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2021/10/10

「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 幼き妹に

 

  幼 き 妹 に

 

いもうとよ

そのいぢらしき顏をあげ。

みよ兄は手に水桃(みづもも)をささげもち

いつさんにきみがかたへにしたひよる

この東京の日くれどき

兄の戀魚は靑らみてゆきて

日每にいたみしたたり

いまいきもたえだえ

あい子よ

ふたり哀しき日のしたに

ひとしれず草木さうもくの種を硏ぐとても

さびしきはげに我等の素脚ならずや。

ああいとけなきおんみよ。

 

[やぶちゃん注:底本の「詩作品年譜」に制作年月日を大正三(一九一四)年五月三日とする(初出クレジット参照)。この妹は五女のアイ。明治三七(一九〇四)年二月二十二日生まれで、朔太郎より十八歳も年下であった。当時、アイは満十歳、朔太郎はこの年の十一月一日で満二十八であった。初出は大正三(一九一四)年六月号『創作』。以下に示す。

 

 幼なき妹に

 

いもうとよ、

そのいぢらしき顏をあげ。

みよ兄は手に水桃(みづもゝ)をさゝげもち、

いつさんにきみがかたへにしたひよる、

この東京の日くれどき、

兄の戀魚は靑らみてゆきて、

日每にいたみしたゝり、

いまいきもたえだえ、

あい子よ、

ふたり哀しき日のしたに、

ひとしれず草木(そうもく)の種を硏ぐとても、

さびしきはげに我等の素脚ならずや。

ああいとけなきおんみよ。

          ―一九一四、五、三―

 

草稿は現存しない。]

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