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2021/10/06

伽婢子卷之十 鎌鼬 付 提馬風

 

   ○鎌鼬(かまいたち)提馬風(だいばかぜ)

 關八州の間に、「鎌(かま)いたち」とて、怪しき事、侍り。

 旋風(つじかぜ)、吹きおこりて、道行人《みちゆくひと》の身に、ものあらく、あたれば、股(もゝ)のあたり、竪(たて)さまに、さけて、剃刀(かみそり)にて切《きり》たる如く、口、ひらけ、しかも、痛み、甚だしくも、なし。又、血は、少しも、出ず。

「女蕤草(ぢよすゐさう)を揉みて、つけぬれば、一夜のうちに、いゆ。」

といふ。

 何者の所爲(わざ)とも、知り難し。

 たゞ、旋風(つじかぜ)の。あらく吹《ふき》て、『あたる』と、おぼえて、此《この》うれへ、あり。

 それも、名字(めうじ)正しき侍《さふらひ》には、あたらず。

 たゞ、

「俗姓(ぞくしやう)卑(いや)しき者は、たとひ、富貴(ふうき)なるも、是れに、あてらる。」

と、いへり。

 尾・濃・駿・遠(び・ぢよう・すん・ゑん)三州の間(あひだ)に、「提馬風(だいばふう)」とて、これ、あり。

 里人、あるひは、馬に乘り、あるひは、馬を引《ひき》てゆくに、旋風、起りて、砂を、まきこめ、まろくなりて、馬の前に立ちめぐり、車の輪の轉ずるがごとし。

 漸々(ぜんぜん)に、その旋風(つじかぜ)、おほきになり、馬の上にめぐれば、馬の鬣(たてがみ)、

「すくすく」

と、たつて、そのたてがみの中に、細き絲の如く、色赤き光、さし込み、馬、しきりに、さほだち、いばひ、嘶(いなゝき)て、うち倒れ、死す。

 風、その時、ちりうせて、あと、なし。

 いかなる者の業(わざ)とも、知《しる》人、なし。

 もし、つぢ風、馬の上におほふ時に、刀をぬきて、馬の上を拂ひ、「光明眞言」を誦(じゆ)すれば、其風、ちりうせて、馬も恙なし。

 「『提馬(だいば)風」と號す。』

と、いへり。

[やぶちゃん注:本話は本書の特異点で、怪奇談随筆で、物語となっていないし、挿絵もない。一応、「提馬風」については、種本の一つである「五朝小説」の「工部員外張周封言今年云々」とするが、本朝の民間伝承としての「提馬風」が、総て、漢籍のそれを濫觴とするとは私には実は思えない。私の電子化注記事では、「鎌鼬」と「提馬風」が概ねともに言及されてあるものが、全部で五つある。古い順に示すと、

「柴田宵曲 妖異博物館 提馬風」(最初に真剣に私が注で、この現象の真相を突き止めようとしたもの。実は注で本篇も電子化してある)

「想山著聞奇集 卷の壹 頽馬の事」(挿絵もあり、これが総合的には超お勧め!)

「柴田宵曲 續妖異博物館 鎌鼬」

「想山著聞奇集 卷の貮 鎌鼬の事」

「堀内元鎧 信濃奇談 卷の上 鎌鼬」

「鎌鼬」の方は総記事数は十を下らないが、そうさ、お勧めは、私が生涯でたった一度だけ、目の前で見た「鎌鼬」事件を記した、

「耳嚢 巻之七 旋風怪の事」

であろう。私は擬似科学的な真空云々の「鎌鼬」現象の解説を全く信じていない。それは、実際のその体験に於いて頗る怪しい点が多かったからである。ウィキの「提馬風」は私の以上の注の解説と考証の方が遙かに科学的であり、遙かに細かいと自負する。ウィキの「鎌鼬」は真相の科学的諸説の検証が詳しいので、こちらは一読の価値がある。孰れにせよ、本篇は浅井了意の息抜きだったものか。まあ、「伽婢子」になくてよかった特異点の一篇と私は思っている。

「關八州」は相模 ・武蔵・安房 (あわ) ・上総 (かずさ) ・下総 (しもうさ) ・常陸 (ひたち) ・上野 (こうずけ) ・下野 (しもつけ) の関東八ヶ国の総称。

「女蕤草(ぢよすゐさう)」「新日本古典文学大系」版脚注はただ『未詳』とするが、私は、いつも植物同定でお世話になるサイト「跡見群芳譜」のこちらの記載を見ていると、この単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科アマドコロ連アマドコロ属アマドコロ Polygonatum odoratum  が確かな候補になりそうに思えてくる。本種の漢語別名は「萎蕤」「葳蕤」(イズイ)・「女萎」(ジョイ)である。ウィキの「アマドコロ」によれば、『薬用部位となる根茎には配糖体のコンバラリン、粘液質のマンノースなどを含んでいる』。『マンノースには、胃や腸の粘膜を保護する作用や消炎作用があるほか、分解して体に吸収されると』、『滋養になるといわれ』、明の李時珍の「本草綱目」(一五七八年)でも『滋養強壮、消炎薬として紹介されている』とあり、『伝統的な漢方方剤ではあまり使われず、日本薬局方にも収録されていないが、かつては民間薬として利用された。地上部の茎葉が黄変して枯れはじめる』十~十一月頃に『掘り、ヒゲ根や茎を取り除いて水洗いし、きざんで』、『天日乾燥させたものを』「萎蕤(いずい)」、漢方では「玉竹(ぎょくちく)」とも呼ぶ『生薬』とし、『かつて滋養強壮に用いられていたが、現在ではあまり使われていない』。『咳や疲労倦怠にも効果があるとされ』『服用される』。『打ち身、捻挫の薬として用いられることもあり、生の根茎をすり下ろしたものや、粉末または絞り汁は』、『食酢と小麦粉を加えて練り合わせてペースト状にしたものを』、『ガーゼや布に伸ばして、湿布として利用した』とある。

「尾・濃・駿・遠・三州」尾張・美濃・駿河・遠江・三河国。]

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