」は「かはら」で河原に同じ。]
« 「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 もみぢ | トップページ | 「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 (無題)(こほれる利根のみなかみに) 「冬を待つひと」の草稿の一つ »