「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 晩秋哀語
晩 秋 哀 語
ああ秋も暮れゆく
このままに
故鄕にて朽つる我にてはよもあらじ
草の根を嚙みつつゆくも
のどの渴きをこらへんためぞ
畠より疲れて歸り
停車場の裏手なる
便所のほとりにたたずめり
日はシグナルにうす赤く
今日の晝餉に何をたうべむ。
――故郷前橋にて――
[やぶちゃん注:初出は大正二(一九一三)年十一月号『創作』。それを以下に示す。
晩秋哀語
あゝ秋も暮れゆく
このまゝに
故鄕にて※つる我にてはよもあらじ
草の根を嚙みつつゆくも
のどの渴きをこらへんためぞ
畠より疲れて歸り
停車場の裏手なる
便所のほとりにたたずめり
日はシグナルにうす赤く
今日の晝餉に何をたうべむ
(故鄕前橋にて)
「※」は「朽」の六画目に五画目の下方に横画を入れたもの。「杇」の(つくり)の一画目と二画目の間を三画目のそれが二画目が貫いた字。植字製造工が誤って作ってしまった活字に過ぎないと思われる。
次に初期形である「習作集第九巻」の「晩秋」を以下に示す。
晩秋
あゝ秋も暮れ行く
このまゝに
故鄕にて朽つる我にてはよもあらじ
草の根をかみつゝ行くも
のどの渴きをこらへんためぞ
畠麥畑よりつかれて歸り
(停車場の)
前橋驛の裏手なる
便所のほとりにたたづめり
日はシグナルにうす赤く
今日の晝餉に何をたうべむ、
(故鄕前橋にて)
個人的には、後半部に強く共感する。屎尿の臭いが極めて効果的である。これは、今の若者には判るまい。]
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