「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 春日
春 日
戀魚の身こそ哀しけれ
いちにちいすにもたれつつ
ひくくかなづるまんどりん
夕ぐれどきにかみいづる
柴草の根はうす甘く
せんなや出窓の菫さへ
光り光りてたへがたし。
[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」(以下同じ)。初出は大正三(一九一四)年五月号『詩歌』。以下に示す。
春日
戀魚の身こそ哀しけれ、
いちにちいすにもたれつつ、
ひくゝかなづるまんどりん、
夕ぐれどきにかみいづる、
柴草の根はうす甘く、
せんなや出窓の菫さへ、
光り光りてたえがたし。
「習作集第九巻」の初期形は「春愁」の題名で、
春愁
戀魚の身こそ哀しけれ
いちにちいよすにもたれつゝ
ひとりくくかなづるまんどりん
夕ぐれときにかみいづる
柴草の根はうす甘く
せんなや出窓の菫さへ
光り光りてたえがたし。
(一九一四、四、一〇)
とあり、創作年月日が判明する。底本の「詩作品年譜」には制作年月日の記載がないので、底本は『詩歌』からの採録と推定されるものの、読点の有無と踊り字が全体に異なっているのは不審である。
「柴草」三重県四日市市羽津(グーグル・マップ・データ)地区の「羽津地区公式WEBページ」の『羽津の昔「子どもの遊び」』にある「シバの根」の項に、『「つばな」の出る茅』(ちがや:単子葉植物綱イネ目イネ科チガヤ属チガヤ Imperata cylindrica )『のことを「チワラ」といい、これの根を「シバの根」とか「甘根」とか称して、噛むと甘い味がした。土の中から、白く細い根を掘りだすと、洗いもせず』、『手で土をしごき落としたままで、口に入れて噛み』、『残りの繊維は吐き出した』とあり、ウィキの「チガヤ」にも、『この植物は分類学的にサトウキビとも近縁で、根茎や茎などの植物体に糖分を蓄える性質がある』。『外に顔を出す前の若い穂はツバナといって』、『噛むとかすかな甘みがあって、昔は野で遊ぶ子供たちがおやつ代わりに噛んでいた』。『地下茎の新芽も食用となったことがある。万葉集にも穂を噛む記述がある』。『晩秋』の十一月から十二月頃に『地上部が枯れてから、細根と節についていた鱗片葉を除いた根茎を掘り起こして、日干しまたは陰干したものは』「茅根(ぼうこん)」『と呼ばれる生薬で、利尿、消炎、浄血、止血に効用がある薬草として使われる』とあった。]
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