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2021/10/10

「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 黎明と樹木

 

  黎明と樹木

 

この靑くしなへる指をくみ合せ

夜あけぬ前に祈るなる

いのちの寂しさきはまりなく

あたりにむらがる友を求む。

そこにふるへ

かくれつつうかがひのぞく榎あり

いのりつつ 一心に幹をけづりしに

樹々(きぎ)はつめたく去り行けり。

みなつらなめて逃れゆく

黎明の林を出づる旅人ら

その足並に音はなけれど

水ながれいでて靴のかかとをうるほせり。

かくばかり我に信なきともがらに

なにのかかはりあるべしやは

空しく坐して祈り

遠き遍路に消え殘る雪を光らしむ

いのちはひとりのもの

ただ我が信願をかくるにより

木ぬれにかかり

有明の月もしらみてふるへ悲しめり。

 

[やぶちゃん注:初出は大正三(一九一四)年五月号『創作』。以下に示す。表記は総てママである。

 

  黎明と樹木

 

この靑くしなへる指をくみ合せ、

夜あけぬ前に祀るなる、

いのちの寂しさきはまりなく、

あたりにむらがる友を求む。

そこにふるへ、

かくれつゝうかがひのぞく榎あり、

いのりつゝ、一心に幹をけづりしに、

樹々(きぎ)はつめたく去り行けり。

みなつらなめて逃れゆく、

黎明の林を出づる旅びとら、

その足並(あしなみ)に音はなけれど、

水ながれいでゝ靴のかかとをうるほせり。

かくばかり我に信なきともがらに、

なにのかゝはりあるべしやは、

空しく座して祀り、

遠き偏路に消え殘る雪を光らしむ、

いのちはひとりのもの、

ただ我が信願をかくるにより、

木ぬれにかかり、

有明の月もしらみてふるへ悲しめり。

 

初期形は現存しない。]

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