「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 幼き妹に
幼 き 妹 に
いもうとよ
そのいぢらしき顏をあげ。
みよ兄は手に水桃(みづもも)をささげもち
いつさんにきみがかたへにしたひよる
この東京の日くれどき
兄の戀魚は靑らみてゆきて
日每にいたみしたたり
いまいきもたえだえ
あい子よ
ふたり哀しき日のしたに
ひとしれず草木さうもくの種を硏ぐとても
さびしきはげに我等の素脚ならずや。
ああいとけなきおんみよ。
[やぶちゃん注:底本の「詩作品年譜」に制作年月日を大正三(一九一四)年五月三日とする(初出クレジット参照)。この妹は五女のアイ。明治三七(一九〇四)年二月二十二日生まれで、朔太郎より十八歳も年下であった。当時、アイは満十歳、朔太郎はこの年の十一月一日で満二十八であった。初出は大正三(一九一四)年六月号『創作』。以下に示す。
幼なき妹に
いもうとよ、
そのいぢらしき顏をあげ。
みよ兄は手に水桃(みづもゝ)をさゝげもち、
いつさんにきみがかたへにしたひよる、
この東京の日くれどき、
兄の戀魚は靑らみてゆきて、
日每にいたみしたゝり、
いまいきもたえだえ、
あい子よ、
ふたり哀しき日のしたに、
ひとしれず草木(そうもく)の種を硏ぐとても、
さびしきはげに我等の素脚ならずや。
ああいとけなきおんみよ。
―一九一四、五、三―
草稿は現存しない。]
« 「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 春日 | トップページ | 「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 山頂 »