「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第二(淨罪詩篇)」 罪の巡禮 / 本篇を含む四篇が記された原稿を復元 「第二(淨罪詩篇)」~了
罪 の 巡 禮
われは巡禮
わがたましひはうすぎそめ
てのひらに雪をふくみて
ほの光る地平をすぎぬ。
[やぶちゃん注:底本では『遺稿』とし、推定で大正四(一九一五)年とするが、これは幾つかの理由から大正三年の可能性が高い(以下に述べるように、同じ原稿に大正三年に書かれたと推定される「春日詠嘆調」が記されてあるからである)。筑摩版全集では、「未發表詩篇」に以下のように載る。
われは罪の巡禮
われは巡禮
わがたましひはうすぎそめ
てのひらに雪をふくみて
ほの光る地平をすぎぬ
と最後の句点を除き、相同である。編者注があり、『以上「窓」「(指と指とをくみあはせ)」「罪の巡禮」と拾遺詩篇「春日詠嘆調」の草稿の四篇は同じ原稿用紙に書かれている』とある。この「窓」は、先の
「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第二(淨罪詩篇)」 (無題)(犯せるつみの哀しさよ) / [やぶちゃんの呟き:原稿は、これ、不思議なパズルのようである。]」
の注で、
「(指と指とをくみあはせ)」も「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第二(淨罪詩篇)」 (無題)(指と指とをくみあはせ)」
でそれぞれ電子化してある。「春日詠嘆調」の草稿も
『「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 述懷 (「春日詠嘆調」の草稿)』
の注で電子化した。煩を厭わず、原稿を復元してみよう。順番は編者注に従い、各詩篇の間は二行空けた。無題のものの傍点「ヽ」は太字に代えた。
*
たそがれ
窓
犯せるつみのかさしさよ
日もはやたそがれとき
3いえすの素足やわらかに
4ふりつむ雪のうへをふみゆけり
2うすぎの窓にたれこめて
1犯せるつみのかさしさよ
ざんげの淚せきあへず
1 2日もはやたそがれにちかけれづけば
○
あなたのとほとき奇蹟(ふしぎ)により
~~~~~~~
指と指とをくみあはせ
高くあかげたるつみびとの
かゝるあはれいのりの手のうえに
まさをの雪はまさにふりつみぬ、
われは罪の巡禮
われは巡禮
わがたましひはうすぎそめ
てのひらに雪をふくみて
ほの光る地平をすぎぬ
○
ああいかれはこそきのふにかはる
きのふにかわるわが身のうへとはなりもはてしぞ
けふしもさくら芽をつぐのみ
利根川のながれぼうぼうたれども
あすはあはれず
あすのあすとてもいかであはれむ
あなあはれやぶれしむかしの春の
みちゆきのゆめもありやなし
おとはてしみさろへすぎし雀の子白雀の
わが餌葉をばゆびさきに羽蟲などついばむものをしみじみと光れるついばむものを。
述懷
――敍情詩集、滯鄕哀語扁ヨリ――
ああいかなればこそ、
きのふにかはるわが身のうへとはなりもはてしぞ、
けふしもさくら芽をつぐのみ、
利根川のながれぼうぼうたれども、
あすはあはれず、
あすのあすとてもいかであはれむ、
あなあはれむかしの春の、
みちゆきのゆめもありやなし、
おとろへすぎし白雀の、
わがゆびさきにしみじみとついばむものを。
*
現在、これらを一緒に纏めて見ることは、出版物では不可能である。しかし、或いは、ここにこそ、萩原朔太郎の詩作の共時的感覚が見えてくると言えないだろうか?]
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